日本導入時には1000万円前後になると思われる

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2024年3月に発表された新型EV「Q6 e-tron」に一試乗が適った(写真:アウディジャパン)

アウディが「もっとも重要なセグメント」とする「プレミアムミッドクラス」に向けて、「Q6 e-tron(イートロン)」を発表。2024年3月にお披露目され、6月にスペイン・ビルバオで、ジャーナリスト向け試乗会が開催された。

PPEというポルシェとも共用するプラットフォームが、キーとなる技術だ。しかし、アウディは、「ポルシェとは一線を画している」とする。それはなんだろうか。

新型車ラッシュを巻き返す

アウディはこれまで「技術による先進」をスローガンに掲げるだけあって、新しい技術の導入に積極的なメーカーというイメージが強かった。ピュアEVのSUV「e-tron」の市場導入は2019年だ。

このところ、競合の新型車ラッシュに圧されていた感があったが、ここにきて「ついに大きな市場を対象にしたQ6 e-tronで巻き返しにきた」と、ドライブして私は思った。


世界的に売れているセグメントに満を持して登場した形となる(写真:アウディジャパン)

前述のPPEとは、「プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック」と呼ばれる新世代のBEV(バッテリー駆動のピュアEV)のために開発されたプラットフォームだ。

今年1月に登場したポルシェの新世代「マカン」と共用し、100kWhの大容量プリズム型リチウムイオンバッテリーを搭載して、前後に1基ずつのモーターを搭載する全輪駆動であることもポルシェと共通。

しかし、アウディは「自社に期待されるキャラクターを大切にしています」と、プロダクトマネージャーのクリスチャン・シュタインホルスト氏は試乗会場で語った。

「私たちにとって、もっとも重要なのは、プレミアム・ミッドクラス・セグメントです。そのため、私たちはそのセグメントに最適なクルマを提供するために、独自の味付けを施しています」

【写真】アウディ「Q6 e-tron」真新しい内外装(70枚以上)

Q6 e-tronのボディサイズは、全長4771mm×全幅1939mm×全高1648mmで、全長は「Q4 e-tron」よりも約20cm長く、「Q8 e-tron」よりも13cm短い。それをシュタインホルスト氏は、「全長、全高、全幅は完璧な寸法」とする。

「このクルマの対象はカップルや若い家族で、日常的な使い勝手を求めつつも、妥協のないテクノロジーとパフォーマンスを求める人たちです」


遠くから眺めるとたくましいフェンダーの膨らみに気がつく(写真:アウディジャパン)

若い人が乗るには決して安くない価格になりそうなQ6 e-tronだが、それはともかく、Q6 e-tronにおける“アウディらしさ”とは、担当者の言葉を借りて説明すると、以下のようになる。

「Effortless:さりげなさ」「Precise:正確さ」それに「Controlled:制御された」。

エフォートレスとは、気象条件によらない運転のしやすさ。プリサイスは、操舵に対するクイックな挙動。そして、コントロールドは、路面をしっかりグリップするボディコントロール、となる。もうひとつのセリングポイントは、バッテリー充電性能。

一充電あたり最大625kmの航続可能距離をもち、270kWの急速充電ステーション(日本にはない)が使え、10%残量の場合、10分間の充電で255kmの走行が可能となるそうだ。

長野県の山奥を連想させるルートをドライブ

試乗コースは、ビルバオからサンセバスチャン(の端っこ)まで。最短では70kmほどだが、あえて山岳路なども使い、100kmを優に超える距離を走破した。山道はうっそうとした林の中を行き、道の幅員は狭く、長野県の山奥を連想させる。


あえてこの山道が選ばれた理由が、乗ってみてわかった(写真:アウディジャパン)

2893mmものホイールベースを持つクルマを振り回すには、とても楽しいとは言えないコースだったが、「アウディのDNAにあるドライビング性能の高さを体験してもらうために設定したコース」というのが、前出のシュタインホルスト氏による説明だ。

私が乗ったのは、Q6 e-tronと、さらにパワーが上がりスポーティな味付けが濃くなった「SQ6 e-tron」の2台。

「操縦性を高めるため、5リンク式フロントサスペンションのコントロールアームの位置を変更したことをはじめ、ステアリングラックをフロントサブフレームにボルトで固定し、後輪へのトルク配分を重視した新設定のeクワトロシステムを搭載しています」

シャシー開発を担当したアウディ本社のオズウィン・レーダー氏は、そう語る。サスペンションは、今回乗った上級モデルではフルエアサスペンションとなり、金属バネを使うモデルでも、速度域にかかわらず最適な効果を発揮するダンパーを搭載するという。


タイヤは前255/50R20、後285/45R20と、前後で異なるサイズを履く(写真:アウディジャパン)

高い期待に応える走りの良さ

Q6 e-tronは、全輪駆動のクワトロと後輪駆動の2本立て。クワトロは最高出力235kWと285kW、2つの仕様がある。後輪駆動は225kWのリアモーター1基の仕様。私が運転したのは285kWのクワトロで、最大トルクはフロントモーターが275Nm、リアモーターが580Nm。

SQ6 e-tronは、最高出力が330kWに上がり(最大トルクは同一)、乗り味はだいぶ異なる。前者がちょっとふわりとした快適志向の味付けを感じさせたのに対して、後者は足まわりが締め上げられていて、スポーティ志向のドライバーを対象にしていることがわかる。


設定の方向性は違うが、どちらもアウディらしさを感じる乗り心地であった(写真:アウディジャパン)

実際、バスク地方の山岳路を行くのに、車体のサイズはときとして意識したものの、持て余すことはなかった。ステアリングが正確で、車体は一瞬の遅れもなく、ハンドルを握る私の意思どおりの軌跡で動いてくれるからだ。もともとアウディへの期待は高かったけれど、それでも余裕あるサイズのSUVとして高得点だ。

電気モーターによる反応のいい加速と、アクセルペダルをゆるめたときに発電装置の摩擦を使って制動をかける回生ブレーキも、このクルマの武器といえる。減速時にいちいちブレーキペダルに踏み換えなくてもよい、いわゆるワンペダルドライビングも、くねくねしたワインディングロードを走っていくとき、ドライバーに楽をさせてくれる。

ハンドルのコラムから出ているパドルを使って減速させることも可能で、意外なほど使い勝手がよい。

速度にもよるけれど、アクセルペダルから足を離すことなく、カーブの手前で右のパドルを引いて減速、出口が見えたら左のパドルで加速モードへ、というBEVならではの操縦性で楽チンだ。


すっきりしたデザインのステアリングは握り心地も良好(写真:アウディジャパン)

「新型マカンは、後輪操舵システムをそなえているし、ダッシュがが鋭い。クイックなドライブ感覚が、セリングポイントです。しかし、Q6 e-tronで私たちが追求した方向性は、それとは違います。求めたのは、より高い快適性で、SQ6 e-tronについても同様です。スポーティなモデルを志向する方は、この先に登場するRSQ6 e-tronを待っていただくのがいいと思います」

レーダー氏はそう説明する。たしかに静粛性が高く、ボディを風がたたく音も、タイヤと地面がこすれる音も、ほとんど意識されない。

路面の状態にかかわらず、凹凸はていねいに吸収される。気がつくと思っていた以上の速度が出る危険性を秘めている。それほどナチュラルなのだ。

高速走行が多い人なら、SQ6 e-tronを選ぶといいかもしれない。ドライブモードでスポーツモードを選ぶと、アクセルペダルを軽く踏んだだけでめざましい加速をみせる。そして、ハンドルを切ったときの車体の動きが俊敏で、操縦安定性が高く感じられる。

新たなデザインの特徴

私がもうひとつ気に入ったのは、ボディデザインだ。これからのアウディのデザインテーマを先取りしていて、シングルフレームグリルとアウディが(依然として)呼んでいるフロントグリルの意匠がだいぶ変わって、グッドデザインである。特に白など淡い車体色を選ぶと、グリルの存在感が増して、斬新な印象が強くなる。


明るいボディカラーだと新しい顔つきがよくわかる(写真:アウディジャパン)

キャビンはリアクォーターパネルの傾斜がゆるく、つまり前倒しになり、荷物を運ぶためのクルマでなく、スタイリッシュなイメージが強調される。これも美点だと感じられた。

コクピットも大きく“進化”。Q6 e-tronとSQ6 e-tronのダッシュボードは、デジタル技術によって従来のモデルと一線を画すデザインとなった。

ひとつは、11.9インチOLEDディスプレイと、14.5インチのセンターディスプレイによる「MMIパノラマディスプレイ」。もうひとつは、アクティブ・プライバシーモードを備えた「MMIパッセンジャーディスプレイ」だ。


湾曲したドライバーズディスプレイと明確にゾーン分けされるパッセンジャーディスプレイ(写真:アウディジャパン)

これは、アウディ初の採用となる助手席モニターで、走行中に助手席の乗員が動画などを楽しめるもの。もちろん、ドライバーが観ることはできない。

ドライバーが楽しめる機能もあるのだけれど、それがたいへん興味深いので、稿をあらためて紹介しようと思う。

メッセージを送るデジタルライト

デジタル技術は、前後のライトにも使われている。第2世代だといい、アウディでは「アクティブデジタルライト」と呼んでいる。このシステムは、前後を走る車両や、路上の歩行者などにメッセージを送る機能を持つ。


LEDによるメッセージやアラート表示は、新たな安全機能となっていきそう(写真:アウディジャパン)

ヘッドランプ内には61個の有機LED(第1世代では6個)、テールランプには60個(同6個)が組み込まれている。三角形を組み合わせて、複雑なアニメーションを展開。

運転者が近づいたり、クルマから離れたりするときのアニメーションをはじめ、対クルマの機能として、後方の車両が接近しすぎたときに警告が表示されたり、緊急停止の際にリアのライトに三角マークが表示されたりという具合。アウディの技術者によると、8つの機能を有しているそうだ。


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ヨーロッパでの販売は、2024年後半。アウディジャパンは、日本への導入について「未定」としているが、いずれ発売されるであろう。価格も未定だが、Q6 e-tronで1000万円超という説もある。

メルセデス・ベンツ、BMW、レクサスといったプレミアムブランドのBEVやテスラにとって、“新たなライバル出現”となるだろう。

【写真】アウディ「Q6 e-tron」のデザインと機能性(70枚以上)

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)