雪に慣れない地域でくり広げられた光景。「雪国の人たちの備え」に学んだこと
作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。先日、雪が普段降らない地域で見舞われた大雪を受けて感じたことをつづってくれました。
第116回「雪のある生活」
愛媛に雪が降った数日後、東京にも積もったみたいで、ニュースは大渋滞を映し出した。未だに明日雪だって聞くと少しわくわくしてしまうのは、私が会社勤めでないからだろう。
四国を含め、雪があまり降らない地域は、数センチの積雪で交通が麻痺してしまう。東北や北海道では朝飯前のたった数センチで、電車はストップ、車は大渋滞、東京のスーパーには数日間食料が補充されなかったとか。何十年同じことやっとるん…と思うけれど、数年に一度となるとそれに向けて対策をする予算も落ちにくいのだろうと想像する。
ということは、日本のほとんどの地域は雪が得意ではないのだ。
年に一回あるかないかのときのために、スタッドレスタイヤに履き替えているはずもなく、私は外に出るのを諦めた。私達、自営業者はこういう日は家で過ごせばいい。
でも、通勤している友人たちはそうもいかない。
「いつもは車で30分の職場まで5時間かかったよ」
なんていうのも聞いた。あちらでもこちらでも、コツンコツンと小さな事故が勃発していて、渋滞に拍車がかかったそうだ。
「橋のところでタイヤがですべって怖かったよー」
と言っている子もいた。それは本当に危ないわあ。
こんな日も、仕事に向かわなくてはいけない大変さたるや。何時間かかろうとも必ず出社する堅実な人々によって維持されている社会なのだなと、少し複雑な思いになる。
雪が当たり前な地域とそうでない地域の違い
こんな日に恐ろしいのが水道管の凍結や破裂だ。数年前の寒波で、我が家の水道管もことごとくやられてしまったようで、今回は家の外の水道管は、タオルがぐるぐるまきにされていた。父が応急処置でまいたのだろう。プラスで、ちょろちょろと水を出しっぱなしにしておく。水が流れ続けることで、水道管の中が凍ることを防げるようだ。簡単なことで防げることもあるので、やはり準備は大切だ。
長野の友達にこの話をすると
「えー、水道管に電熱線とか巻かれてないの?」
と言う。数センチで大渋滞になる西日本でそんなのしてる人は、きっとほとんどいないよー。長野では水道管が凍らないように様々な対策がされているそうだ。友人の家では一年の半分以上薪ストーブが活躍するので、庭の壁沿いには秋の始まるころには美しく薪が並べられた。家族全員分の車はスタットレスに変えられ、薪を割り、保存食をたくさんストックする。まるでムーミンみたい。「冬支度」という言葉がしっくりくる。
雪国の暮らしに学ぶ「備え」
西日本で、冬に備える人は少ないのではないだろうか。したとしても、三日前だなあ。今でも雪が降るとワクワクするのは、危機感が今ひとつないし、雪かきする大変さも知らずにきたからだ。
山梨の雪深い地域から四国に移住してきた友人は、いつもの習慣で12月にはスタッドレスタイヤに履き替えたそう。それを自力でできるのも尊敬してしまう。数年前に引っ越したときに、何かあったときもすぐ職場に行き来できるようにと、徒歩圏内でマンションを探したという。そして、今回の大雪でも徒歩で向かったので定時で出社することができたそうだ。
すごい。すごすぎる。このリスク回避能力は雪深い地域で育った彼女だからこそ備わったものだろうなあ。
四国では菜の花もちらほらと咲きはじめた。日も長くなり、ゆっくりと春が顔を見せ始めている。