小田原方から見た小田急の海老名駅。奥の新築ビルに小田急の海老名本社と乗務所がある(記者撮影)

神奈川県海老名市にある小田急電鉄の海老名駅は新宿から42.5km、小田原線新宿―小田原間(82.5km)のほぼ中間に位置する。かつて駅周辺は田畑や空き地が広がるばかりだったが、いまは大型商業施設とタワーマンションが建ち並ぶ。「住みたい街」のランキングでもつねに上位に顔を出す街の中心となる駅だ。

ホームに流れる「いきものがかり」

海老名という地名を聞いて思い浮かべるのは、東名高速道路のサービスエリア(SA)という人は多いかもしれない。利用者数は日本一。名物のメロンパンが人気の観光スポットの一面もある。海老名SAから北へ2〜3km、鉄道の駅の地位も向上している。

小田急の海老名駅は2面4線のホーム。特急「ロマンスカー」の一部も停車する。列車接近時には地元ゆかりの音楽グループ「いきものがかり」の楽曲を用いたメロディが流れる。橋上に中央改札と西口改札があり、どちらからもペデストリアンデッキで駅の東西と行き来できる。改札内と改札外の2カ所で「箱根そば」が営業している。

2022年度の1日平均乗降人員は12万3222人。小田原線・江ノ島線・多摩線を合わせた計70駅のなかで6位に位置する。


海老名駅のコンコース。「箱根そば」は改札の中と外で2店舗ある(記者撮影)

海老名には相模鉄道の相鉄本線と、少し離れてJR相模線が乗り入れる。相鉄本線は横浜―海老名間24.6kmを結ぶ。海老名駅は頭端式ホーム1面2線。JR直通線と東急直通線の開業により、新宿や西高島平など、さまざまな行き先の電車を見るようになった。2023年春には小田急の改札と反対側の横浜方に北口が誕生した。駅改良工事も続いている。


相鉄の海老名駅に2023年春に誕生した北口(記者撮影)

乗換駅として設置

小田急・相鉄両線の開業当初、海老名駅は存在しなかった。1926年、相鉄本線の前身にあたる神中鉄道が二俣川―厚木間の営業を開始。翌1927年には小田原急行鉄道が小田原線の新宿―小田原間を一気に開通させた。神中鉄道には相模国分、小田急には海老名国分という名称の駅があった。


海老名駅の新宿寄りにかつて海老名国分駅があった(記者撮影)

海老名駅は神中鉄道が現在の小田急線本厚木駅に乗り入れるにあたり、1941年に設置された。場所は現在よりやや東側の押堀西交差点付近で、当初は小田急の電車は通過していたという。両社が戦時統制で「大東急」傘下となったのち、1943年4月、小田急の電車が海老名に停車するようになって海老名国分は廃止。海老名国分は小田急としては数少ない廃止駅だ。

JRの海老名駅が設置されたのは、ずっと時代が下って国鉄民営化直前の1987年3月21日。海老名市が設置費用を負担した請願駅で、1991年に相模線が電化されるまでは気動車が発着していた。相模線にとっても海老名は茅ケ崎―橋本間33.3kmのほぼ中間にあたる。全線が単線だが、最近になって新型の「E131系」電車が投入された。

駅周辺では2002年に巨大な商業施設「ビナウォーク」が誕生したが、まだまだ空き地が目立っていた。近年、その変貌ぶりが目覚ましい。2014年に東口に複合商業施設「ビナフロント」がオープン。JRの駅西口エリアには2015年、三井不動産が手がける「三井ショッピングパーク ららぽーと海老名」が開業した。

JR線と小田急線に挟まれたエリア「ビナガーデンズ」では2棟の新しいタワーマンションが目を引く。リーフィアタワー海老名アクロスコート(2019年10月竣工、総戸数304戸)と同ブリスコート(2020年10月竣工、302戸)はどちらも地上31階建てだ。


東口のビナウォーク側から見た海老名駅。奥にビナガーデンズの2棟のタワーマンション(記者撮影)

駅長「可能性を秘めている」

2021年4月19日にはビナガーデンズに隣接して、歴代の特急車両5車種を展示する「ロマンスカーミュージアム」がオープン。2022年にはクリニックモールなどが入る「ビナガーデンズパーチ」と、「ビナガーデンズオフィス」が竣工。小田急電鉄も東京都心の新宿から本社機能の一部を移転した。

海老名駅の青木敬太駅長は「以前から相鉄線との乗り換えで人の流れはあったが、海老名自体を目的に来る人が増えた」と指摘する。とくに親子連れの姿が目立つようになったという。「海老名は子育て世代が多く、開発できる土地もたくさんある。小田急70駅のなかでもポテンシャルを秘めているのでは」と街の発展に期待を込める。


小田急海老名駅の青木敬太駅長(記者撮影)


海老名駅の信号所。新宿方と小田原方に車庫線がたくさん分かれている(記者撮影)

小田急にとって海老名は、電車をメンテナンスする検車区とたくさんの車庫線、保線の基地、運転士と車掌が所属する乗務所があり、運行上の拠点でもある。

小田急の乗務所は喜多見、海老名、大野、足柄の4カ所にある。以前はそれぞれ電車区・車掌区に分かれていたが、海老名は2022年6月、そのほかは2023年9月に乗務所に統合した。

海老名乗務所は小田急が海老名本社を置くビナガーデンズオフィスに入っている。休憩や食事、ミーティングのためのスペース、個室が並ぶ宿泊設備もこの建物の中にある。約120人ずついる運転士・車掌を含め、計285人が所属する。


海老名乗務所の渋谷信雄所長(左)と住吉雄一副所長(記者撮影)

渋谷信雄所長は1984年の入社。1986年に海老名で車掌になって以降、運転士・電車区長として同地での長い勤務経験がある。「田園風景ばかりを見ていたので、いまのタワーマンションや商業施設ができるとは思いもよらなかった。新宿から本社の一部機能もやってきて小田急の拠点になっている」と話す。

1989年入社の住吉雄一副所長は、大野電車区での勤務が長い。「ほかのエリアの運転士として海老名は配線が複雑なので少し緊張した」という。「何もなかった場所に建物ができてくるのを目の当たりにして変化を肌で感じた。大野には申し訳ないけど、伸び率としてはやっぱり海老名なのかな」と語る。

海老名市と連携強める

海老名には2024年に入ってからも動きがある。2月22日には小田急電鉄と海老名市が包括連携協定を締結した。

連携目的を「防災や保健福祉、教育等の市民サービスの一層の向上と地域産業や文化等の活性化をはじめとする連携項目を通じ、積極的な地域連携を図ることにより、『住みたい 住み続けたいまち 海老名』を実現するため」としている。内容は子育て支援から、ロマンスカーミュージアムでの学習体験、「認知症等行方不明者の情報共有」まで多岐にわたる。

現在、駅東口から飛鳥通りを東へ進んだ先では奈良時代の相模国分寺跡・相模国分尼寺跡が公園として整備されている。海老名は古くから人を寄せ付ける力があったと言える。今後、“住み続けたいまち”の玄関口としての駅の役割も増していくことになりそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)