若い部下たちがなぜか相談しにくい上司の特徴を解説します(写真:mits/PIXTA)

「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」
「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」

ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。

本記事では、若い部下たちがなぜか相談しにくい上司の特徴を書籍の内容に沿って解説する。

上司との関係性の問題? 組織の空気の問題?


経営コンサルタントとして現場に入ると、若い世代から「上司に『なんでも聞いて』と言われても、なぜか聞けません」という声をよく耳にする。

さらに、次のようにも述べる。「とても気さくな上司なんですが、それでもなぜか聞けません」。本人も原因がわからないのだから、その上司はもっとわからないことだろう。「なんでも聞いて」「いつでも相談して」と投げかけても、いっこうに相談に来ない部下はいる。なぜ、そうなるのか? 

原因は「空気」である。

「なんでも聞いて、と言ってるんだから、いつでも時間があるときに聞けばいいんだ」

と考える上司たちも多いだろう。では、社長や経営陣を前にした会議で、「何か意見がある人は?」と言われて、率先して意見を出す人はどれぐらいいるのか。10人いたら、1人か2人いればいいほうではないだろうか。

仮に部下が4人いて、全員に「なんでも聞いて」と言っているのにもかかわらず、1人だけが「なぜか聞けません」と言っているのであれば、その1人との関係性に問題があるのかもしれない。

しかし部下4人のうち、ほぼ全員が「なぜか聞けません」と言っているのなら、職場の「空気」の問題だ。そしてその空気を変えられるのは上司しかいない。

では、どうしたら組織の「空気」を変えられるのか?

「空気」を変えるメルコサイクル

組織の空気を変えるために、私は「メルコサイクル」という手法を提唱している。メルコサイクルの「メルコ」とは、

・メッセージ
・ルール
・コミュニケーション

の頭文字をとった造語である。それをこの順番で回していくことを「メルコサイクル」と名付けた。多くの場合、「空気」に問題がある組織は、以下の3つのうちのどれかにあてはまる。

(1)「メのみ組織」

「メのみ組織」とは、リーダーが「メッセージ」しか出さない組織である。リーダーは組織の目的をきちんと理解している。だから、その目的を果たすために貢献しないメンバーを見ていると黙っていられない。

しかし「メのみ組織」のリーダーは、「もっと生産性を高めていこう」「今期こそは意識改革していこう」といったスローガンを唱えるだけで、具体的な行動指針を示さない。このため、メンバーは自己の判断で行動するため、当事者の主体性や意識の高さによって、メンバーの動きや成果にばらつきが出てくる。

(2)「ルのみ組織」

「ルのみ組織」とは、組織の目的達成に不可欠な情報共有ルールや仕組みがあるものの、形骸化し、守られていない「空気」が支配する組織である。質問一つで、この実態は浮き彫りになる。

「このケースでは、情報を誰にどう共有するのか決まっていますか?」
「決まってはいます。みんな知ってるとは思いますが……。いや……最近入った新人は知らないかもしれません」

つまり、ルールはあってないようなもの。理由は単に「やらなくても許されるから」である。組織の目標に焦点を合わせている人、つねに組織の成果を出そうとする人にとっては不満である。心の底では「ルールがあるんだから、みんな徹底してほしい」と思っているからだ。

(3)「コのみ組織」

「コのみ組織」とは、コミュニケーションだけある組織だ。時代のキーワードを先取りし、上司と部下との「1on1ミーティング」、組織横断型の「飲みニケーション」「社員旅行」「社内座談会」など社員が仲良くなるような施策を次々と取り入れる。役職や部署という垣根を越えてコミュニケーションが活性化しているので、表面的な「空気」はとても良くなる。

しかし「コのみ組織」の特徴は何らかの要因で業績が良く、恵まれた環境に依存していることである。そのため外部環境が変化し、ひとたび業績が落ちはじめると、組織が空中分解することもある。組織とは名ばかりで、仲良しグループになっていることが多いからである。

「あり方」と「やり方」を伝える

まずやるべきは、リーダー(上司)が組織のメンバーに対してメッセージを発信することである。1回や2回ではなく、何度も何度も、「しつこい」「くどい」と思われるほどに続けるのだ。

メッセージには「あり方」と「やり方」の2種類があるが、まずは「あり方」を示すこと。「あり方」とは、「あるべき姿」「ありたい姿」である。組織としてこうあるべきだ、ありたい、とリーダーは何度も何度も伝える。これがいわゆる「組織目的」に直結する部分である。「目標を絶対達成する組織にする」といった抽象的なメッセージでも、「離職率の低い会社に変えていこう」といったより具体的なメッセージでもよい。いずれも「あり方」である。

そして最も重要なことは主語を「私」にすることである。「私は、目標を絶対達成する組織にする」のような「アイメッセージ」である。「空気」の良くない会社のリーダーは、「あなた」「あなたたち」を主語にいわゆる「ユーメッセージ」を発する。「もっと意識改革をしていこう」「もっとコミュニケーションを密にしてくれないか」と。

主語が「私たち」も良くない。「みんなで変えよう」というメッセージを発している以上、「私だけでなく、みんなにも責任があるよね?」というメッセージを出しているようなものである。相手の考え方を変えたいのなら、まずは自分を「変える」こと。この手順を守るべきである。

メッセージを繰り返すことで少し雰囲気が変わってきたら、次にすべきことは「ルール」を徹底させるプロセスである。組織の目的が「あり方」とすると、ルールは「やり方」である。

存在するのに、守られていないルールは「守れ」とリーダーが言えばいい。もしも未整備なルール、見直すべきルールがあるなら、メンバーたちと話し合って決めていく。「ルールを作っても、どうせ守られない」と冷めた目で見るメンバーもいるかもしれないが、リーダーは気にせず、淡々と進めるべきだ。まだまだ「空気」が発展途上の段階だからだと受け止めればいい。

つまり、リーダーは理念に基づいたルールを設定し、それを守る文化を築くことで組織を導くのである。

ギスギスした空気にしないコミュニケーションとは?

最後にコミュニケーションについて解説する。コミュニケーションは潤滑油の役割になる。

「メッセージ」と「ルール」を意識することによって、組織は変わりはじめる。しかし「メとルのみ組織」だと、ギスギスした空気が漂うことが多い。そこで、定期的にコミュニケーションをとる機会を作ろう。

ポイントは3つである。

(1)単純接触
(2)共時性
(3)自己開示

業務のためのコミュニケーション(用談)ではなく、業務とは関係のないコミュニケーション(雑談)を積極的にできるよう、ルールと仕組みを整備する。

これも「場」を提供するだけで、自主性に任せてはいけない。必ずルールを決める。お互いの関係構築には「単純接触」が大事である。濃厚接触の「社員旅行」「運動会」「飲みニケーション」でなくとも、「挨拶運動」「他部門とのランチ会」などを定期的にやることでも十分だ。

また、同じ時間を共に過ごしていると関係が構築されやすい。この心理効果を「共時性効果」と呼ぶ。メールなど、時間差のあるコミュニケーションは共時性効果が働かない。実際に会ったり、メールよりは共時性効果を期待できる「社内SNS」の利用をお勧めする。

設定型の雑談コミュニケーションを行う場合は、「自己開示」できるテーマにしよう。当然のことながら、リーダーが積極的に自己開示することが大事になる。このとき、仕事の話は2割以下に抑えることが望ましい。ただし、空気が良くない状態でメンバーに「自己開示」を強要することはご法度である。

一進一退を続ける「空気革命」

「メルコサイクル」を回すこと。これまでのコンサルティング実績からすると、スムーズに進行しても、空気が変わるのに早くて半年。普通は1年ぐらいはかかる。1年で空気が変わらないとなると、リーダーに原因がある。リーダーの姿勢が中途半端だと遅々として空気革命は進まない。

「空気」はしばらくの間、一進一退を続ける。いったん良くなっても、また何かのきっかけで悪い状態に戻ったりもする。

そうなったときに、必ず見逃すことなくリーダーはメッセージを発するべきである。「私は何があっても元には戻らせない」というアイメッセージで発するのである。そしてユーメッセージで「ルールを守れ」と働きかけ、相互の雑談コミュニケーションを促す。

空気が良くなり、組織が「本来の組織」としての機能を取り戻すと、おおよそ8割のメンバーは自主的に動きはじめるだろう。

これが組織の力である。

組織の「空気」を良くしていこう。そうすれば、組織に新しくジョインした若者の多くは、少しは大変な労苦があっても乗り越え、目的を果たし、結果的に「働きがい」や「やりがい」を感じるようになる。

メンバーが主体的に動くような「空気」を恒常的に維持することが、現代の組織において不可欠なのだ。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)