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(MCU)『『アベンジャーズ:ドゥームスデイ』との新タイトルが発表され、アイアンマン/トニー・スターク役としてMCUの顔役を務めてきたロバート・ダウニー・Jr.が、別の悪役ことが「サンディエゴ・コミコン2024」にて発表された。全世界が衝撃に包まれたこのビッグニュースについて、もう少し考えてみよう。

ドクター・ドゥームことヴィクター・フォン・ドゥームは、実験の失敗により顔を損傷した傲慢な天才科学者で、マーベル・ユニバース屈指の頭脳を持つ。『ファンタスティック・フォー』を逆恨みする最大の宿敵であり、ファンの間ではマーベル・ユニバース屈指の人気ヴィランだ。

人気の理由は、彼が一辺倒の悪役ではないところにある。ドクター・ドゥームは世界征服を企む最恐のヴィランだが、一方で彼の企みは彼なりのヴィジョンに基づいている。ドゥームはラトベリア王国の主であるが、国民からは信頼されており、マルチバースでは戦争や差別のない世界を実現。また、状況によってはヒーロー側について戦うこともある。

ドゥームの人柄を示す有名なエピソードとしては、9.11アメリカ同時多発テロ事件のトリビュート・コミックがある。テロ直後の現場にマーベル・ヒーローたちが駆けつけるこのコミックで、ドゥームは爆心地になす術なく立ちすくみ、テロ行為の非業さを目の当たりにしてマスクの下で静かに涙を流す。

こうした人気キャラクターであるだけに、トニー・スターク役としての印象があまりにも濃いロバート・ダウニー・Jr.が演じることに異を唱える声もある。ドゥームはロマ人であり、白人のダウニー・Jr.が演じるのはホワイトウォッシングだという声や、常にマスクを被っているというキャラクター最大の特徴が変更されてしまうのではという懸念が話されている。

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また、おそらく多くの人が想像しているように、ヴィクター・フォン・ドゥームが単にトニー・スタークの変異体となる可能性も賛否を招いている。これは事実上の設定変更となり、1962年のコミック初登場以来60年以上の長い歴史を持つドゥームの背景が、MCUの事情によって別物にされてしまうのではないかという考えだ。

マーベル・スタジオとしては、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)以降人気が低迷しつつあるMCUに、看板役者のダウニー・Jr.を連れ戻すことで再び関心を惹くという狙いがあるだろう。これはビジネス的には一定の妥当性を有しており、実際にコミコンの発表以降、SNSのトレンドやメディアの記事はダウニー・Jr.とドゥームの話題で持ちきりだ。今後、ファーストルックや初映像で正式に姿を見せれば、インターネットでは再び爆発的な話題を呼ぶことは間違いないだろう。一方で、ドゥームの背景をコミックに忠実に描こうとすれば、設定上に少なからぬ差異が生じることになる。ファンやメディアは、これらの二律背反の間で揺らいでいる。

まだ関係者らによって公言はされていないが、“ラスボス”ヴィランがからドクター・ドゥームに変更されたことも注目しておくべき点だ。映画のタイトルは『アベンジャーズ/ザ・カーン・ダイナスティ』から『アベンジャーズ:ドゥームスデイ』に変更となり、ロゴデザインもカーンを象徴する青色から、ドゥームの緑色に塗り替えられた。新たなラスボスとして大いなる期待を背負っていたジョナサン・メジャースのカーンは、デビュー作『アントマン&ワスプ:クワントマニア』(2023)の興業・批評的惨敗、そして演者の重大スキャンダルによって、マルチバースの彼方へと飛ばされてしまったのだ。

原作コミックにおいてカーン変異体のひとり(ラマ=タト)はドゥームと出会って強い影響を受け、マスクと鎧を身につけるようになるというエピソードがある。『クアントマニア』に登場した無数のカーン軍団はまだ後処理がされていないので、今後どこかの時点で物語上の“引き継ぎ”が行われるはずだ。それがカーンの送別会となるだろう。短い期間でしたが、お世話になりました……。

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なおダウニー・Jr.はアイアンマン役に起用される以前、『ファンタスティック・フォー』の単独映画でドクター・ドゥーム役に検討されていたことがあった。幻のキャスティングが時を超えて実現したわけだが、実は『&ウルヴァリン』にこの伏線があったと考えることができる。

次のページには、『デッドプール&ウルヴァリン』のネタバレが含まれています。

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公開中の映画『デッドプール&ウルヴァリン』では、デッドプールとウルヴァリンが神聖時間軸から逸脱した人やモノが送られる形而上学的な廃棄場、“虚無の地”に落とされ、そこでという展開がある。テイタムもかつてガンビット単独映画の主演として内定していたが、企画がお蔵入りになるという憂き目にあっていた。

つまり『デッドプール&ウルヴァリン』では、“実現しなかった幻のキャスティング”が虚無の地で人知れず生きているというメタ的な設定を可能にしたのだ。これに倣えば、ロバート・ダウニー・Jr.がキャスティングされていた世界線のドクター・ドゥームが剪定され、カサンドラ・ノヴァがそうしていたように、虚無の地で独自の王朝を築いているかもしれない。ドゥームはその支配国家をラトベリアと呼んでいるという可能性すらあるだろう。と戦っているかもしれない。現時点で、虚無の地がどれくらいの広さであるのかはよくわかっておらず、あの世界の地政学は探究の余地がある。

ダウニー・Jr.版のドゥームがどのような形で登場しようとも、マスクの下の素顔がトニー・スタークと同一であるということは、いくらなんでもスルーのしようがない。おそらくデッドプールやシー・ハルクに思い切りイジらせることで、観客の抱く気持ちをうまく解消させることだろう。

例えば劇中で、スパイダーマン/ピーター・パーカー(トム・ホランド)の前でそのマスクが剥がれ、正体がスタークさんそっくりの男であることにピーターが衝撃を覚えるというのはどうだろう。『スター・ウォーズ』ダース・ベイダーのような名場面となるかもしれない。

いまやオスカー俳優となったダウニー・Jr.は、果たしてどれほどマスクを着用したまま演じるつもりだろうか。仕事は選び放題であるダウニー・Jr.が、数年は時間を費やすことになるであろう『アベンジャーズ』の悪役を引き受けたのには、旧友ケヴィン・ファイギやルッソ兄弟からの頼みであるということ以外に何か魅力的な理由があったはずだ。

演技の世界においてマスクを被ったキャラクターには、『怪傑ゾロ』のゾロ、『オペラ座の怪人』のエリック、『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターなど歴史に名を残す象徴的な人物がいる。サンディエゴ・コミコンの壇上では、ドゥームは「全コミックの中で最も複雑なキャラクターのひとり」と紹介されていたが、ダウニー・Jr.は覆面でのパフォーマンスということについて、挑戦すべき、更新すべき指標があると睨んだのではないか。

なお、ダウニー・Jr.がドゥーム役を演じるというのは、他の俳優たちにとっても青天の霹靂だったようだ。この発表がなされた「ホールH」に先に登場していたキャプテン・アメリカ役のアンソニー・マッキーはレポーターにこのニュースを聞かされて絶句。同じく『サンダーボルツ*』のため登壇したエレーナ役のフローレンス・ピューも衝撃のあまり硬直し、「知らなかった……」と漏らしている。

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