ぷらむ:ヒップホップの世界で親と不仲で家を飛び出したり、お金がなくて大学に行けなかった知り合いを何人も見てきました。「書を捨て見てきた場所ならunderground/言葉と音から学んだ格差/大学に行く金なんかなかった/ペンすら握れない仲間が数多」という歌詞は、その人たちの顔を思い浮かべながら書いています。東大に限らず、広島大学や熊本大学など他の国立大学でも学費値上げを検討しているそうで、経済力ある家庭の子のみが教育を受けられるのは本来、学問があるべき姿に反すると思っています。

◆DJをつかった活動での効果を実感

 ――法念さんは6月3日からは駒場キャンパスの生協食堂前で1週間あまり、お昼休みに学費値上げ反対を訴えるDJ活動もされていました(その後、昼休みに別のイベントが始まり現在は休止中)。なぜ始めようと思ったのですか。

法念:当初は本郷のデモに参加していましたが、駒場でも運動の一つの形をつくろうと思ったからです。

DJをつかった活動は道ゆく学生にもかなり受けがよかったですね。実際、それを受けて「総長対話」の前後の集会でも主催からDJの要望があるなど、抗議活動の一つの形として一定の効果があったと実感しています。

◆キャンパス構内への警察導入は不要だった

――6月21日、大学側はオンラインの「総長対話」を開催しました。そのスタイルは多くの学生が視聴する中で、経営陣が学生を指名し「昇格」させ、発言権を与えるというものでした。

法念:学生にとって相当にアウェーな場であったことは間違いなく、さらに名前や所属が参加者全員に開示される状況で手を挙げるのは、かなり勇気が必要です。もっと多様な学生がより気軽に発言できる場所をつくる配慮が必要だったと思います。

ぷらむ:学生の質問に対して、経営陣からは「検討している」という受け答えが多く、「対話」を謳いながら、実際には大学と学生は対等ではないと感じました。

――総長対話後も、抗議活動を続けていた学生の一部が安田講堂に侵入しようとし、警備員が負傷したとして大学側は警察を呼び、後日、教養学部学生自治会が非難声明を出す事態へと発展しました。

法念:大学には国家権力等に対し自治を守ってきた歴史があり、大学は警察の導入には極めて慎重であるべきです。さらに東大の場合、学生の代表団と大学本部とが、原則として学内紛争解決の手段として警察力を導入しないという約束を含んだ確認書を1969年に結んでもいます。そしてこれまでの報道や大学の発表を踏まえると、今回の事態に際して警察の導入は不要であったと考えています。

◆引き続き、声をあげ続ける

――7月12日、東大は翌年度の入学者選抜要項を発表しましたが、学費値上げについては触れられず、11月までに結論を出すと説明されました。これを聞いてどう感じましたか。

ぷらむ:自分たちの活動が直接影響したかはわかりませんが、学生側からの働きかけがなければ、大学当局は総長対話の前に値上げを決めていたと思います。そういう意味では、一旦の「勝利」だったと感じます。

法念:反対運動の一定の「勝利」ではあると思いますが、学費値上げに反対する声が多数あがった「総長対話」で総長は、「学生の声を聞かずにトップダウンで決めることは考えていない」と発言しており、検討の継続は本来当然のことです。受験直前の秋に学費値上げが決定される方がむしろ受験生を混乱させますから、我々は引き続き、意思決定プロセスへの学生の参画と学費値上げの撤回とを求め、声をあげ続けていきます。

有名進学校から入学し、有名企業に就職していく学生が多いこともあり、これまで東大生に対してどこか保守的なイメージを持っていたことは否めない。今回の抗議活動が起こったことで、反骨心に溢れる学生が学内にこれほど多かったのかと驚かされた。2人も含め、学生達の訴えが大学側の結論にどのような影響を与えるのか、視線を送り続けたい。

<取材・文・撮影(一部)/松岡瑛理>

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部へ。『週刊朝日』時代には「東大・京大合格者ランキング」を始め、教育・大学分野の記事を担当した。 Xアカウント: @osomatu_san