日産は2026年度までの中期経営計画「The Arc」を発表した。30車種の新車を投入し、販売台数を100万台増やす。売上高営業利益率6%以上を目指す(撮影:尾形文繁)

「数字目標が多く並び、(日産自動車の)コミット文化がよく表れている。ただ、どうやって増やすかの『How』の具体的な説明がなかった」。ある日産系サプライヤー首脳はそう印象を語った。

3月25日、日産は2026年度までの中期経営計画「The Arc」を発表した。3年間で30車種の新車を投入することで、グローバル販売台数を2023年度の約355万台から100万台増やす。売上高営業利益率は今期見通しの4.8%から6%以上へ引き上げることを目指す。

内田誠社長兼CEOは、「この計画によって日産は価値と力をさらに向上させていく」と宣言した。それでも、冒頭のようなサプライヤーの反応が出るのは、日産の近年の中期経営計画は未達が続いており、グローバル販売台数も2017年度をピークに右肩下がりとなっているからだ。


30車種の新型車で攻勢

もっとも、一応「How」はある。30車種の新型車の投入だ。

30車種のうち16車種を電動車、14車種をエンジン車とする。電動車では、電気自動車(EV)は8車種にとどめ、独自のハイブリッド車(HV)「e-POWER」を4車種、プラグインHV(PHV)も4車種を投入する。

世界的にEV販売が減速する中、EVだけにこだわるのではなく、エンジン車、HV、PHVとバランスよくラインナップすることで、主要市場のすべてで台数を伸ばす野心的な計画となっている。

もっとも多い33万台増を計画するのが北中南米市場。

中心となるアメリカでの販売台数は、2017年度の159万台から2022年度には76万台と半減以下に落ち込んだ。半導体不足の緩和によって2023年度は11カ月累計で2割増となっているが、低水準であることは変わりない。ここにe-POWERやPHVを含む7車種の新型車を投入することで挽回を図る。


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アメリカはカルロス・ゴーン元会長時代にインセンティブ(販売報奨金)の乱発で台数を追った。結果、収益性は低下しブランドも棄損した。その反省からインセンティブ頼みからの脱却を図っている最中にコロナ禍が直撃したため、台数は減ったものの収益性は改善傾向にある。

再び拡大へ向けてアクセルを踏むことになるが、規模と収益性を両立できるかはわからない。

中国はパートナー戦略で反撃

その北米以上に視界不良なのが、20万台増を目指す中国市場。

日産の中国販売は2018年の156万台から2023年の79万台へと縮小している。足元で上向き傾向にある北米と異なり、2024年1〜2月も微減と上向く気配が見えない。

中国は市場全体でEVとPHVを合わせた新エネルギー車(NEV)の販売が急増しており、2023年には市場全体の4割近くがNEVになった。この流れについていけなくなった日米欧メーカーはどこも苦戦している。

日産は8車種のNEVを投入し反撃する。中国のユーザーのニーズに即応するために、8車種のうち5車種は合弁パートナーである東風汽車から供給を受ける。「中国の開発で、中国のお客様のスピードにあった仕様を提供していく」と内田社長。

そのほか、日本でも9万台増、アフリカ、中東、インド、ヨーロッパ、オセアニアで合計30万台増とそろばんをはじく。

もっとも、100万台増の計画達成には懐疑的な声が多い。

前出のサプライヤー首脳は「この2〜3年、日産からは年間400万台の生産計画を伝えられていたが下方修正し続けていた。台数については保守的に見ざるを得ない」と冷ややかだ。日産との取引が多い別のサプライヤーの経営企画部長も「日産さんの数字をそのまま信用するとひどい目に合うので、8割といった数字で考えないといけない」と切り捨てる。

日産が強気の台数目標を打ち出すには、そうせざるを得ない事情がある。

ゴーン時代の拡大戦略の結果、グローバルでの年間生産能力は一時、720万台まで膨れ上がった。その後、インドネシアやスペインで工場を閉鎖し生産能力は540万台まで減らしたが、販売台数も2017年度の577万台から2023年度(見込み)の355万台まで低下したことで生産台数が減少。足元の平均稼働率は68%と低迷している。

サプライチェーンを含めて地域経済への影響が大きいため、自動車工場の閉鎖は簡単には実行できない。稼働率を改善するには生産・販売台数を引き上げるしかない。

ただ、能力過剰が顕著な中国は販売台数が20万台の増加では十分な改善とならない。このため、2025年から中国生産車の輸出を開始。第1弾として10万台規模の輸出を目指す。さらに合弁パートナーと生産能力の「最適化を検討する」ともいう。

生産技術を担当する坂本秀行副社長は「2026年は(平均稼働率が)91%に上がる」と説明している。100万台の販売増で稼働率91%となるには生産能力を500万台規模に減らす必要がある。中国だけとは限らないが、40万台規模の生産能力削減を行うのかもしれない。

問われる実行力

中計達成には新型車が目論見通り売れる必要があるが、それ以前に、新型車を計画通り投入できるかが問題となる。

2年前に発売開始したEV「アリア」は生産に手間取り、今年3月上旬まで日本で受注停止が続き販売機会を逃した。東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは「ゴーン会長時代から新車の投入の計画が遅れることがよくあった。新規車種をタイムリーに投入できるかがカギになる」と指摘する。


ホンダとの協業は検討が始まったばかり(撮影:尾形文繁)

また、EVコストの現行比30%の削減や次世代生産方式の導入、自動運転技術の開発、モビリティサービスやエネルギーマネジメントサービスといった多方面の戦略を打ち出した。これらの実現にルノーや三菱自動車とのアライアンス、先日発表したホンダとの協業などのパートナーシップを活用していく方針も示した。

説明会で内田社長は「これまでのやり方を続けていては成功できない。抜本的な改革が必要で、中期的にやることは明確だ」と語った。確かに、これまでの日産のやり方では新中計も未達に終わる可能性が高い。やるべきこと、抜本改革を実行できるかにかかっている。

(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)