アメリカ軍はコンピューターゲームやeスポーツを通じて10代の少年少女を軍隊に勧誘しており、海軍だけでもこの勧誘活動に年間430万ドル(約6億5000億円)を費やしていることが報告されています。こうした軍隊の勧誘活動と世間からのバッシングについて、海外メディアのThe Guardianが紹介しました。

The US military is embedded in the gaming world. Its target: teen recruits | US military | The Guardian

https://www.theguardian.com/us-news/2024/feb/14/us-military-recruiting-video-games-targeting-teenagers

The Guardianによると、アメリカ軍が志願制に移行して以来最悪の採用難に直面した2018年以降、より多くの人を採用するために「ゲーム」に焦点を当てた活動が活発化しているそうです。

具体的には、軍隊がeスポーツトーナメントの後援を行って活動をアピールしたり、軍隊自らがeスポーツトーナメントを主催したり、あるいは軍隊内でeスポーツチームを結成して親近感をアピールしたりするなどの取り組みが実施されているとのこと。海軍募集司令部の広報担当者によると、アメリカは海軍だけでマーケティング予算の3%〜5%をeスポーツの取り組みに毎年割り当てていて、その額は2022年10月から2023年9月の期間だけでも最大430万ドルにのぼります。



こうした活動が行われている中で、軍人の中には「ゲームで軍を売り込むことは倫理に反する」と主張する人もいます。

最も懸念されるのはゲーマーの年齢層です。オンラインゲームは子どもたちに人気がありますが、その多くはまだ13歳にもなっていません。こうした子どもたちをゲームを通じて勧誘してしまうと、好きだったはずのゲームで得たスキルが人を殺すスキルに応用されることとなり、子どもたちの精神に多大な影響を与えてしまう可能性があるとThe Guardianは指摘しています。

とはいえ、ある一定の年齢まで成長してしまうと、子どもたちは軍隊よりも大学や専門学校に進学する確率が高くなってしまいます。このことは数十年前から勘案されてきた事項であり、1990年代後半にアメリカ軍が独自のビデオゲームをリリースした時は、プロジェクトの主導者が「17歳まで待つことはできないんだ。その頃には子どもたちが進学の道を決めているはずだからね」と語ったことが記録に残されています。なお、当該ゲーム「America's Army」は意外にも大成功を収めています。

世間のバッシングと人手不足の板挟みに悩んだアメリカ軍は地道に勧誘活動を維持し、21世紀に入ってビデオゲーム業界が活発化して以降は、Twitchなどの配信プラットフォームを通じて勧誘活動を行うことも増えています。公式には軍は17歳未満の者を採用できませんが、採用できる年齢になるまでの土台作りとして、ゲームを通じた勧誘が非常に有効的であることには変わりないとのことです。



勧誘活動が積極的に行われる中で、ゲームを通じた勧誘活動に反対するグループも活動の輪を広げています。そうしたグループのひとつが、退役軍人による反ゲーム勧誘活動「ゲーマーズ・フォー・ピース」です。

ゲーマーズ・フォー・ピースのメンバーのほとんどは30代から40代の退役軍人であり、自らもゲーマーだという人が多いそうです。こうした人たちは、元軍人かつゲーマーという性質故に、ゲームが若者に与える影響と軍隊での実際の活動がどのようなものかという点を理解しており、何も知らない子どもたちをゲームで勧誘する活動には嫌悪感を覚えているとのこと。

メンバーの一人であるケイトリン・コンシダイン氏は「私には13歳の弟がいますが、もし弟が軍隊による配信や勧誘の広告を見たと知ったら心配になります。軍隊も自らを宣伝する必要があるというのは理解していますが、どんな方法であれ、結局は軍隊による殺人をほう助することにつながっているのです」と話し、若者の好奇心を糧とする勧誘活動に懸念を示しました。



ゲームと軍隊を結びつける活動には反対の声がありますが、ゲーマーだからこそ軍隊で活躍できるとの報告もあります。The Guardianによると、潜水艦や戦闘車両の一部には「ゲームのコントローラー」に似た操縦桿が付いていることがあり、ゲーマーには操作しやすいものになっているそうです。

またゲームをすることで知覚や認知機能が向上する可能性があるという研究結果も存在することから、ゲームは軍人としての素質を身につける一助となるとの考えもあります。ただし、実際の戦争はゲームではなく、戦闘による精神的なダメージや肉体的なダメージを完全に免れることはできません。

ゲームを使った勧誘活動に加え、ゲームを使ったメンタルの回復活動も盛んに行われるようになっており、軍隊とゲームの関係は切っても切り離せないものになりつつあります。