今、団地での暮らしに注目が集まっています。「リノベーションすることで割安感のある好みの住まいになる」「建物がある敷地が広くて緑が豊か」といったことがおもな理由。

団地を舞台にリアルなシニアライフを描いた漫画『ぼっち死の館』の作者で、自身も団地でひとり暮らしをしている77歳の漫画家・齋藤なずなさんにお話を伺いました。

【写真】齋藤さんの単行本『夕暮れへ』は、英語版やフランス語版も

団地の魅力は家賃と広さのバランス

かつては「ニュータウン」としてにぎわった大型団地も、住んでいるのは高齢者と野良猫ばかり。しかし、その一人ひとりの暮らしにはドラマがあり、悲喜こもごものエピソードがあります。

東京で生まれ、静岡で育った齋藤さん。子ども時代を過ごした家は一戸建てだったそうですが、独立して以降の住まいはアパートや団地など、ずっと集合住宅だと言います。たまたま、義理のお兄さんの代わりに一時的に暮らしたのが団地との出合い。出ることになったとき、アパートも探してみたそうですが…。

「団地と同じぐらいの家賃で探すと、アパートの場合、もっと狭いところしか見つからないんですよ。そう考えたら広さもちょうどいいし、間取りも便利。団地って優秀だなあと。以来、人生の半分近く団地暮らしです」

団地内の人間関係も、魅力のひとつです。

「20年もここに住んでいると、自然と顔見知りも増えます。仲よしのお友達同士だと、互いの家にお茶を飲みに行ったり来たり。みんなほぼ同じ広さ・同じような家ですからね。だれかの家が豪邸でだれかの家があばら屋だ、なんてことはないわけです(笑)。つまり、みーんな似たり寄ったり。今さらだれも気取ったりしません」

作品の中では、団地で大小さまざまな事件が起こります。

「作中のエピソードのほとんどは私の創作。でも、タイトルにもなっている『ぼっち死の館』っていう話は、事実に基づいて描いた部分があります」

ひとりだって孤独だって「大丈夫、心配いらない」

作品には、孤独死した高齢男性が、死後1か月もたってから発見されるエピソードが出てきます。主人公(齋藤さん自身がモデル)が亡くなった方を見に行くシーンがありますが「実際に見に行ったんですよ」と齋藤さんは笑います。

「長い間、新聞でイラストルポの仕事をしていたせいなのか、漫画家のサガなのか。変わったことがあると『あ、これはネタになる!』って思っちゃう。不思議と怖いという気持ちはありませんでしたね」

高齢者ばかりの団地では、いつもだれかが病院に運ばれたり亡くなったり。でも、「それが当たり前じゃないですか?」と齋藤さんは言います。

「そういうことがあって初めて『え? あの人、そんな大会社の偉い人だったの?』なんてわかったりする。元気な間はお互いの事情には踏み込まないですからね。それでいて、お互い気にかけ合っているから、姿を見かけなくなると心配したりして。ちょうどいい距離感なんだと思います」

団地で孤独死だなんて恐ろしい! 『ぼっち死の館』は、むしろそんな先入観を逆手に取った作品なのです。

「だれだって見栄をはるし、生活は大変。孤独は気ままだけど、寂しくもある。でも、それを嘆いてたってしょうがないでしょ。似た者同士が肩寄せ合って暮らす団地で、お互いに辛辣なあだ名をつけ合ったりして、精いっぱい楽しく暮らす。大丈夫、つらいときや困ったとき、素直にそれを伝えられたら、助けてくれる人がきっと現れるはずですから」