「借金だらけで、いつもお腹を空かせている彼と結婚するなんて思わなかった」と語る安藤和津さん。出会いから8か月のスピード婚になった夫・奥田瑛二との当時の関係とは。(全4回中の1回)

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第一印象は“死んだ目をした珍獣”

ハワイにて

── 俳優・映画監督である奥田瑛二さんとの結婚生活は今年で45年目とのこと。おふたりの馴れ初めを教えてください。

安藤さん:第一印象は「この人、目が死んでるけどどうしちゃったんだろう?」でした(笑)。彼とは友人の集まりでたまたま会ったのですが、空洞みたいな真っ暗な目をしていて、話を聞いてみたら、「下宿代を払えずに追い出されてずっと公園で寝泊まりしている」って言うんです。

そして本当は役者志望だけど仕事がまったくなくて。路上で花売りのアルバイトをしていたのだけれど、年末に花がすごく売れて、その売上を全部ポケットに入れて飲みに行って気が付いたら、落としたのか盗まれたのかお金がない!家賃も払えなくなっちゃって下宿先を追い出された。仕方がないから今は公園に寝泊まりしているんだ。無一文どころか借金だらけだ、と…。

真っ暗な目でそう語るんです。「見たこともない珍獣のような人だ」と思いました。そんなタイプの男の子は、それまでひとりも出会ったことがありませんでしたから。衝撃的すぎてなんとかしてあげなきゃと思ってしまったのも確かですね。

── 強烈な第一印象ですね。小中高と学習院で大学は上智へ進まれた安藤さんにとっては、なおさら別世界の人に見えたのだろうと想像できます。そこからどのように仲良くなったのでしょう?


安藤さん:私より2歳年下だし、あまりに危なっかしくてほうっておけないから、それ以来、母と暮らす自宅に彼を招いて、ごはんをごちそうするようになったんです。母は面倒見がよくて、困った人がいたらほうっておけない気質の人。私も同じタイプなんです。

あるとき、何日ぶりかに会って彼をお好み焼き屋さんに連れて行ったら、お腹を空かせた彼の口からよだれがツーーーッって足元近くまで一本筋で落ちたんですよ。冗談みたいでしょう?そんな姿を見せられたら「お腹いっぱい食べさせてあげなきゃ!」「面倒を見てあげないといけない」って思うじゃない?

でも彼はド正直で生意気だったので、うちで出すおかずにいちゃもんをつけるようになるまで、そう時間はかかりませんでした(笑)。

貧乏青年と結婚を決めるまで

CNNにてキャスター時代の和津さん

── 頼りない弟としっかり者の姉のような関係性だったのですね。そこから恋愛に発展したきっかけは?

安藤さん:当時、正直に言うと年下で借金だらけでいつもお腹を空かせている彼のことは、恋愛や結婚の対象としてはまったく見ていなかったんです。

私はずっとイギリス紳士のようなタイプの男性が理想でした。スーツを品良く着こなす大人の男性。そこは政治家で小説家でもあった父(犬養健:法務大臣。元首相・犬養毅の三男)の影響かもしれませんね。

奥田のほうは私に恋愛感情があるようなことをよく言っていましたが、「ハイハイ、バカなこと言わないで。シッシッ」と適当にあしらっていました(笑)。

深夜に下着姿の女性が…

── 好きという気持ちに気が付いてからはお母様の賛成も得てトントン拍子で話が進み、出会って8か月後の1979年にはスピード結婚。その直後から奥田瑛二さんは俳優として一躍ブレイクを果たし、80年代には「不倫してみたい俳優No.1」と称されるほどの人気者になります。一方で、結婚生活では奥田さんの女性関係のスキャンダルや借金に悩まされてきたことが明かされています。

安藤さん:そうですね。知人に映画の資金を横領されて倒産寸前になったり、奥田の女性関係に翻弄されたりと、それはもう本当にいろいろありました。

あるとき、家族4人で寝ていたら黒い下着姿の外人女性がドアのところに立っていたことがありました。その彼女が英語で何か話しているんだけど、その日の私は疲れ果てていてとにかく眠かったので、「ああ、奥田の恋人が乗り込んできたのかな。今度は外国人なの?」って思っただけで、こういう時、私はどうしたらいいのって考えてるうちに気が付いたら寝落ちをしちゃったんです。

しばらくして目覚めてリビングへ行ったら、彼女は隣のマンションの住人で近所、暴力をふるう彼氏から必死で逃げてきた人だったの。手当たり次第にマンションの部屋のドアを開けていたら、うちだけなぜか鍵がかかってなかったので助けを求めに我が家に入ってきた…というのが事の顛末でした。

今なら笑い話としてこんなふうに話せますけど、振り返ってみると私は自分で自分の心をプロテクトしていたんでしょうね。あまりにもそういった出来事に悩まされ続けたので、当時の私は「もうそんなことはどうでもいい」「ドンと構えていなかったら傷つく」と無意識に心を麻痺させていたのだと思います。

PROFILE 安藤和津さん

1948年、東京都出身。学習院初等科から高等科、上智大学を経て、イギリスへ2年間留学。CNNのメインキャスターを務める。1979年、俳優・映画監督の奥田瑛二さんと結婚。長女は映画監督の安藤桃子、次女は俳優の安藤サクラ。エッセイスト、コメンテーターなど幅広い分野で活躍中。

取材・文/阿部花恵 写真提供/安藤和津