東京メトロ日比谷線の電車。同線の最混雑区間である三ノ輪→入谷間はピーク時の輸送人員が7000人以上増えた(撮影:尾形文繁)

一時期のガラガラな車内が幻だったかのように、再び混雑が当たり前となった都市部の通勤電車。鉄道の利用者数はコロナ禍前の水準には回復していないというものの、ラッシュ時の車内は以前とさほど変わらないレベルまで戻っているのでは……と感じる人もいるのではないだろうか。

国土交通省は8月2日、2023年度の都市鉄道の混雑率調査結果を公表した。3大都市圏主要路線の平均混雑率は、東京圏が2022年度比で13ポイント増の136%、名古屋圏が5ポイント増の123%、大阪圏が6ポイント増の115%に上昇した。

コロナ禍前の2019年度は東京圏が163%、名古屋圏が132%、大阪圏が126%。当時と比べれば混雑率は低い状態で推移しているものの、「通勤」が復活していることを裏付ける結果となった。

ワースト5の顔ぶれは?

混雑率は、ラッシュピーク時の1時間に最も混雑する区間を通る列車の輸送力(車両編成数×本数)と輸送人員(乗客数)に基づいて算出される。

今回国交省が公表したのは、全国のJR、私鉄、地下鉄などのうち237区間(同じ路線で複数区間を計測している場合もあるため路線数とは異なる)。2023年3月に開業した東急新横浜線が加わり、2022年度よりも1区間増えた。

国交省による混雑率の目安は、100%が「座席につくか、座席前の吊革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる」、150%が「肩が触れ合わない程度。ドア付近の人が多くなる」だ。

【独自集計したランキングを見る】混雑率100%以上の全国143区間のうち、混雑率ワースト1位は4年連続のあの路線。2・3位は意外な路線が急上昇。輸送人員が3000人以上増えた区間も一覧

データを集計すると、混雑率ワースト1位は4年連続で東京都営の新交通システム、日暮里・舎人ライナーの赤土小学校前→西日暮里間で171%。2位は、2022年度に6位だった広島電鉄宮島線の東高須→広電西広島間が140%から164%に急上昇してランクインした。

3位は2022年度に12位だった東京メトロ日比谷線の三ノ輪→入谷間で、こちらも135%から162%へ27ポイントも上昇した。4位はJR埼京線の板橋→池袋間で160%。5位は2022年度に2位だった西日本鉄道(西鉄)貝塚線の名島→貝塚間と、JR中央線快速の中野→新宿間が158%で並んだ。

混雑率が100%以上、つまり列車の定員を上回っているのは237区間のうち143区間で、2022年度に比べて17区間増加した。


輸送人員が示す「通勤」復活

以前は首都圏の「通勤の大動脈」が並んでいたワースト上位路線。コロナ禍以降は多少の利用者数の増減に混雑率のパーセンテージが大きく左右される、輸送力の小さい路線が目立つようになった。1位の日暮里・舎人ライナー、2位の広島電鉄宮島線、5位の西鉄貝塚線がこれに当たる。

日暮里・舎人ライナーは小型のゴムタイヤ式電車5両編成で運行する新交通システム。コロナ禍前から全国有数の混雑路線で、2016年度以降はワースト5の常連だ。ピーク時1時間当たりの輸送人員は2022年度比約800人増の8187人。これに対し輸送力はわずか17人分増の4788人分で、混雑率は16ポイント上昇して171%となった。

5位の西鉄貝塚線は2両編成の電車が走る福岡の郊外路線。ピーク時1時間当たりの輸送力は長らく2両×6本の1488人分で変化がない一方、輸送人員は2022年度比で70人増え、混雑率は154%から158%に悪化した。2022年度はワースト2位だったが、他線の混雑率上昇が上回ったためランキングでは5位に下がった。

一方、輸送力のアップを利用者数の増加が上回ったのが2位の広島電鉄宮島線(2号線)だ。広島市内中心部に直通する路面電車タイプの車両が使われており、輸送力は2022年度より300人分増えているものの、輸送人員は1000人以上増加した。コロナ禍前の2019年度データと比べても約1900人増えているが、これは「データの取り方が違うので比較はできない」(広島電鉄)という。

輸送人員が大幅に増えたのは、3位の東京メトロ日比谷線・三ノ輪→入谷間も同様だ。ピーク時1時間当たりの輸送人員は4万5271人で、2022年度よりも約7500人増加。2019年度比でも約2200人増えた。

2022年度と比較して輸送人員が3000人以上増えたのは26区間で、最多はJR常磐線各駅停車・亀有→綾瀬間の7660人。ほかにはJR京浜東北線、JR総武線快速、小田急小田原線、JR中央線快速、東京メトロ東西線など、かつての混雑率ワースト上位路線が並ぶ。混雑率は以前より低いが、オフィスへの出勤が再び増えつつあることを示しているといえるだろう。

測定区間が異なるケースを含めれば、最も輸送人員が増えたのは相模鉄道(相鉄)本線だ。2022年度、同線の最混雑区間は平沼橋→横浜間で輸送人員は3万3766人だったが、2023年度の最混雑区間は鶴ヶ峰→西谷間に変わり、輸送人員は4万2406人へ約8600人増えた。2023年3月に西谷から新横浜を経て東急線に直通する相鉄新横浜線が開業した影響とみられる。


一方、利用者の減少に応じた運行本数削減などでピーク時の輸送力が下がった路線もある。2022年度比で1000人分以上輸送力が減ったのは10区間。JR中央線快速は輸送力が1480人分減少した一方、輸送人員は5900人増えて混雑率が19ポイント上昇し、ワースト5入りにつながった。


ラッシュ時への「集中」今後も防げるか

コロナ禍で大幅に落ち込んだ鉄道の利用者数はかなり回復が進んだものの、以前の水準には戻らないとの見方が一般的だ。ただ、主に都市圏の通勤輸送を担う大手私鉄16社の輸送人員を見ると、すでに2000年代半ばのレベルには達している。2023年度の16社合計年間輸送人員は約93億4000万人で、これは2005年度の約91億2000万人を上回る。

一方で、混雑率は2005年度の大手私鉄主要区間平均が155%(日本民営鉄道協会データ)だったのに対し、同じ区間の2023年度平均を算出すると127%と低い。以前からかけ声だけは盛んだったものの、なかなか広がらなかった時差通勤がコロナ禍を機に浸透したことを示しているといえそうだ。今後も利用の分散などソフト面での対策を進めて、かつての「殺人的ラッシュ」を回避することが重要だ。

この数年で様変わりした働き方や通勤のあり方。鉄道の混雑率データは、都市部の人々の行動変化を映す1つの指標であることは間違いない。






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(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)