リモート会議で心理的安全性を保つには対面のとき以上に工夫が必要かもしれません(写真:y.uemura / PIXTA)

「部下がちゃんと話を聞いてくれているのかわからない……」。リモート会議で気づけば、上司しか話していない「独り相撲」のようになっていたことはないでしょうか?

それでは、上司も部下も心理的安全性が損なわれてしまいます。

『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』を上梓した広江朋紀氏は、上司も部下も思ったことを伝え合える、双方向の場づくりが重要だといいます。同書から一部を抜粋・再編集し、管理職が悩みがちなリモート会議で、心理的安全性を高める秘訣を紹介します。

リモート会議で心理的安全性を高める秘訣

リモート会議で、心理的安全性を高めるためにすぐできることは「画面をオンにすること」です。

画面オフが通例、という会社もあると思いますが、会議で表情も見えず、音声もミュートで参加されると、他の参加者は孤独感や断絶感を感じてしまいます。

声などの聴覚情報だけでなく、表情や態度などの視覚情報があれば、会議の内容に対する参加者の理解度合いを把握することができます。内容が伝わっていないと思えば、その箇所について詳しく説明したり、補足したりすることが可能です。

また、参加者が発言することに躊躇や恐れがありそうな場合は、チャットなどのツールを活用することも効果的です。

たとえば「今までの内容について、気づいたことや感想をチャットで投稿してみてください」「リアクションボタン(表情などの絵文字アイコン)で、今の感情を表現してみてください」などと呼びかけるだけでも、双方向のコミュニケーションが生まれます。

そして、チャットやリアクションをしてくれた相手に対して「Xさんコメントありがとうございます!」と名前を呼んで感謝を伝えるのもおすすめです。

人は、自分の名前を呼ばれるだけでも「認知された」「承認された」という感情が芽吹くので、参加者との心理的なつながりを生むことができます。

ほかにも、トークに意図的な「間」を空けるのも有効でしょう。

話者が一方的に早口で伝えようとすると、参加者が話についてこられなくなりがちです。それでは、内容に不明点があっても解消できないまま議論が展開し、心理的不安が増していきます。

特に、重要なメッセージを伝える際には、意識的に「間」を空けることで参加者の注目を集めましょう。

さらに、このとき「問いかけ」をすると、参加者が自分の頭で考えようとするため、理解をより促すことができます。

「問いかけ」によって参加者とキャッチボールをすることで、話者自身の不安解消と、参加者の理解促進を実現しましょう。

例えば、以下のように問いかけてみてください。

チームメンバーに新しい提案をする場合

×上司「ぜひ、このプランをやろう!」
〇上司「このプランをやってみるのはどうかな?」(間を空ける)
 部下「良いプランだと思いました!やってみたいです!」

グラフに注目してほしい箇所がある場合

×上司「このグラフ、2段階目で急激に数値が下がっているね」
〇上司「このグラフを見て、何か気づくことはないかな?」(間を空ける)
 部下「急に数値が下がっているところがありますね」

このように、一方的に話すのではなく、問いかけることで参加者の意識を任意の箇所に集めることができます。

ほかにも、「問いかけ」には以下のようなメリットがあります。

■ 参加者に「自分で考えた答え」という意識を与える、また、それにより行動に移しやすくなる
■ 話者と参加者、双方で「答えを共創する」という意識を与える
■ 参加者を「受動モード」から「能動モード」に変えることができる

「問いかけ」を駆使して、心理的安全性を損ねる話者の「独り相撲」から脱却し、参加者の意欲と行動を喚起してみましょう。

リモート会議こそ「余白」をつくる

リモート会議では、「創発」の機会が生まれにくいと考えられます。

創発とは組織論やナレッジマネジメントの分野で、組織のメンバー間の発想や能力をかけあわせて、予想もつかない新たな成果を生み出すことを意味します。

メンバー同士が自由に意見を出し合うことで、新しいものを創造していくイメージです。

リアルの会議では、会議の前後や休憩時間に雑談するなど、リラックスした時間や空間が生まれていました。

これはまさに、お互いのつながりを確認できる、心理的安全性が高い場です。忖度なく、突拍子のない意見を出してもとがめられる恐れがないので、新しいアイデアが出やすくなります。

活用したい「ブレイクアウトセッション」

一方で、リモート会議では、短時間で多くの情報を扱おうとするため、上記のような自由に話し合う“余白”がなくなりがちです。リアルの会議で生まれていた心理的安全性が高い場は、リモート会議では自然には生まれません。

そこで、リモート会議でも心理的安全性を確保し、意見を出しやすくするために「ブレイクアウトセッション(オンライン会議ツールで参加者を少人数のグループに分ける機能)」を活用することをおすすめしたいと思います。

例えば、ある程度の人数規模での会議や社内イベントでは、質疑応答の時間があると思います。全体で質疑応答の時間を取る前に、ブレイクアウトセッションで、少人数での感想共有や質問の洗い出しをしてもらうのです。


さらに、ブレイクアウトセッションに入る前に、「この後、感想や疑問を共有する時間を取るので、まずは1分くらい各自で考えてみてください」と伝えて個人ワークの時間を取ると、その後の対話の密度が深まるので効果的です。

また、リモート会議終了後に、感想や質問がある人に任意で残ってもらうと、参加者間の相互作用を起こす“余白”を意図的に作ることができます。私はこれを「放課後タイム」と呼んでいます。

ぜひ、今回お伝えしたティップスをご活用いただき、日頃のリモート会議における心理的安全性を高め、豊かな対話が生まれる場にアップデートしていただきたいと思います。


(広江 朋紀 : リンクイベントプロデュース ファシリテーター)