ロジャーズ氏が世界恐慌から資産を守る方法としてもっとも有効だと考えている資産は何か(写真:Luxpho〈Takao Hara〉)

シンガポール在住、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。

世界三大投資家と言われるジム・ロジャーズ氏と飲食チェーン大手・ワタミの会長兼社長である渡邉美樹氏との対談本『大暴落 -金融バブル大崩壊と日本破綻のシナリオ』(プレジデント社)が出ました。最新のロジャーズ氏への取材も含め、今回は「迫り来る世界恐慌に対する『最強の資産防衛法』」について掘り下げていきます。

なぜ資産を守る保険として金と銀がベストなのか

ロジャーズ氏は資産防衛法について、ズバリ断言します。「世界恐慌から資産を守る方法としてもっとも有効なのは、金と銀の保有だと私は思います。なぜなら、何か悪いことが起きたときに金や銀の価格は上昇するので、保険的な役割を果たしてくれるからです」。

では保険的な役割とは何でしょうか。「金や銀を保有するのは、資産を増やすための投資ではなく、資産を守るための保険としての投資です。多くの人は生命保険や医療保険に加入していると思います。万が一のことがあったときに生命保険は遺族の生活を守ってくれますし、病気やケガをしたときには医療保険が治療費を補填してくれます」。

「それと同じように、資産の一部に金や銀を保有していると、危機が起きた際に資産を守ってくれます。なかでも、自国の通貨資産ではなく、他国の通貨として流通している銀のコインを持つことが、私は有効だと考えます」(同)

私は、「金はこれから更に上昇する」(2020年2月28日配信)や「金だけでなく銀も上昇する」(2020年10月6日配信)など、以前からロジャーズ氏の金や銀への投資についてレポートしてきましたが、取材に行くたびに自宅の装飾品などの貴金属が少しずつ増えていくように感じます。

また、ロジャーズ氏はいつも上着のポケットの中に各国の銀のコインを何枚も入れています。これは、万一の際に上着を持っていけば生き延びられるからだと言います。

ロジャーズ氏は続けます。「商品への投資はインフレや株式市場の下落に対してヘッジ機能の役割を果たしてくれます。物価が上昇すれば商品の価格も上昇するので資産の目減りを防ぐことができます。株式などとは違う値動きをすることが多く、株価が下がった分を補ってくれる可能性があります」。

一昔前は、商品への投資というと難しい側面もありました。しかし、今は以前よりも簡単にチャレンジできるようになっています。

「商品関連のETFやインデックスファンドを利用すれば、個人でも気軽に投資ができます。大きなリスクをとらなくても、商品相場の上昇を自身の資産に取り入れることができるようになっているので、もし商品に興味があるなら、あなたのポートフォリオに組み込んでもいいでしょう。ただし、私が言ったからではなく、あくまでもあなたがその商品に詳しくて、興味があればの話です」(同)

コモディティなどのオルタナティブ投資は、期待リターンはそれほど高くありません。しかし、ポートフォリオ(資産構成)に多様性をもたらし、資産全体のリスクを下げる場合があります。富裕層の資産運用でも一定の割合を入れるなどで注目されています。また、株式が強い時代、商品が強い時代などの一定のサイクルがあり、ロジャーズ氏は商品の時代がいずれ来ると言い続けています。

資産防衛をするための富裕層のポートフォリオとは?

渡邉美樹氏は日本の資産を円、株式、不動産、国債の4つで見た場合、先行きについて次のように想定しています。

●円   → 暴落する

●日本株 → 輸出産業やインバウンド産業の一部は復活するが、

        全体としては暴落する 

●不動産 → 暴落するが1等地の価格は戻る

●国債 →  暴落する

一方でアメリカについては次のように考えています。

●ドル →  上がる

●米国株 → 一度は下がるがいずれ元に戻る

●不動産 → 一度は下がるがいずれ元に戻る

●米国債 → 不況が来て一時的には下がるが、比較的早く元に戻る

渡邉氏は、次の危機に備えて「米国債3分の1、日本株3分の1、日本の不動産3分の1」のポートフォリオにします。このオペレーションによって資産を守ることはできるというのが渡邉氏の考え方です。これについて、ジムさんはどんな具体的なアドバイスをしたでしょうか。

ロジャーズ氏は言います。「私も渡邉会長の考えに似ています。私のポートフォリオの大半はアメリカのドルです。ドルのキャッシュや現金に近いもの、たとえばMMFなど短期の金融資産を保有しています。私はいずれ大不況が来ると予測していますが、そのときには、世界中が安全資産として考える米ドルが、さらに買われるでしょう」。

このように、渡邉氏やロジャーズ氏などの富裕層の多くは運用のベース通貨をドルにしている方が多いです。その理由はドルで購入できる金融商品が豊富、基本的に金利が高く安定している、安全資産の地位を保っているなどの理由からです。日本円だけに資産が偏りすぎている場合、リスクとリターンが異なるアセットに分散を意識して、少しずつポートフォリオを見直してみてもよいでしょう。

最も怖いのはインフレ、日本の不動産には投資しない

ロジャーズ氏は続けます。「私が今いちばん心配しているのはインフレです。インフレが続くと、金や銀が上がっていきます。一方で金利が高くなるので、不動産や株式の価値は下がります。全面的な資産安になってしまうことを懸念しています。

日本の不動産も遠からずバブルになるような高値圏にあるため、私にとっては投資対象ではありません。もともと売りたいときにすぐに売れない流動性の低い資産は私好みではありません。近いうちに金利が上昇すれば資産価値は下がるので、不動産は相当ネガティブです」

日本の不動産は円安や低金利などもあり、海外の投資家からも着目されています。しかし、ロジャーズ氏は人口が減り続けている日本の不動産に対しては以前からネガティブです。円預金や日本の不動産にポートフォリオが偏りすぎている方も多いかもしれませんが、資産の一部をドルや金などで保有することもわるくないとロジャーズ氏は言います。


「世界恐慌が来たとき、投資家たちは安全だと思っているドルに群がると考えています。そのときにドルはバブルになるかもしれません。ただ、ひとつ警告しておきたいのは、歴史的に見てもアメリカはどの国よりも借金が増えています。借金が多い国ですから、ドルは絶対的に安全な通貨とはいえません」(同)

このように、ロジャーズ氏はドルも完璧ではないと言います。しかし、他に変わる通貨が見当たらないために、消去法で現在はドルを保有しているようです。最終的には渡邉氏やロジャーズ氏のアドバイスを鵜呑みにするのではなく、みなさんがご自身でポートフォリオを考える必要があるのではないでしょうか。

世界標準の資産運用の方法としては、値動きが異なる資産(アセットクラス)に分散投資をすることが推奨されています。

具体的に言えば、株式、債券、オルタナティブ(株式や債券といった伝統的な資産以外への投資)、キャッシュなど、異なる資産に分散をすることによって、リスクを低減しながら、リターンを上げる効果があります。日本ではまだまだ多くの方が資産の分散をしていないと思われますので、この機会にご自身の資産運用の見直しを検討してもよいかもしれません。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(花輪 陽子 : ファイナンシャルプランナー)