永嶋 泰子 /

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いつだって新しい自分になれる

人はいつだって新しい自分になれます。

過去がどうだったというのは、あなたにとって単なる事実でしかありません。

大切なのは、これからあなたがどう生きるのかを決め、そして行動することです。

心理学者のカール・ロジャースの研究によれば自己理解の程度の指標がその後の行動に大きな影響を及ぼしているといいます。

自己理解とは、アイデンティティと置き換えることもできます。

つまり、「私は〇〇な人間である」というアイデンティティが、自分自身の立ち居振る舞いや態度といった行動に現れるのです。

逆に宇都生育環境や遺伝による影響はあまりないということも明らかになりました。

人は自分で自分に「私は〇〇である」という暗示をかけていて、そのとおりに人生を進めているのです。


アイデンティティ喪失の経験

私自身の経験でも思い当たる節があります。

私は、33歳の時に第一子を生後29日で亡くしました。

ショックのあまり今までの自分が当たり前にできたこと―――たとえば、朝起きてパジャマから洋服に着替える、朝ごはんをつくる、お湯を沸かすということができなくなった時期がありました。

何も考えずにできたことが、できなかったがゆえに、私はひとつひとつの行動を紙に書き出して冷蔵庫に貼って確認しながら行動していたくらいでした。

おまけに過去の記憶も思い出せなくなりました。

実は、第一子を亡くしたショックもさることながら、当たり前のことを当たり前にできなくなった自分へのショックも大きかったのです。

これは、私自身のアイデンティティを脅かす出来事でした。

「当たり前にできる私」から「何もできない私」へのショックが大きかったのです。

何もできない自分に打ちのめされ「私に生きている意味はあるのか?」ということを考えるまでになっていました。

そこで気が付いたのは、「いままで作り上げてきたものは、幻想にすぎないアイデンティティだったのだ」ということでした。

当たり前のことを当たり前にできる私は、単なる思い込みだったのだと気づいたのです。

当たり前に呼吸をすること、当たり前に朝を迎えること、当たり前にご飯を食べられること「おいしい」と感じられること。

すべては当たり前なんかではない。

むしろ奇跡の上に成り立っているのだと知ったのです。


生きることは奇跡の連続

そう、生きることは「奇跡の連続」。

だったら、この奇跡に感謝して生きよう、そう思うようになりました。

ただただ、生きているだけでいい。

何もできなくても、生きていること自体がすでに奇跡なのだから。

そう思うと、もはや自分ができないことは仕方ないと思えるようになりました。

できないことにフォーカスするのではなく、自分がしたいと思うことをやっていこう。

私がしたいことって何だろう?

それは、もう一度お母さんになって我が子を抱くことでした。

このときに私は「お母さんになる私」というアイデンティティをつくっていたのです。

そこからできることをコツコツと積み重ねました。

まず妊娠しづらい体質だったので、体質改善をはかるため規則正しい生活、和食を中心とした食生活、体温を上げるために1日1時間半以上歩くことを習慣にしました。

もちろん、すぐに結果が出ることはありませんでした。

さらに、お腹の大きくなった妊婦さんをみたり、赤ちゃん連れの家族を見るたびに、第一子を喪った悲しみに支配されそうな自分がいました。

その時期に、一番みたくないものでした。

自分が子どもを亡くしたわたしであることを突き付けられる現実。

そのたびに「お母さんになる私」というアイデンティティではなく、「子どもを亡くしたかわいそうな私」というアイデンティティに支配されそうになりました。


子どもを亡くしかわいそうな私

実際に、「子どもを亡くしたかわいそうな私」というアイデンティティがありましたし、そうしているとまわりの人は腫れ物に触るように優しくしてくれました。

ですが、「子どもを亡くしたかわいそうな私」になりたいわけでないことは、わかっていました。

やっぱり私は「お母さんになる私」でありたい。

そうあるために、妊婦さんや赤ちゃん連れをみたら“あれは将来の私なんだ”と言い聞かせることにしました。

新しい命がいつ授かるかということは、誰にもわかりません。

もしかしたら再び新しい命を授かることはないかもしれない。

けれども、結果的に新しい命を授からなかったにしても「お母さんになる私」というアイデンティティは最後の最後まであきらめないと決めたのでした。

その経験を経たからこそ、いまあなたに「人はいつだって新しい自分になれる」ということをお伝えすることができています。

どんな経験があっても「私は〇〇な人間である」と決めた瞬間から、あなたはそこに向かって進むことができるのです。

「お母さんになる私」というアイデンティティを選んだ私は、幸いなことにお母さんになることができました。とはいえ、妊娠継続がしづらい体質だったこともあり5ヶ月の管理入院を経ての出産でしたが、そこでもあきらめずにいられたのは「お母さんになる私」というアイデンティティでいつづけたからでした。

ずっと見守ってくれた助産師さんには、出産後に「まさか無事に出産できると思わなかったですよ」と言われたくらい状態がよくなかったにもかかわらず。


未来は新しくつくっていけるもの

未来というのは、だれにもわからないものです。

言いかえると、未来は新しくつくっていくもの。

あなたはいつだって新しい自分になれます。

過去がどうだったというのは、あなたにとって単なる事実でしかありません。

大切なのは、これからあなたがどう生きるのかを決め、そして行動することなのです。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

何か参考になれば幸いです。