記者会見する岸田文雄首相=21日午後、首相官邸(代表撮影)

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 岸田文雄首相(自民党総裁)は23日閉幕の通常国会で、デフレ完全脱却や憲法改正など政権が掲げる重要課題を積み残した。

 今後も実現に全力を挙げる決意を示したが、内閣支持率の低迷で政策の推進力は弱まっている。正念場を迎える首相の苦境は国会閉会中も続きそうだ。

 「道半ばの課題がある」。首相は21日の記者会見で、デフレ脱却、改憲などの課題を挙げた。続投への意欲とも受け取れる一方、いずれも1月の施政方針演説で自らが政権の目標に据えたテーマだけに「有言不実行」となったのは痛手だ。

 首相は施政方針で、デフレ完全脱却へ「正念場を迎えている」と位置付け、「物価高を上回る所得を実現する」と約束。今年の春闘では高水準の賃上げが相次いだものの、足元では実質賃金のマイナスが続く。21日に決定した経済財政運営の基本指針「骨太の方針」では「デフレ脱却の千載一遇の歴史的チャンス」と表現するにとどまった。

 首相は21日の会見で、自身の肝煎りで今月始まった定額減税の効果に期待を表明。19日の党首討論では、民間の分析を引用して「今秋以降に実質賃金がプラスになる」と大見えを切った。

 憲法改正は、自らが再三訴えてきた「(9月までの)総裁任期中」の実現が絶望的。施政方針で「条文案の具体化を進める」と言明し、自民は改正原案の国会提出を目指したが、裏金事件を受けて立憲民主党が対決姿勢を強めたこともあり、結実しなかった。

 首相は会見で、改憲に慎重な立民に「残念に思う。重要な一歩をさらに進めてほしい」と不快感を示した。自民は閉会中も衆院憲法審査会を開くよう提案したが、立民は応じない構え。改憲論議は次の臨時国会に持ち越される見通しだ。

 施政方針で首相は、拉致問題解決のため日朝首脳会談の実現にも決意を示した。日朝間では水面下の交渉が続いているとされるが、北朝鮮はロシアと急接近して日米をけん制。北朝鮮が歩み寄る可能性は低く、進展は見通せていない。

 一般ドライバーが自家用車で客を有償送迎する「ライドシェア」も政権を不安定化させる要因になりかねない。全面解禁に向けた法整備が国土交通省や公明党の抵抗で先送りになり、首相と距離を置く菅義偉前首相は強い不満を漏らしているためだ。

 首相が国会閉幕に伴って課題解決への決意を改めて強調したのは、9月の総裁選が迫る中での「焦り」の裏返しにも映る。党内は「ポスト岸田」の動向に関心を強めており、閣僚経験者は「もはや何をしても政権浮揚にはつながらない」と冷ややかに語った。