鳴り物入りで始まった「新プロジェクトX」だが…(公式HPより)

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 4月から鳴り物入りでスタートした「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」(NHK総合・土曜19時30分)の放送がない。オリンピック期間中だったこともあるが、これまで4カ月以上にわたり放送されたのは15回。そのうち旧作の再放送が3回、新作は12回だ。しかも――。

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 旧シリーズの「プロジェクトX」は2000年3月28日から05年12月28日まで放映された。戦後復興や高度経済成長をテーマに、ダム工事や製品開発などの現場で直面した難問をどう克服し、成功に至ったかを紹介した。これが中高年を中心に評判を呼び、世帯視聴率は20%を超えることもあった(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同)。

鳴り物入りで始まった「新プロジェクトX」だが…(公式HPより)

 これを18年ぶりに復活させたのが「新プロジェクトX」だ。旧シリーズ同様、ナレーションは俳優の田口トモロヲ、主題歌も中島みゆきの「地上の星」を起用。キャスターとしてヨーロッパ総局の副総局長だった有馬嘉男氏をわざわざ呼び戻すほどの力の入れようで、NHK水戸局の森花子アナとともにMCを担当している。

 放送スタート後の4月17日、NHKの稲葉延雄会長は定例会見でこう語っていた。

《「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」は、4月6日に「東京スカイツリー 天空の大工事」、4月13日に「弱小タッグが世界を変えた〜カメラ付き携帯 反骨の逆転劇〜」を放送しました。(中略)平成・令和の時代について、評論家の方々などが「失われた30年」とおっしゃることがすごく気になっておりました。失われたということで消されてしまうような歴史ではなくて、さまざまな方々が、産業界を中心に、バブル崩壊後の再生や、災害に打ち勝って豊かな生活を構築することに努力されてこられたし、勇気を与える行動をしてきたことだと思っています。そうした方々が多くいらっしゃることを知っていたので、今回このような番組で取り上げるということを聞いて、大変喜んでおります》

 稲葉会長の言葉通り、新シリーズはバブル崩壊以降の「失われた時代」が舞台となっている。4月20日放送の第3回は「約束の春〜三陸鉄道 復旧への苦闘〜」で、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手・三陸鉄道の復活を描いた。ところが――、NHK関係者は言う。

第4回で再放送

「4月27日、第4回の放送は『厳冬 黒四ダムに挑む〜断崖絶壁の輸送作戦〜』で、これは2000年6月27日に放送された旧シリーズの再放送でした。鳴り物入りでスタートしたわりには1カ月で早くもネタ切れかと思ってしまいました。そもそもNHK上層部の肝いりでスタートした番組ですからね」

 それにしても、NHKはよくよく黒四ダムがお好きなようだ。再放送した回のほかにも、旧シリーズでは05年10月に2週にわたって取り上げている。また、02年に中島みゆきが「紅白歌合戦」に初出場した際には、黒四ダムから生中継したことを覚えている方も少なくないだろう。

「5月11日の第5回は『世界最長 悲願の吊り橋に挑む〜明石海峡大橋 40年の闘い〜』、5月18日の第6回は『友とつないだ自動車革命〜世界初!5人乗り量産EV〜』と題して2010年12月に販売された日産リーフの開発物語を放送しましたが、当初はサブタイトルに“5人乗り”という言葉は入っていませんでした。放送後、世界初の量産EVは09年7月に販売された三菱i-MiEV(4人乗り)であることが判明したため、サブタイトルを変更したのです」

 さらに、第1回放送のスカイツリーに関しても、公式ホームページで《構造設計を担った日建設計の小西厚夫氏が耐震性を高めるために心柱を生み出した際の思いについて、「あらゆる地震、たとえ東海、東南海、南海地震が同時にやってきても耐えられるように」と番組として表現しました。しかし、当時、小西氏がより強く意識していたのは、「大きな地震の後もスカイツリーから放送電波を出し続け、被災地に情報を届けること」でした》と訂正されている。NHKオンデマンドでは、この部分のナレーションを変更して配信している。

旧シリーズの問題点

「早くもほころびが出てきました。実は旧シリーズも、さまざまな矛盾や事実誤認が指摘された番組でした。中でも05年5月10日放送の『ファイト!町工場に捧げる日本一の歌』は、荒れていた高校に熱血教師が現れて合唱部を作り、全国コンクールで金賞を取るまでを描いたドラマ『スクール☆ウォーズ〜泣き虫先生の7年戦争〜』(TBS)さながらの内容だったのですが……」

 番組放送後にOBから「事実と異なる」という指摘が複数寄せられ、高校からも再放送の中止などを求める書面が提出された。これに対しNHKは、高校の荒れ方を描くのに暴走族の資料映像を使ったこと、「退学者が毎年80人」と裏付けのない数字を使ったこと、確認せずに「コンクール会場にパトカーが来た」とした点など、行きすぎた表現があったことを認めて謝罪することに。

「この放送がきっかけで、旧シリーズは終了したと言われています。テレビマンとしてドラマチックに演出したくなる気持ちはわからなくはありませんが、ここまで行くとヤラセと言われても仕方ない。その当時、現場では『取り上げる対象がなくなってきた』という声が上がっていたそうです。そのスタッフを再集結させたのが新シリーズです」

 稲葉会長は《(番組で取り上げるべき人が)多くいらっしゃることを知っていた》と語っていたが、新シリーズは6月1日の第8回も再放送に。

五輪宣伝企画も

「6月15日の第10回『世界最速へ 技術者たちの頭脳戦〜スーパーコンピューター「京」〜』では、開発責任者である井上愛一郎氏が全く登場しなかったことへの疑問を井上氏の家族がXに投稿し、ネット上で話題となりました」

 6月29日の第12回も再放送となり、翌週の第13回は黒柳徹子をゲストに迎え、彼女が卒業したトモエ学園を紹介した。

「特別編と謳ってはいたものの、なんだか違和感を覚えましたね。さらに、第14回は『男子バスケ 世代を越えた逆転劇〜オリンピック 48年の挑戦〜』、第15回は『なでしこの花咲く日まで〜サッカー女子 不屈のバトンリレー〜』とパリ五輪の宣伝企画のような内容となり、そのまま五輪中継に突入しました」

 パリ五輪が終わって通常編成に戻ったが、今も「新プロジェクトX」の放送はない。

「最新作は8月31日放送の『祈りの塔 1300年の時をつなぐ〜国宝 薬師寺東塔 全解体修理〜』です。旧シリーズは足かけ5年以上、190本近い作品を放送しました。毀誉褒貶はありますが、やり切ったとも言えるでしょう。新シリーズはバブル崩壊後の“失われた時代”を主戦場にしているものの、正直言って、その時代の日本に番組のネタになるようなテーマがそれほどあるとは思えません」

 視聴率はそれほど悪くないという。

「『ニュース7』が終わった途端に始まる田口トモロヲのナレーションと中島みゆきの『地上の星』に引きつけられる視聴者は少なくないのでしょう。しかし、視聴率は初回の個人6・6%、世帯11・6%が最高で、徐々に下がってきています。局内では早くも、クオリティーを含め番組継続は大丈夫なのかという声が上がり始めており、番組スタッフに冷たい目が向けられています。肝いりで始めてしまっただけに、1年で打ち切ることはないと思いますが、こうなったら“『新プロジェクトX』という番組存亡の危機”でもテーマにしたらどうかなんて陰口も聞かれています」

デイリー新潮編集部