H&Mの米国における小売戦略について掘り下げる。

H&Mが米国で地域密着型の体験型リテールに参入



大手ファッション小売業者にとって、差別化を図るのはなかなか難しい。H&Mの場合は最近、インディテックス(Inditex)やシーイン(Shein)といった競合他社よりも苦戦を強いられている。H&Mは77の市場で約4375店舗を展開し、60の市場でオンライン販売を行っている。親会社のH&Mグループ(H&M Group)の2023年度の売上高は6%増の215億ドル(約3兆2600億円)だった。1月31日、H&MのCEOであるヘレナ・ヘルマーソン氏は、例年重要なホリデー商戦期間である12月と1月の売上高が前年比で4%減となったことを受けて退任した。

それ以降は新CEOのダニエル・エルヴェール氏が職務に慣れるべく取り組むなかで、H&Mはほぼ沈黙を守っている。エルヴェール氏は18年前に夏期研修生としてH&Mに入社し、プレジデントや幹部へと上り詰めた人物だ。2月のインタビューで同氏は、H&Mはファッション商品の数を増やし、さらに多くの店舗のオープンすることに注力していると語った。

その背景には、同社の最近の業績と、特にeコマースを通じたシーインなどのウルトラファストファッションブランドの台頭があることは間違いないだろう。シーインは売上高を公表していないが、直近の年間売上高は300億ドル(約4兆5000億円)を超えると言われている。インディテックスのようなほかの大衆向けファッション小売業者は、競争の結果、店舗の改善と品揃え充実に焦点を絞ることを選択している。

コンセプトストアへと転換するH&M



米国では従来の小売店からコンセプトストアの展開へと、H&Mの戦略を転換させている。2月6日に同社は、ニューヨークのソーホーにこの新形態の第1号店をオープンさせた。同社広報担当者は詳細については明言を避けたものの、客足は非常に好調だと話す。ブロードウェイ591番地にある1万平方フィート(929平方メートル)のスペースは、ウィメンズウェアを中心としている。また北米のH&M店舗としては初となる、H&Mの中古ファッションを集めた「以前愛されていた商品(pre-loved)」コーナーもある。さらに、この品揃えを考案したデザイナーのジェームズ・ヴェロリア氏との独占コラボレーションにより、ヴィンテージデザインの商品も取り揃えている。この店舗内は地元のアートギャラリーにインスパイアされたデザインが特徴で、セルフサービスの注文受け取りロッカーや試着用のスマートミラーといった新たなサービス機能も備えている。

H&Mアメリカ地区のカスタマー部門責任者であるリンダ・リー氏は、「米国では特にD2Cブランドの急増によって、競争がさらに激しくなっている。そのため、商品や価格から顧客体験やサービスにいたるまでのあらゆる点において、特に『適切』でなくてはならない」と語る。

小売店における差別化の必要性は、単に顧客が実際に商品を見たり購入したりする場を提供するだけではなくなってきている。パンデミックの発生以降、店舗をリニューアルさせたほかの企業には、コーチ(Coach)、バナナ・リパブリック(Banana Republic)、Jクルー(J Crew)などがある。

好調なリセール市場



コーチのグローバルビジュアルエクスペリエンス担当シニアバイスプレジデントを務めるジョヴァンニ・ザッカリエロ氏は昨年5月に、「特にオンラインショッピングを利用する消費者が増えたパンデミックのあと、実店舗小売を本当に見直さなければならないという危機感がある。だからこそ我々は、超物理的で多感覚的な没入型体験に取り組んでいるのだ」と語っている。「心に残る体験を顧客に提供し、顧客の心と強いつながりを作りたいと考えている」。

多くのブランドでは同様の戦略の一環として、店舗でのリセールが浸透しつつある。最近、店舗におけるリセール商品を追加した小売業者には、リーバイス(Levi’s)、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)、ウィークデイ(Weekday)などがある。調査会社のグローバルデータ(GlobalData)によると、2023年のアパレルリセール市場規模は1937億ドル(約29兆4000億円)で、2023年から2027年にかけて年平均成長率12%以上で成長すると予想されている。

グローバルデータの小売アナリストであるニール・サンダース氏は、「リセール市場は現在絶好調なので、H&Mは消費者の関心を利用することができる。少しは客足が増えるかもしれない」と話す。「とはいえ、これはH&Mと競合他社との戦いに対する解決策ではない。リセールでは、H&Mの新ラインの市場シェアを侵食から守ることはできない。そのためH&Mは、コアとなる商品をスタイルと価値で勝負させるようにする必要がある」。

[原文:Fashion Briefing: More mass brands are prioritizing experiential retail]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)