月刊誌「レコード芸術」を発行していた音楽之友社が、Web上で新たに「レコード芸術ONLINE」を創刊する試みを4月10日にスタートする。Web展開の狙いや“レコ芸復活”への想い、クラウドファンディングの支援者に提供する各種特典の詳細を取材した。

休刊中の「レコード芸術」クラファンでWeb復活なるか? 創設の狙いを聞いた

音楽之友社 本社(東京・神楽坂)

「レコード芸術」(レコ芸)は、クラシック・レコード評論の専門誌として1952年3月に創刊。長年にわたりクラシックファンや音楽関係者に愛読されてきており、筆者の実家でも長らく「音楽の友」とともに本棚の一角を占めていた記憶がある。しかし70年以上続いてきたレコ芸も、「近年の当該雑誌を取り巻く大きな状況変化、用紙など原材料費の高騰など」を理由として、2023年7月号(6月20日発売)をもって紙媒体は休刊となった。



レコード芸術の概要

音楽之友社は休刊の告知のさいに「『レコード芸術』として70余年にわたり培ってきた財産をどのようにして活用していくべきか、鋭意研究する」とコメントしており、その後2024年3月26日に、同誌をオンラインメディアとして生まれ変わらせるべくクラウドファンディングを行うと発表。同社によれば休刊後も継続を希望する声が数多く寄せられ、レコ芸の継承のあり方を探る中でたどり着いた答えが「レコード芸術ONLINE」の開設だったという。

「レコード芸術ONLINE」のイメージ

具体的には、「レコード芸術」の核となる新譜月評を刷新し、ビギナーからコア層まで幅広く対象とする、クラシック音楽の録音・録画メディアのポータルサイトとして開設。月額1,100円の有料会員制ウェブマガジンとなるが、無料記事も充実させながら「多様化するクラシック音楽メディアを幅広く網羅し、音楽之友社だからできる信頼性の高い情報を読者に届ける」ことをめざすという。



クラウドファンディングは「CAMPFIRE」(キャンプファイヤー)で実施され、支援募集期間は4月10日10時から5月24日23時59分までの45日間。リターンは2,000円からで、目標金額は最低1,500万円、ストレッチゴール(最終目標)は2,000万円。順調に支援が集まれば、9月2日から配信開始となる予定だ。支援コースとリターンの中身については後述する。

今回のプロジェクトは、目標金額を達成できれば「レコード芸術ONLINE」としてリスタートを切れるが、達成しなかった場合は集まった支援金をすべて支援者に返金する“All-or-Nothing”方式となる。また、最低目標額(1,500万円)をクリアできても最終目標額(2,000万円)に満たない場合、まずは提供するコンテンツを絞ってのスタートとなり、有料会員数の増加に伴って今後中身を拡充していく計画だ。

「CAMPFIRE」(キャンプファイヤー)でクラウドファンディングを実施

9月2日配信開始を予定

レコ芸ONLINE創刊の狙いは、「クラシック音楽メディアを愛するすべての人々が一堂に会するポータルサイトの創出」。“レコード芸術を軸に意見交換できる場を復活させたい”という想いのもと、クラシック音楽の“批評の場”を維持することをめざす。さらに従来のレコ芸読者だけでなく、「マニアというわけではないが、特定の奏者を追いかける“推し活”をしている人」などをビギナー層と位置づけ、そうした人々を取り込みながら読者として定着させることも狙う。

レコ芸ONLINE創刊の狙い

4つの特徴の概要

主なコンテンツ構成は以下の通り。記事の更新頻度については、有料記事は週1回(ひと月あたり4回)程度をイメージしており、無料記事は新譜発売のタイミングなどで随時掲載していく予定だという。

なお、下記に記載のないオーディオや吹奏楽に関する記事などについては、レコ芸ONLINEのスタート時は予定していないものの「今後何らかの形で、自社媒体内での棲み分けなども考えながらやっていきたい」とのこと。

○有料記事

新譜月評レコード芸術ONLINEの中核となる、クラシック音楽の録音・録画された演奏を対象とした批評。CD・レコード/ストリーミング、国内盤/海外盤を問わず、原則として毎月総計約100点を編集部が選定し、ジャンル別に総勢約20名の執筆者が「推薦」「準推薦」「無印」の3種類の基準で批評(ダブル批評ではない)。推薦盤のタイトルリストは「今月のレコ芸推薦盤」として無料公開

新譜一覧表「新譜月評」で取り上げたタイトルを新譜一覧表(データ資料館)にデータとして蓄積し、アーカイブ化

アーカイブ連載創刊から70余年の月刊誌「レコード芸術」が蓄積した潤沢なアーカイブから、いま読んでも新鮮な記事を発掘、再掲載。読者アンケートなどでリクエストも募る

ONLINEメディアならではの新連載ONLINEメディアとして求められる「時代への即応性」を意識した連載をスタート。読者アンケートなどの結果も加味しフレキシブルに内容を更新していく予定

多彩なテーマで毎月更新する特集毎月テーマを決めた特集を組み、徐々に規模の拡充を図る(一部記事は無料公開)

レコ芸執筆陣による「講座」レコ芸人気執筆陣を講師とした対面による講座を実施。講座はオンラインでも実況中継し、オンライン参加者も質疑応答に参加可能。後日、講座の内容は記事として公開する(初年度はクラファンのリターンとして開催。2年目以降、一般会員も参加可能になる)。

中核コンテンツとなる「新譜月評」

○無料記事

先取り最新盤レビュー新譜発売日に合わせて掲載する、評論家による速報的なレビュー記事

アーティスト・インタビュー注目アーティストへのインタビュー取材

前述の通り、レコ芸ONLINEの月額料金は1,100円。支払方式としてはオンライン書店のFujisanと連携し、クレジットカードやコンビニ・ATM、Web口座振替など各種決済方法への対応を検討している。クラファン達成後の2年目以降は、この月会費で運営していくそうだ。

レコ芸ONLINEのコンテンツ構成

過去のデジタル版でも7割近くがスマホなどモバイル機器で購読していたことから、レコ芸ONLINEもスマホファーストな画面構成になる模様。読みやすさにも配慮していく

新譜月評の各記事には、SpotifyやAmazon Music、Apple Music Classical、ナクソス・ミュージック・ライブラリーといった、代表的な音楽ストリーミングサイトへのリンクを掲載する予定

このほか、従来は年に1回開催してきた「レコード・アカデミー賞」に代わり、「新レコード・アカデミー賞(仮称)」というアワードを改めて創設することや、紙媒体のムック「レコード芸術総集編(仮称)」を刊行する方針であることも明らかにした。このムックには、レコ芸ONLINEから1年間の新譜データや「新譜月評」、連載などの記事を厳選しつつ、オリジナル記事も加えて1年を振り返る構成にするとのこと。

「新レコード・アカデミー賞(仮称)」、「レコード芸術総集編(仮称)」の概要

クラウドファンディングでは最低2,000円から最高150万円まで、支援額に応じて8つの支援コースを設定。支援額に応じて、レコ芸術ONLINEを1年間購読できたり、人気執筆者による講座(オンライン/会場)や、人気執筆者をホストに迎えたレコード鑑賞サロン、レコ芸ゆかりの著名アーティストによるプレミアムコンサートに参加できるといった各種特典を用意する。

最高額の150万円コースでは、音楽之友社が運営する「音楽の友ホール」(東京・神楽坂)でのレコーディング実施権を提供。支援者自らの演奏をプロのエンジニアがレコーディング(1日)し、さらにプロのカメラマンによるジャケット写真撮影、完成した音源データの提供などを行う(別途料金でCD化)。ほかにも、音楽之友社のオンラインショップ「ONTOMO Shop」での発売、レコ芸ONLINEでの紹介記事作成などを含む。

○支援コースの金額

2,000円

10,000円

20,000円

30,000円

100,000円

300,000円

1,000,000円

1,500,000円

















担当者によると、今回のクラファンでメインとなるのは、レコ芸ONLINEを通常年会費13,200円から約25%相当オフで1年間購読できる「10,000円」コースと見ている。レコ芸ONLINEの創設を支援したいが、クラウドファンディングを使うことに不慣れで分からない……という人が出てきた場合は、電話などでの対応も検討するという。

集まった資金については、システム設計などの初期費用や運営費、記事制作費などに充てる。クラウドファンディングにおいて最終目標額(2,000万円)に満たない場合は、前述のコンテンツのうち「新譜月評」、「先取り最新盤レビュー」、「アーティスト・インタビュー」、「アーカイブ連載」に限定して掲載。その後、有料会員数の増加に伴って連載や特集など順次コンテンツを拡充するという。

また万が一、目標額を達成できなかった場合は、「かなり規模を縮小した形になるが、(自社で運営しているWebマガジン『ONTOMO』に)レコ芸ONLINEで予定していたコンテンツを入れていくつもり。秋開始予定だがクラファン未達の場合は時期をずらす」とのこと。

今回のクラウドファンディング開始にあたり、音楽之友社は都内で記者会見を開催。時枝正社長が冒頭で挨拶し、「(2023年の)休刊を決意した瞬間から、レコード芸術を新たな形で再生できないものかと模索してきた。レコ芸のWeb展開は内外からの強い要請もあり、クラウドファンディングによって行うことはかなり冒険的な手法ではあったが、重要な案件として検討していた」と述べた。

音楽之友社の時枝正社長

時枝社長はまた、「レコード芸術に対しては3,000名を超える署名が集められたほか、音楽関係者からの嘆願書、さらにはレコード会社、執筆者、海外を含む演奏家などから、復活への要望が絶え間なく寄せられた」とコメント。『このまま何もしないことの方が音楽之友社への信頼をなくすことにつながるのではないか』、『音楽之友社にとって(ONLINEメディア化に)チャレンジする姿勢が大切なことなのではないか』と社内でもさまざまな議論があったことを明かし、「本誌の価値や位置付けをクラウドファンディングというかたちで市場に改めて問いたい」と話した。