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価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

ステートメントは、
アイデアに投資してくれる人を説得する文章

 私は、ある程度アイデアがまとまってきたら、企画書にアイデアをまとめていくことと同時に「ステートメント」を書くようにしています。

 ステートメントと私が呼んでいるのは、400〜800字くらいの文章のことで、どんな背景があって、どんな課題が存在していて、誰に対して、どのようなことを行い、結果、何をもたらしていくのか、といった内容をひとつの文章としてまとめたものになります。

 イメージとしては、このアイデアに投資してくれる人に向けて文章で説得するようなものです。社内だったら社長や投資の決裁権限を持っている人、社外だったら投資家やクライアントの決裁者への手紙をイメージしてみるのがいいでしょう。お客さまなど消費者に対するステートメントを書くことで、結果として決裁者を説得できるなら、そういう形もありでしょう。

 私は、このステートメントが書けるようになると、言葉によるプロトタイピングの精度はグッと上がってくると思っています。

 なぜ、そう言えるかというと、ステートメントは「ごまかしが利かない」からです。パワーポイントなどを使った企画書だと企画やアイデア自体がそこまで優れていなくても、なんかよさそうな感じをつくることができてしまいます。ただアイデアが破綻している部分が、際立ってきてしまいます。その検証のためにも、ステートメントは有用です。

書き方に決まりはない

 ステートメントの書き方に、決まりはありません。

 決裁者がアイデアに対して共感と納得をして、投資をするに値すると思えるようなステートメントであれば、書き方は自由です。アイデアの概要を最初に話して、続いて妥当性を説明していくのもありです。

 また、ファネル(漏斗:ろうと、じょうご)のようなイメージで、そのアイデアに関心を抱かせるような話からはじめて、アイデアの妥当性に至るように文章をつくっていくのもありでしょう。

 さらに、サイモン・シネックのゴールデンサークル理論のように、「Why(なぜ)」→「How(どうやって)」→「What(何が)」という順番でステートメントをつくるのもありでしょう。

 ひとつ、先述した企業の周年事業を例にして、ステートメントを書いてみましょう。

(以下、ステートメントの例)

来年、創立60周年を迎えるA社。
 周年を単なる祝典とするのではもったいない、そんな視点を持つことを出発点にしました。周年は、企業にとっては、単なる通過点にしか過ぎないけれど、過去を振り返り、いまを見つめ、未来に向かって動き出すための「いい機会」にできると考えたからです。
フォーカスするのは、社員の意識改革です。かつてあった、一人ひとりが率先して挑戦者となる風土を取り戻す機会にしていきます。それが、自律的に新商品やサービスが生まれ、経営の課題でもある新しい収益の柱をつくっていくことにつながると考えています。
 周年に関わる施策を、過去、現在、未来と3つに分けて実施していきます。
 過去については、会社の歴史を人にフォーカスしながら見つめ直していくコンテンツをつくっていきます。ひとりの思いがヒット商品などにつながっていったことを伝えていく「最初の一歩展」、斬新なアイデアだったけれどうまく市場に定着しなかった商品を発案者にもフォーカスしながら伝えていくコンテンツも展開。一人ひとりの自由な発想と挑戦が、会社の歴史をつくってきたことを再確認していくようにします。
 現在については、過去のコンテンツに触れたときに「昔はよかった」というような懐古的な思考にならないため、企業の外部と連携しながらコンテンツをつくっていきます。個人の思いを出発点として事業や商品をつくっている人と社員とのインタビューコンテンツをつくり、そんな思いを持った人から見たときのA社のチャンスはどのようなところにあるのか、考えられるようにしていきます。
 未来については、100周年となる40年後の未来を想像したときに、いま、何をするべきか、ということを構想していくプロジェクトを行います。人材育成、新事業開発などのワーキンググループを複数つくり、60周年を皮切りに中期的に続けていくものとします。
 以上のような60周年の施策を複数走らせながら、未来に続く価値創造は、みんなではなく、ひとりの思いと第一歩から生まれるということへの気づきと、その文化醸成となる活動を行っていきます。

 このようにステートメントを書いてみましたが、いかがでしょうか。

 なぜこの施策を行うのか、どんな狙いを持って、実際にどのようなことを行うのか、という点に重点を置いて書いています。こちらは、決裁を行う人(たとえば経営者)に伝えたときに説得力があるのか、ということをアイデアの検証として使っていきます。

 このように、決裁者に向けて書くこともありですし、顧客に向けてステートメントを書いて魅力的な商品や施策に見えるのか、という検証に使うのもありです。

 ぜひ、リーダーが率先して、ステートメントを書いてみるようにしてください。ここで、説得力を欠いたステートメントしか書けないようであれば、アイデアのどこかに再検討の余地があります。ステートメントを、アイデアを練り直すきっかけにもできます。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012〜13年電通サマーインターン講師、2014〜16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。