中国の不動産市場「負の三重スパイラル」の呪縛
不動産市況の悪化は、中国経済全体の回復の足を引っ張っている。写真は経営危機に陥っている不動産大手、恒大集団の開発物件(同社ウェブサイトより)
「中国で新型コロナウイルスの防疫対策が緩和されてから1年以上が過ぎたが、中国経済の回復は期待された水準に達していない。その最大の原因は、不動産市況の悪化に歯止めをかけられていないことだ」
野村グループの中国担当首席エコノミストを務める陸挺氏は7月27日、広東省深圳で開催された経済フォーラムでそんな見解を示した。
陸氏が指摘するように、中国の不動産市場の現状は惨憺たるものだ。国家統計局のデータによれば、2024年上半期(1〜6月)の中国全土の新築住宅販売面積は4億7900万平方メートルと前年同期比19%減少した。
値下がりが値下がり呼ぶ
上半期の新築住宅販売総額は4兆7100億元(約99兆8638億円)と前年同期比25%落ち込み、販売面積の減少率を上回った。これは単位面積当たりの住宅価格の下落を反映している。市場の先行きを占う新規住宅着工面積は、上半期は3億8000万平方メートルと前年同期比23.7%縮小した。
「これらのデータは、今回の不動産不況のパターンがかつての不況とはまったく異なることを物語っている。中国の不動産業界は目下、3つの『負のスパイラル』に同時に直面している」(陸氏)
陸氏の解説によれば、第1の負のスパイラルは住宅の価格と販売量の間で生じている。過去3年間、中国の多くの都市で住宅価格が下落したにもかかわらず、それが(かつての不況時とは異なり)消費者の住宅購入意欲の高まりにつながっていない。むしろ、値下がりがさらなる値下がりを呼ぶ悪循環に陥っている。
第2の負のスパイラルは、いわゆる「保交房」(訳注:不動産デベロッパーが消費者に予約販売した住宅物件の完成・引き渡しを確実に履行させること)の過程で生じている。
「保交房」の問題は地方都市から大都市に波及しつつある。写真は経営危機に陥っている不動産大手の碧桂園控股が分譲したマンション群(同社ウェブサイトより)
資金繰りが悪化しているデベロッパーに「保交房」の徹底を求める(政府や消費者からの)圧力は、以前は地方都市に集中しており、大都市ではそれほど深刻な問題ではなかった。ところが、今では(保交房を最優先したための)新築住宅の品質低下の問題が大都市にも波及し、消費者の購買意欲に悪影響を与えている。
第3の負のスパイラルは、住宅販売の縮小がさらなる縮小に連鎖する悪循環だ。デベロッパーは売り上げの減少で新たな開発用地を仕入れる余裕がなくなり、地方政府は土地の払い下げに依存した財政収入が激減。巡り巡って不動産市場全体の収縮を引き起こしている。
中央政府が財政支援を
「今回の不況が始まる前は、不動産市場は中国のGDP(国内総生産)の約4分の1を生み出し、ピーク時には(土地の払い下げ収入が)地方政府の財政収入の4割近くをもたらしていた。当時、中国国民の総資産に占める不動産の比率は7割に近づいていた」
陸氏はそう述べ、不動産市場の負の三重スパイラルが中国経済全体に与える打撃の深刻さを指摘する。
では、不動産市況の悪化に歯止めをかけ、中国経済を牽引する力を回復させるためにはどうすればいいのか。
陸氏によれば、最優先の課題は新築住宅市場のテコ入れだ。中国の新築住宅は(販売段階では未完成の)予約販売がほとんどであり、「保交房」が徹底されなければ市場の信用が醸成されず、消費者の購買意欲は回復しないという。
「現時点では『保交房』の徹底が何より肝心だ。中央政府が財政支援を通じて、それをサポートすることが望まれる」。陸氏はそう強調した。
(財新記者:陳博)
※原文の配信は7月29日
(財新 Biz&Tech)