手数料の安さだけで安易に証券会社を選ばず、信頼できる担当者のいる証券会社を見つけることが長期投資では重要だ(写真:kouta/PIXTA)

新NISA制度の開始など、「貯蓄から投資へ」の流れが加速する2024年。そのような状況のなか、フリージャーナリストの川島睦保氏は「老後の投資は、業界No.1企業への高配当投資に限る」としたうえで、老後生活を豊かにする投資術を実践しています。本記事ではシニアが高配当投資を行うための資金管理をどのようにすればいいかを解説します。

*本稿は『一生、月5万円以上の配当を手に入れる! シニアが無理なく儲ける株投資の本』(川島睦保 著)から一部抜粋・再構成しています。

対面証券とネット証券はどちらが有利か?

株式の売買を始めるには、証券会社に取引口座を開設し、資金を振り込まなければならない。

証券会社には従来型の対面証券とネット証券の2つがあるが、高配当利回り銘柄で「第2の年金」づくりをするにはどちらが有利で、便利だろうか。

私の体験からすると、ITがあまり得意でなく、年1〜2回程度の取引(売買)しか考えていないシニア世代の初心者は対面証券を利用するのが良いと思う。

その理由は何か。まず、私が推奨する投資法は高利回りの配当金を長期に獲得するのが目的だから、株式の売買を頻繁に繰り返すわけではない。取引手数料の安さ(ネット証券だと無料のところもある)は、あまり意味をなさない。

それよりも手数料が安すぎることは、かえって弊害が多い。

取引手数料が安いということは、保有株が値上がりすると、すぐにでも売って値上がり益を確定したいという気持ちにさせる誘因となる。

あえて誤解を恐れずにいえば、手数料が安いことは頻繁に売買を繰り返す「バクチ」取引への導火線となる恐れがある。

それは私が提唱している長期の高配当利回り投資に反する。

さらにネット証券では、投資家は孤独になりがちだ。個人投資家は、専門家と相談し、議論を重ねながら、投資の経験を積んでいくのが良いと思っている。

その点で、対面証券の営業担当者は格好の相談相手となる。

売った、買っただけの話でなく、税金や確定申告、新NISA、相続問題など投資に絡む初歩的な質問でも丁寧に答えてくれる。

IPO(新規公開株)投資の情報を引き出せることも

また対面証券では折に触れてIPO(新規公開株)投資の有益な情報を得ることができる。

IPO投資とは、企業が新規に株式を上場公開する前に、投資家が証券会社の抽選に申し込むことで株を公開価格で買う権利を手に入れて、上場当日やその数日後についた値段で売却して利益を出す投資手法だ。

新規公開株は公開価格を大きく上回る初値(上場日に初めてつく株価)がついたり、上場後に人気化して大きく値上がりすることが多く(例外があるので要注意!)、IPO抽選に当たるだけで簡単に利益を出せる投資法だ。

営業担当者と懇意にしていると、このIPO抽選会の開催情報を教えてもらえることがある。

ただしこうした短期売買は長期投資の趣旨から外れている。参考情報として聞きとどめるだけにして欲しい。

ほかにも対面証券のメリットは多い。対面証券とは、お店の窓口カウンターでの対面を通じて業務全般を行なう証券会社のことだ。

「窓口を通じて」といっても、実際にお客が窓口に出向くのは口座開設のときぐらいで、その後は電話で売買の注文を受け付けてもらえる。

対面証券会社でもネット証券と同様のオンライン証券サービスを行なっている。併用すればネット証券と同じ利便性や快適性を得ることができる。

対面証券会社で投資を行なうメリットは、営業の担当者から直に様々な投資の情報や売買に関するサポートを受けることができる点だ。

実際に何を買っていいかわからない場合、あるいは複数の銘柄からどれに絞り込んだらよいか迷っている場合、自分の手持ち資金の大きさやリスク許容度、今後の相場見通しなどに応じて最適の選択を提案してもらえる。

新聞などのニュースでは、いまでも強引な営業マンは後を絶たないようだが、運悪くそうした人に当たったら、その人の上司や顧客相談窓口、広報部などに直接苦情を述べればよい。まともな証券会社ならきちんと対応してくれるはずだ。

オンライン証券特有の"不安感"とも無縁

パソコンの取引操作に自信がない方にも、対面証券会社はお勧めだ。

対面証券会社でもオンライン証券サービスを利用すればパソコン画面上から注文を出せることはすでに触れたが、長期投資の場合は頻繁に取引を行なうわけではないので操作の手順をついつい忘れてしまう。

そのときでも担当者へ電話一本入れれば、すぐに助言してもらえる。誤った操作で間違った売買の注文を出してしまう「誤発注」の心配も少ない。

電話で売買の発注をする場合でも、営業担当者がこちらの注文を必ず繰り返してくれるので二重のチェックを行なうことができる。

そのやり取りは録音されている。言った、言っていないといった類のトラブルも回避できる。

一方、対面証券のデメリットとは何か。最大のデメリットは、ネット証券と比べた場合の手数料の高さだ。

対面証券は、担当者を通して顧客に様々な提案などしながらサービスを行なっているので、人件費や店舗の維持にコストがかかる。そのためすべて機械任せのネット証券に比べ手数料が高くなるのは仕方がない。

注文の内容や金額にもよるが、1回あたり1000円から数万円の手数料がかかる。そのため、顧客にとっては投資で利益を出すうえで手数料が負担となる。

もう一つのデメリットとして、注文の執行まで時間がかかることだ。

株価は刻一刻と変化しており、1秒のあいだにものすごい数の注文が執行されている。店頭の株価ボードやパソコン画面で株価を確認したとしても、いざ発注を行なうときにはもう株価が大きく変動していることがある。

意図した価格で売ることができずに売りそびれたり、意図しない高い価格で買い付けてしまったというケースも聞く。

長期の投資では"秒単位の損得"は無縁の世界

しかし心配は無用だ。長期の投資家は年間の配当利回りの高さや、長期的な値上がり益を目標にしている。

電話の注文でも1〜2分で取引が終了するので、注文した価格水準と実際に購入できた価格の差が大きくかい離していたということはあまりない。

1秒単位で「損した、儲けた」といった話は、別の世界の出来事だ。

ネット証券には多くのメリットがある。

そのなかでも最大のものは手数料の安さだ。ネット証券は、実店舗がなく店頭スタッフもいないため、対面証券に比べ運営コストがそれほどかからない。

そのため手数料が非常に安く設定され、1回の注文当たり数十円程度の手数料から取引が可能である。なかには、手数料が無料の証券会社もある。

ネット証券では各種情報へのアクセスが速いのも"売り"だ。

パソコンの画面をクリックするだけで、株価や市況のニュースなどがリアルタイムで映し出される。注文の執行でも、パソコンの画面上でリアルタイムに確認できる。安さと速さ、これがネット証券の強みである。

しかし、対面証券でもこうしたネット取引の併用が可能だから、ネット証券のメリットも得られる。

対面取引のきめ細かな助言やサービスとネット証券のスピード取引の両方のメリットを享受することができる。

割高な手数料は、質の高い助言で取り戻せる

手数料はたしかにネット証券に比べて割高だが、年にせいぜい数回しか取引しないのだから無視できる。


そして取引手数料が割高な部分は、営業担当者からの質の高い投資助言による高い投資パフォーマンスで取り戻せばよいだけの話だ。

対面証券の営業担当者は、こちらが頻繁に売買する気がないとはっきり伝えてもしつこく電話をかけてくることがあるが、ネット証券ではそうした煩わしさをシャットアウトすることができる。

ただし長期投資を推奨する立場から言えば、ネット証券の手数料の安さが魅力的に感じているとすれば、それは投資家から投機家へと変身しつつある前兆だ。

警戒信号だと受けとめるべきだ。

(川島 睦保 : フリージャーナリスト、翻訳家)