楽天グループの三木谷浩史会長兼社長(筆者撮影)

いよいよ楽天も自社の持つデータベースをAIに活かす戦略に出た。楽天グループは8月1日に自社イベント「Rakuten Optimism 2024」を開催。そこで三木谷浩史会長兼社長は、生成AIを活用した新サービス「ユニバーサルコンシェルジュ」を近日中に提供開始すると発表したのだ。

楽天の多様なサービスと直接連携したAIアシスタント

「ユニバーサルコンシェルジュ」は、楽天グループのサービスを横断し、対話型でユーザーのさまざまな要望に応えるAIアシスタントだ。三木谷氏は講演の中で、「楽天グループのユニバーサルコンシェルジュ、楽天グループのすべてを包含したコンシェルジュサービスがもうすぐスタートする」と述べた。要するに、楽天は自社サービスと連携するChatGPT風のチャットサービスを提供する計画だ。

デモンストレーションでは、幅広い質問に対応できることが示された。ユーザーが「レモンタルトの作り方を教えてほしい」と聞くと、AIはレシピを答えた。続いて「タルトに合う小麦粉がほしい」という質問には、楽天市場の商品を検索して候補を表示。さらに「500円以内で」と条件を絞り込むこともできた。また、「ゴルフ初心者の女性でも使いやすいゴルフクラブはある?」といった複雑な質問にも対応できることが示された。


「ユニバーサルコンシェルジュ」は対話形式で楽天市場の商品を提案する能力を持つ(筆者撮影)

このAIアシスタントは楽天のさまざまなサービスと連携し、例えばぐるなびと連携して飲食店を推薦したり、楽天トラベルと連携して旅行プランを提案したりする。将来的には、楽天カードの利用履歴を分析し、個人に合わせたクレジットカードや携帯電話サービスの提案も可能になるかもしれない。

ただし、現時点では正式な提供時期や詳細は明らかになっていない。楽天グループ広報部によると、「ユニバーサルコンシェルジュ」は実験的な機能であり、詳細は未定とのことだ。

AIを活用した検索サービスは、すでにBingやOpenAIの「SearchGPT」などが存在する。これらは楽天のサービスとは直接競合しないものの、質問に対して詳細な回答を提供する点では類似している。楽天の強みは、自社の多様なサービスと直接連携できる点だ。

これらのサービスは、楽天が目指すショッピングや旅行に特化したAIアシスタントとは直接競合しないものの、ユーザーの質問に対して検索ベースで詳細な回答を提供するという点では類似している。楽天の「ユニバーサルコンシェルジュ」は、同社の多様なサービスと連携することで、より具体的な商品推奨や予約支援といった実用的な機能を提供することを目指しているようだ。


楽天モバイルの料金プランの提案や、楽天証券のNISAの投資提案などをコンシェルジュ化する方針だ(筆者撮影)

三木谷氏は楽天の強みについて、「国内であればほとんどの方が楽天IDを持っていて、楽天グループの何らかのサービスを使っている」と述べ、約5000万人の国内ユーザーと、グループ全体で約18億人のID保有者がいることを明かした。さらに「Google、Amazon、Metaのようなハイパースケーラーと呼ばれる事業者も、楽天ほど幅広く深いデータを持っていないだろう」と断言し、楽天グループの多様な事業領域から得られるデータの価値を強調した。


楽天グループの会員数は世界で18億アカウントに上る(筆者撮影)

さらに、楽天は独自の大規模言語モデル(LLM)の開発も進めている。三木谷氏は、楽天が開発中の「Rakuten AI 7B」について言及した。このモデルは70億パラメータの比較的小規模なLLMだが、日本語の処理能力では世界トップクラスの性能を示しているという。

法人向けサービスにもAIを活用

楽天グループは、法人向けサービスにおいてもAIの活用を積極的に進めている。三木谷氏は「トリプル20」と呼ばれる取り組みを紹介した。これは、マーケティング効率、オペレーション効率、顧客のオペレーション効率を20%ずつ向上させることを目指すものだ。

楽天市場においても、AIを活用して出店者のビジネスを支援している。三木谷氏は「今までの店舗運営とかサービス運営とか、あるいはそういう店舗さんじゃない方もですね、ビジネスのやり方が根本的に変わっていく」と述べ、具体的な活用例を挙げた。画像分析や最適な画像作成、AIを中心としたマーケティングの最適化やプロモーションなどの機能を提供するという。

海外展開を視野に入れた機能も充実させる方針だ。三木谷氏は「日本の市場だけでいつまでも振っていけるかどうかわかりません」と述べ、翻訳機能、カスタマーサポート、流通、在庫管理、価格設定などにAIを活用する方針を示した。

さらに、「Rakuten AI for Business」という法人向けAIアシスタントの提供も発表された。これはChatGPTのようにさまざまな質問に答えて業務を効率化するアプリだ。


法人向けのAIアシスタント「Rakuten AI for Business」を提供すると予告(筆者撮影)

AIによって圧倒的に効率を上げていく

三木谷氏は自身の講演準備にもAIを活用していることを明かした。講演では、モバイルネットワークの重要性を人間の脳に例えて説明する部分があったが、実はこの例えもAIとの対話から得た情報に基づいていたという。

「私が今日お話しさせている、話のネタとかも、かなりAIから抽出しています」と三木谷氏は述べる。「人間の脳細胞って何個あるの?」「世界につながっているデバイスの数はいくら?」といった質問をAIに投げかけたことを明らかにした。これらの回答を基に、人間の脳細胞数(約1700億個)と世界のインターネット接続デバイス数(約750億個)を比較し、モバイルネットワークの重要性を説明したのだ。

三木谷氏は「AIが手元にあるということは、圧倒的に効率を上げていくことになる」とアピールした。


データ活用において楽天モバイルが基盤的な存在となると強調(筆者撮影)

(石井 徹 : モバイル・ITライター)