長時間労働の慢性化という課題を抱えているドライバー職。人材不足の深刻化と2024年4月から適用された働き方改革は求人にどのような影響を及ぼしているのか。「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」(厚生労働省)によると、2023年6月の自動車運転の職業における有効求人倍率は2.68倍と売り手市場である。貨物運送業はECの進展、旅客運送業は外国人旅行者数が急増と移動ニーズの回帰により需要が増加している。昨今のドライバー職の給与の動きはどのような動きが見られるのか、求人ボックスに掲載された物流・交通系職種別の求人給与データを基にトレンドを調査し、その結果を紹介する。

ドライバー職の現状。人手不足の深刻化と2024年問題が及ぼす影響は

2024年問題とは、運送業界に携わるドライバーの時間外労働に関する規制が変わり、生じている諸問題を指す。具体的には、2024年4月1日より、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限され、1ヶ月の合計拘束時間は、それぞれ以下のように短縮となった。

トラックドライバー:原則293時間→284時間(最大320時間→310時間)
バスドライバー:原則281時間のまま(最大309時間→294時間)
タクシードライバー(日勤勤務):原則299時間→288時間(最大322時間→300時間)

また、いずれのドライバー職も休息時間はこれまで継続8時間であったが、下限9時間、継続11時間が基本となった。特にトラックドライバーはこれまで、運転が中断されていれば、荷積みや荷下ろしなど、運転に関わらない業務を行なっても良い規則であったが、改正後は休憩が義務化された点も業務への影響が大きい。

今回の規制に対応するため、各業界では働き方改善のみならず、業務の効率化や削減などが行なわれている。物流業界では、2023年10月に「物流革新緊急パッケージ」が閣議決定、2024年5月15日に「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」が交付された。これにより、荷主企業には物流効率化の取り組みが義務化されている。また、国土交通省では、鉄道や船を活用する「モーダルシフト」を推進している。タクシー業界では一部エリアで、一般のドライバーが自家用車等で有償で運行できる、日本型ライドシェアが始まった。効率化や分担で対応しきれない場合は削減せざるを得ない状況であり、民間の路線バスや自治体のコミュニティーバスでは、減便や路線の廃止が行われている。

2024年問題への対応が進む一方、労働力の確保についてはどうか。「サービス産業動向調査」(総務省)によると、国内の就労人口は年々増加し、2023年度は前年度比28万人増の6,756万人となったが、道路旅客運送業の従事者数は10年で76.4%と右肩下がりで減少し、2023年度は47.2万人になっている。一方、道路貨物運送業の従事者数は10年で101.8%と横ばいであるが、2018年度の193万人をピークに減少しており、2023年度は178.9万人だった。特に道路貨物運送業は、昨今のECの進展により需要が増加しており、厚生労働省が公開している「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によると、2023年5月の自動車運転の職業における有効求人倍率は2.58倍と売り手市場となっている。

出典:総務省「サービス産業動向調査」より作成

【物流・交通関連職の求人数トレンド】新年度にかけてピーク

人手不足の深刻化する中で働き方改革関連法案への対応が必要となった、物流・交通業界。長時間労働になりがちな長距離トラックや配送などの貨物運送業、タクシーやバスなどの旅客運送業の求人数にどのような変化があったのか。求人ボックスに掲載された「長距離トラック」「配送」「バス運転手」「タクシー」の求人情報を用いて調査した。(2024年6月掲載時点)

求人数はいずれもこの1年間で増加傾向にあり、働き方改革関連法案適用前の2~4月にピークを迎えている。「長距離トラック」のみ、5月も求人数を下げることなくピークが続いていることから、人手不足な状況が続いていると考えられる。

ドライバー職の働き方改革、求人検索への影響は。「タクシー」は前年比2.51倍に増加

「ドライバー・運転手」を含む検索数の合計は増加傾向にあり、ピークの2024年3月には前年比で1.47倍となった。業種別でみると、最も増加したキーワードは「タクシー」で、2024年3月は前年比で2.51倍だった。コロナ禍で乗客数が減少し、離職者が増えていたが、5類移行後は外国人旅行者数が急増し、需要も回復している現状から、仕事を検索する人も増加していると考えられる。
また、トラックドライバーは労働時間が短縮されることで、賃金が低下する懸念がある一方で、タクシードライバーは、自身の生活スタイルに合わせて日勤や隔日勤務、勤務時間帯を選ぶことができ、また営業エリアが限られていて、長時間勤務となりづらい。つまり、今回の改正で賃金への影響をあまり受けないことから、トラックドライバーからタクシードライバーへ転職する人が増加していると言われている。

検索動向の集計・算出方法:「求人ボックス」利用ユーザーが、「求人ボックス」上で、ドライバーに関する仕事探しを行う際に入力した検索キーワードの検索回数の推移。2023年3月の検索回数を1として指標化。

【物流・交通に関する職探しの検索キーワード】1位は「ドライバー」

求人ボックスにおける、検索回数が多かった物流・交通に関するキーワード1位は「ドライバー」だった。それ以降も、2位「大型ドライバー」、3位「トラックドライバー」と物流系運転手の求人を探していると考えられるキーワードが続いた。
ドライバーは資格があれば同業者・同業種に転職しやすいことから、同じ会社に長く働き続けるよりも、より条件の良い会社や自分にあった会社を探し、転職する人も多い職種である。

検索動向の集計・算出方法:「求人ボックス」利用ユーザーが、2023年4月1日から2024年3月31日の期間に、「求人ボックス」内で物流・交通に関する仕事探しを行う際に入力した検索キーワードの検索数上位を抽出、「ドライバー」の検索数を100として指標化。

出典元:Adobe Analytics

【物流・交通関連職の月収ランキング】1位は「バス運転手」の平均49.7万円

求人ボックスに掲載された求人のうち、物流・交通職種(※1)の求人給与を調査した。平均月収が最も高かったのは「バス運転手」の49.7万円だった。2位は「長距離トラック運転手」47.3万円、3位は「タクシードライバー」41.6万円と続いた。
バス運転手は人手不足の深刻化から待遇改善を行う企業がある他、運行時間が早朝から深夜に渡る影響から長時間労働を見込んだ月収を提示する求人や、高速バス・夜行バスの求人がみられることが、高い平均月収になった要因と考えられる。

(※1)職種は求人ボックスの検索条件として登録されている「配送・物流・交通」に分類された職種及び求人数の多いワードを抽出

求人給与の集計・算出方法:求人ボックスで過去掲載した求人情報に基づいて中央値を算出。(2024年6月掲載情報)