読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

【今回の相談】リモート会議で緊張してしまう

リモート会議が苦手です。普通の会議より、じっと見られている気がして緊張してしまいます。(PN.エイミーさん)

【作者さんの回答】不思議な力が宿ったお面を使ってみて

ある日のこと、エイミーさんがため息をついていました。

「はぁ……嫌だなぁ」

エイミーさんはリモート会議が嫌でため息をついていたのです。

「わざわざ会議のときだけ身なりを整えなきゃいけないし……人の顔が気になって緊張するんだよなぁ」

「──そこのあなた」

急に後ろから声がしました。エイミーさんは驚いて振り返ります。そこには年齢不詳の男が立っていました。

「な、なんですか」

「リモート会議のビデオのオン・オフでお悩みですね。そんなあなたにぴったりな商品があります」

「セールスなら、ちょっと……」

「いいから。わたしについてきなさい」

男に連れられてエイミーさんがやってきたのは雑居ビルでした。地下につづく階段があり、蛍光灯が怪しく光っています。階段を降りると、“顔屋”と看板を掲げた店がありました。

「どうぞ、お入りください」

そう言って、男は入り口のドアを開けます。

「えっ──」

中に入って、エイミーさんは思わず声をあげました。たくさんの顔がエイミーさんを見つめてきたのです。人間の顔──ではなく、お面でした。壁一面にさまざまなお面が飾られていたのです。

「ここは世界中の変わったお面を集めた店なんです」

「へぇ、いろんなものがあるんですね……」

エイミーさんはお面をひとつひとつ見ていきます。だれかの顔を忠実に象ったものから、動物を擬人化したと思われるもの、怪物のような異形のものまでありました。

「……でも、なぜわたしをここへ?」

「お面には不思議な力が宿っています。それをつけると自信がついたり、実力以上の力を発揮したりするんです」

エイミーさんはお面を見ながら、ごくりとつばを飲み込みます。たしかに見ているだけで、吸い込まれそうな不思議な魅力がお面にはありました。

「気に入りましたか。そのお面はリモート会議でつけると、自信が湧いて人の目が気にならなくなるお面です」

「人の目が気にならなくなる──」

エイミーさんはそのお面に見つめ返されているような気がしました。

「よし、これを買います!」

「ありがとうございます。ただし、効果が出るのはリモート会議のときだけです。いいですね──」

やってきたリモート会議の日。お面をつけたところ…

ほどなくして、リモート会議の日がやってきました。エイミーさんはお面をつけるかどうか迷っていました。

「こんなお面をつけていたら怒られるんじゃないだろうか……?」

男が言っていた言葉を思い出し、意を決してお面をつけました。すると、不思議なことが起きました。

「あれ……だれにも指摘されない……?」

そう、会議の参加者はだれもエイミーさんのお面についてなにも言わないのです。そうとわかると、途端に勇気が湧いてきます。

「よし、このお面をつけていたら、人からの見られ方が気にならなくなって、自信を持って発言ができる!」

エイミーさんは会議でずばずばと発言しました。参加者の見る目はみるみるうちに変わりました。ついには、終わり際に部長からこんなことを言われました。

「きみのことを見直したよ。今度の大事なプレゼンをきみに頼みたいんだが」

「は、はい、まかせてください!」

「それじゃあ、頼んだよ。ああ、もちろんプレゼンはリモートじゃなくて対面だからね」

「……えっ?」

その返事が聞こえたのか聞こえなかったのか、部長の回線はすぐに切られました。

まもなくプレゼンの日はやってきました。

「き、きみ! ふざけているのかね!」

部長がエイミーさんの顔を見て、大声をあげました。エイミーさんがお面をつけていたからです。

「ど、どうしてもこれがないとだめなんです」

「大事な会議になにお面をつけているんだ。外しなさい!」

部長の手がお面を掴みました。しかし、お面は外れません。いくら引っ張っても顔から取れないのです。それどころか、皮膚を引き裂かれるような痛みが走ります。

「やめてください!」

エイミーさんは部長を突き飛ばすと、顔を隠して走り出しました。会社を飛び出すと、やがて雑居ビルへとやってきました。しかし、この前とは違い、蛍光灯は消えていて看板も見当たりません。

「なにもない……?」

息を整えながらドアに手を掛けます。ぐっと力を入れてゆっくりと開くと、中はもぬけの殻でした。部屋のなかは朽ち果てています。

「そんなバカな……」

もう一度お面に手をあてると、皮膚とお面の境目がなくなり、お面が顔そのものになっていました。

【編集部より】

リモート会議ではお面をつけろということでしょうか。そんな人がいたら、会議が始まった途端、参加者にツッコまれまくると思います。

リモート会議のアプリには、背景をぼかしたりフィルターをかけたりできます。視線が気になるなら参加者の顔を非表示にするなどもできると思うので、使い方をいろいろ調べてみるといいかもしれません。

「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。