柔道・新添左季の『ハイキュー‼』愛が深すぎる「パリ五輪はクロが言っていたごほうびタイム」
柔道の女子日本代表70kg級でパリ五輪に出場する新添左季(自衛隊体育学校)。投げ技を得意とし、2023年のドーハ世界柔道選手権大会で優勝して自身初の五輪内定を勝ち取った。
そんな彼女はバレーボールが好きで、東京で開催されたパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023の観戦で会場に足を運んだこともある熱心なファン。さらに『ハイキュー!!』の大ファンであり、自身が競技する際にエネルギーをもらうことが多々あるという。今回はパリ五輪への意気込みとともに、バレーボールや『ハイキュー‼』への愛を語ってもらった。
自身の『ハイキュー‼』コレクションを紹介してくれた新添左季 photo by Sakaguchi Kosuke
――まず、バレーボールを好きになったきっかけから聞かせてください。
「私はいろんなスポーツを見るんですが、漫画から入ることが多いんです。野球やサッカー、バスケットボールにアメリカンフットボール......。『週刊少年ジャンプ』の作品が多いかもしれませんね。バレーボールも同じ流れで好きになりました。
昔からアニメや漫画が好きで、特にスポーツを題材にした作品は、作中のとんでもない練習量と現実を比べて『(自分の練習は)これよりはキツくないぞ』と、自分のメンタルを保っていました。『ハイキュー!!』は面白いと聞いていて、いざ読んでみたら、どハマりしました」
――それまで、バレーにはどんなイメージを持っていましたか?
「テレビで試合を見るくらいで、そのときは『スパイカー=花形のポジション』くらいのイメージでしたね。でも、『ハイキュー!!』を読んでからは、ブロックとレシーブの関係性やリベロの動きなど、スパイカー以外の役割の重要性を知りました。『ハイキュー!!』をきっかけに実際のバレーを見ることも好きになって、今ではひとときも目が離せません」
――昨年に行なわれたパリ五輪予選の女子大会は、会場で観戦されたそうですね。
「初めて生で観たんですが、テレビよりもスパイクの音がすごかったです。あとは、音響を使った会場の盛り上げ方や一体感が、柔道とはまるで違うと感じました。会場にいる全員がひとつのコートを見ていて、同じタイミングで盛り上がる。そこが面白かったです。
私が観戦したのは、『勝てば五輪が決まる』というトルコ戦でした。残念ながら負けてしまったのですが、プレーされている選手たちの姿からは必死さや気迫がひしひしと伝わってきました」
【『ハイキュー‼』の推しキャラは?】――柔道は個人競技で、バレーは団体競技という違いがありますね。
「柔道は団体戦もありますが、戦う時は1対1ですからね。柔道にはタイムアウトがないですし。あと、バレーは試合中にハイタッチする場面が多いですよね? あれにすごく憧れます。私はバレーをしたことがありませんが、自分がミスした時に果たして切り替えられるだろうか......と思います。でも、そういう時こそ『ハイキュー!!』の岩泉一くん(青葉城西高校)が言っていた『"6人"で強い方が強いんだろうが』ですね!」
柔道の女子日本代表70kg級でパリ五輪に出場する新添
――『ハイキュー!!』で好きなキャラクターはいますか?
「それが、挙げるのは本当に難しくて......。特に烏野高校と音駒高校は"箱推し"させていただいています。強いて挙げるなら、影山飛雄くんと孤爪研磨くんのふたりでしょうか。というのも、(今春から上映されている)劇場版『ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』を見に行った際に、ポーチを買ったんです。烏野高校と音駒高校からひとつずつ買おうと思っていて、買ったのがそのふたりだったので、『私の推しキャラなんだ』と」
――劇場版は大反響で、リピーターも多くいます。新添選手はいかがですか?
「それが、5回しか見に行けてなくて......(嘆き)。『ハイキュー!!』好きの友人と一緒に『何回見ても面白いね』と言い合っています。箱推しなので、推しキャラのふたりだけでなく、研磨くんと日向翔陽くん、研磨くんと黒尾鉄朗くんといったさまざまな組み合わせが絡む様子がたまりませんでした」
――その2校のようにずっと高め合ってきた存在は、新添選手にもいますか?
「あそこまでの絆を見せられると、『いる』とはなかなか言えません(笑)。ですが、国内外で何回も対戦する選手はいますし、そうした相手のおかげで今の私がいます。そうして五輪の日本代表内定までたどり着けたと思うので、対戦してきたみなさんに感謝しています」
――好きなキャラクターに挙げていただいたふたりについて、それぞれに惹かれる部分を教えてください。
「まず研磨くんは、自分と似ている部分が多いんです。というのも、高校時代の私はどちらかといえばサボりキャラで(笑)。どんな時でも『どうすればこの練習が楽になるだろう』と考えていたし、技をかけるにしても大技だと疲れるので、足技や小技を多くしたり......という具合でした。もちろん今は違いますよ!
それに、"静かなのに強い"ところが純粋に好きです。何に対しても熱がない研磨くんが、チームメイトのことを『仲間』と呼んだり、バレーボールが『たーのしー』と口にしたことで、さらに好きになりました」
【あるシーンを練習前に見て号泣】――新添選手は当然、今は柔道と熱心に向き合っているわけですが、そう変われたきっかけは?
「コロナ禍に入る前くらいに、東京2020五輪の代表争いに加わっていたのですが、その争いの中で"自分と天才の差"というものが身に染みて、心が折れる時期があったんです。私は良くも悪くも、あきらめがいい。
そのあと、パリ五輪に向けて世代が交代した時に、自分がいる階級の中で一番さまざまな経験させてもらえていたのが私だったんです。それで『この経験を活かさなければ』という責任感が芽生えて変わりました。ちょうどそのタイミングで、『ハイキュー!!』と出会った影響も大きかったですね」
――天才といえば、新添選手が好きなもうひとりのキャラクターである影山はまさにそうですね。
「飛雄くんは天才なのに、慢心するどころか、もっともっと上を目指そうと向上心を持っている姿が推せるんです。純粋な憧れもあります。上達することにそこまで執着できるのが才能ですし、私はその才能を持ち合わせているわけではないので。それは自覚していて、自分なりにできる限り頑張る、というスタンスでいます。
とはいえ天才だって、最初から努力していないわけがない。『ハイキュー!!』でも稲荷崎高校の北信介くんが、頑張ってきたからここまできている、といった言葉を口にしていたと思うんですが、『天才たちだってそうなんだから、私も頑張ろう』と考えています」
――その影山が冷静沈着、かつ強烈なパフォーマンスを披露する、作中の烏野高校vs.稲荷崎高校の一戦も好きとのことですが、特に惹かれる場面は?
「日向くんのレシーブでしょうか。最初は下手だったのに、いろんな経験を経て、身につけたレシーブを完璧に繰り出す。アニメで放送された時、それを練習前に見たのですが、泣きながら練習に向かいました。レシーブでこんなに泣かされることがあるのか、って(笑)」
――新添選手にも、そうした競技人生の中で大きなプレーや1本はありますか?
「2年前の世界柔道選手権タシケント大会の混合団体戦の決勝ですね。
私は昔から寝技に対する苦手意識が強くて、高校時代も練習をサボっていました。だから強くならないし、強くないからおもしろくない。『立ち技で勝てばいいじゃん?』くらいの気持ちだったんです。だけど、自衛隊体育学校に所属してから、(同じ所属の)茺田尚里(はまだ・しょうり)さんに感化されました。茺田さんは寝技で東京五輪を制したほどの方で、私も取り組むことにしたのですが......当時はコーチからも『ジュニアレベルだ』なんて言われるほどの技量でした(笑)。
そんなことも経て、2年前の世界柔道選手権の混合団体戦の決勝で大将を務めた時に、3―2とリードして私が勝てば日本が優勝という大事な場面で、締め技(送り襟絞め)の1本で勝ったんです。締め技で勝ったこと自体が初めてでしたし、自分に100点をあげたいくらい。自分へのご褒美として、『ハイキュー!!』を全巻"大人買い"させていただきました(笑)」
――その1本があってから、寝技への考え方も変わりましたか?
「『どうして今まで使ってこなかったんだろう』と思いました。それ以降、寝技で勝つ試合もありますし、自分の中で少しずつ身についている実感はあります。ですが、まだまだ『寝技が強い』とまでは言えませんし、日々の練習を頑張っています」
【「五輪はごほうびタイム」】――そうして迎える、初めてのオリンピック。昨年の世界選手権を制して内定は出ていましたが、そこからの約1年間はどのような気持ちで過ごしていましたか?
「どうしても私はマイナス思考なので、初めは『私じゃダメな気がする』と思ったりして、眠れない夜もありました。ですが、そんな不安も次第に消えていきましたし、何より周りの方々から応援の声をいただき、『この人たちのためにも頑張りたい』と思えるようになりました。試合当日を迎えるまで、五輪がどんな舞台か想像もつきませんが、いつもどおりに臨むのが一番なはず。『特別だ』と思い込みすぎず、自分をコントロールしたいです」
――同じパリ五輪では、応援しているバレー女子日本代表と共に選手団に名を連ねます。
「ネーションズリーグの日本大会はずっとテレビで観ていました。出場権を獲得した時は、自分もチームの一員であるかのような気持ちで叫びましたよ。
私は、古賀紗理那選手が好きなんです。同い年なんですが、そうとは思えないくらい責任感が強くて、常に声を出して、コミュニケーションを取っている。それに、素人目で見てもわかるくらいテクニックがすごい。全部ひっくるめて、ひとりのアスリート、ひとりの人間として尊敬しています。
体の線も細いのに、スパイクの威力がすごいじゃないですか。引退を発表されたそうですが、体脂肪率や筋肉量とか、いろいろ聞いてみたいですね(笑)。味の素ナショナルトレーニングセンターの食堂でお見かけしたことがあるのですが、遠くから見られるだけで十分。それが私の"推し"への距離感です」
――パリ五輪という舞台へともに挑みます。目標を聞かせてください。
「金メダルを獲る。そして、バレーチームにもいい風を吹かせたいです。『ハイキュー!!』でいえば、クロ(黒尾)が言っていた『ごほうびタイムだ』ですね。ここにくるまでに、数えきれないくらい練習も試合もやって、しんどいことをたくさん経験してきたので。『五輪はごほうびタイム』と思って、後悔のないように100%を出しきりたいです」
【プロフィール】
新添左季(にいぞえ・さき)
1996年7月4日生まれ、奈良県出身。自衛隊体育所属。女子70kg級で段位は四段。2023年のドーハ世界柔道選手権大会で優勝を飾り、パリ五輪に内定。今回が初めての五輪出場となり、メダル獲得に期待がかかる。なお、バレーボールをするならポジションは「セッター。『(レシーブを)アタックライン付近に上げてもらえれば十分です』と言って、さらっと難しいトスを上げて、周りが賞賛しても何事もなかったような顔で次のプレーに向かいたい」とのこと。