暦の上ではすでに秋だが、暑さはまだまだ続いている。

バケーションを楽しんだ人もこれからの人も、東京のレストランで晩夏を謳歌してみては?

人気フレンチが新天地で再始動した『メゾン ナルカミ』、少量コースとアラカルトで楽しむ和食店『白金 芯』、中華の名店『桃の木』のシェフが自身の名を冠した新店『KOBAYASHI』、代々木上原で愛された『エンボカ』のピザが味わえる『GRIN』。

美食を愛する大人たちにおすすめしたい、珠玉の新店を厳選した!


1.新天地となる“鳴神邸”で、一段上の研ぎ澄まされた品々ともてなしに背筋が伸びる
『メゾン ナルカミ』@湯島



2024/5/7 OPEN



カウンター背後に飾られているのは、故郷・兵庫県の伝統工芸品「赤穂緞通」。最初の店のオープン時に、実父から贈られた思い出の品だという。時を経て、しっくりと調和する空間に彩りを添えている

和の空間でありつつ異国情緒が漂う。このカウンターは新しい刺激に満ちている


2003年、銀座『NARUKAMI』を開店し、2009年西麻布へ移転。2014年に南青山に移り店名を『鳴神』と改め、今年5月。理想的な一軒家と巡り合い『メゾン ナルカミ』として再始動した。

オーナーシェフの鳴神正量(まさかず)さんは、その時々でしなやかに進化を続けてきた。

ロアンヌの三ツ星レストラン『メゾン・ド・トロワグロ』では魚部門の責任者を務めるなどフランスでも活躍した経歴を持つが、フレンチのフォーマットには固執せず「日本人の自分ならではの表現」を追求している。


フレンチの骨格と和の粋が融合した、好奇心を刺激する独自の世界へ


そんな鳴神さんに相応しい日本家屋で供されるのは、確かな技術と鋭敏な感性をベースに、時にエキゾティック、あるいはミステリアスな要素をちりばめた、めくるめく“鳴神料理”だ。



味が想像できないビジュアルがインパクト大の「甘海老の紹興酒漬けのサラダ 〜タバスコチーズと岩海苔とビーツのシャーベット〜」


たとえば、甘海老の前菜にはクミンパウダーやタバスコ、ナンプラーなどを忍ばせ、それらをまとめ上げるのは、なんと岩海苔。




貝の旨みがアスパラガスの味わいを増幅させる「アスパラガスのお料理 ウニ 磯つぶ貝 三重のハマグリの玉手箱」。



南フランスでポピュラーなアーティチョークの蒸し煮と新鮮な魚介を合わせた「キンキ 子持ち小ヤリイカ 茨城のアーティチョーク バリグール仕立て」。料理はすべてコース(¥18,000)の一例


ひと皿ごとに好奇心をくすぐられ、心の底から没入してしまうこと請け合いだ。



2.大人の奔放な食欲を柔軟に満たす「少量コース+アラカルト」という新提案
『白金 芯』@白金高輪



2024/6/2 OPEN



白金高輪駅からは徒歩8分ほど、四の橋商店街にほど近い一角に。装飾を一切排したストイックな店構えが、かえって興味をそそる

美食に慣れた人ほど通いたくなる、白金に誕生した看板なき一軒


恵比寿で“人気店”の称号をほしいままにする居酒屋の料理長が、満を持して自身の城を構えた。

『白金 芯』の店主・前田 亮さんが独立の地として選んだのは、個性ある名店が点在する白金高輪。商店街の目と鼻の先、という立地ながら、不思議と静かで落ち着いたブロックに店はある。



柔らかな色調に心癒やされる店内。雲のように弧を描いた欅のカウンター、壁面に施した金継ぎの技法などがさり気なく個性的


『創和堂』に入る前には、京都の老舗仕出し料理店『京趣味 菱岩』で10年、銀座『割烹室井』で2年の研鑽を積んだ前田さん。

しっかりとした修業経験から生み出される料理には、新店ながら安定感が漂う。

5品から成る軽めのおまかせコースをいただいたら、豊富なアラカルトメニューから追加注文してさらに料理を楽しむもよし。

あるいは軽めの酒肴とともに日本酒やナチュラルワインをゆっくり嗜むもよし、という自由度の高いスタイルも、なんとも魅力的。




「鰻の地焼き 玄米、梅、ひじき」は、古伊万里の華やかな器で。

故郷・高松で同級生が営む「入船醤油醸造場」の生醤油を塗って焼き上げた鰻に、ほうじ茶で炊いた玄米と煎り酒で戻したひじき、梅を合わせて。




みょうがが香る「とうもろこしの春巻き」。ともにコース(¥11,000)の一例。



大阪・南河内の郷土料理「かすうどん」(¥800)はアラカルトより。木の芽、山椒などを添えて爽やかな仕上がりに


経験値の高い大人のわがままも懐深く受け止めてくれる、うれしい新星が出現した。



3.“守破離”の心意気で、さらなる高みを目指すレジェンドシェフの新たなステージ
『KOBAYASHI』@六本木



2024/6/6 OPEN



ウォールナットの一枚板のカウンターは、ゆったりと過ごせる仕様。調理中の音や香りを体感できる客席は、極上のプラチナシートだ

炎を操る巨匠の姿を眼前に。五感を満たす、贅沢な体験がここにある


中国料理店『桃の木』でミシュランの星を長らく獲得し続けた料理人・小林武志さんは、今年次なるステップへ踏み出した。自身の名を冠した新店の料理長に就任したのだ。

飯倉の交差点にほど近い閑静な一角にオープンした『KOBAYASHI』は、「ULTRA・K」と名付けられたカウンターと5つの個室から成る。


中華の先端をひた走る“攻め”の料理に圧倒され、美しきひと皿に息を飲む

「“より美味しく、より美しい料理”を常に考え続けている」という小林さん。カウンターに立ち、ゲストの目の前で料理を仕上げるのは、長い料理人人生の中でも初の経験だとか


前者では“シン・KOBAYASHI 中国料理”をテーマに、既存のチャイニーズにとらわれない、小林さんの“最新型”を味わえるコース(¥38,500〜)を。

一方、後者ではこれまでのキャリアで不動の評価を得てきたスペシャリテのコース(¥24,200〜)を提供する。




「KOBAYASHIとNUMAMOTO」は、四川料理の名品「水煮牛肉(シュイジューニューロー)」の進化版。

ミートスペシャリストの沼本憲明さんが選ぶ「高森牛肉」を使い、豊かな旨みと上品な食後感が共存。



「KOBAYASHI特製XO醤 ULTRA style」は、干し貝柱と金華ハムをふんだんに使った自家製XO醤の魅力を最大限楽しめる調理法として編み出された、アヒージョスタイルの一品。この日は、活伊勢エビと大きなハマグリにXO醤の旨みが溶け込んだオイルをたっぷり纏わせて


「長年温めてきたアイデアを思いっきり表現できる場ができた」と意気軒高な小林さん。

準備期間中にはフレンチやイタリアンで研修を受けるといったインプットも。変化を恐れず、アップデートする姿に感銘を受ける。



4.『エンボカ』のピザを再び東京で。清涼な御苑の地で無二の味に邂逅する
『GRIN』@新宿御苑前



2024/6/18 OPEN



広々としたカウンターにはインドの花崗岩を使用。この天板をはじめ、個性的な店内には、余った建築資材を巧みに活用されている

独創的な野菜のピザの復活に、食通たちが色めき立っている


軽井沢で創業し、東京・代々木上原でも人気を博したレストラン『エンボカ』。オーナーの、卓越したクリエイティビティから生み出される、旬の野菜を大胆に使ったピザは多くの人に愛されていたが、2022年に惜しまれつつ閉店した。

が、6月にオープンした『GRIN』のシェフ・佐々木幸治さんは、縁あって『エンボカ』のピザのレシピを継承。あのピザを、東京で再び味わえることとなった。

店の内装は、広尾『メログラーノ』、麻布十番『すぎ乃』といった人気の飲食店やアパレル、ホテルなどの空間デザインを数多く手掛けてきた設計事務所「SAWS inc.」。

それだけに、木材をメインに石を組み合わせるなど、ミッドセンチュリーをテーマにデザインされた空間は、ナチュラルで心地良い空気感に満たされている。




主役のオクラと、味噌と青唐辛子と国産モッツァレラチーズの風味が溶け合ってえも言われぬ相性の良さを見せる「オクラ」と、定番「マルゲリータ」のハーフ&ハーフ。¥2,500。




「新潟もち豚の自家製サルシッチャ」(¥2,200)などピザ窯を活用した一品料理も豊富。



「OPEN BOOK レモンチェッロソーダ」(¥900)。ゴールデン街に本店を構え、この店の近くに支店もあるレモンサワー専門バー『OPEN BOOK』に別注した特製レモンチェッロを使用


新宿御苑の木々を愛でながら、生産者から直送された旬の素材を主役に据えた料理と、ナチュラルワインやクラフトビールに舌鼓を打ちたい。


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