画廊と美術館での学芸員経験をもち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さん。高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。今回は、いつか起こるかもしれない震災への備えについて語ります。

ひとり暮らし、私の防災グッズの中身

今年、元日の大地震にはだれもが震撼とさせられました。命をなくされた方々のご冥福をお祈りし、被災者のみなさまへ心からのお見舞いを申し上げます。

この機会に、私もインフラが停止したときのことなどを、改めて考えておきたいと思いました。今回は、ひとり暮らしの私自身が行っている備えについて紹介します。

月額4万円に満たない年金暮らしのなかで、私が準備している防災グッズは、少しずつ買い集めたミネラル水やアルファ米などの保存食のほか、持ち出しリュックに詰めた衣類や日用品、常備薬や除菌グッズなどです。

普段使いの財布にはホイッスル、ポーチには超小型懐中電灯をぶら下げています。現金や薬手帳などもすぐ取り出せるよう準備し、トイレの凝固剤や水道水のタンクなども、押し入れ下段の半分近くを使って収納しています。

電気が止まったときの備え

冬場は、暖房のきれた場合にあわてないよう防寒具が必要です。毛布や靴下、カイロやガスボンベなど。またラップや新聞紙や段ボールなども、役立つというので、すぐに使えるようにしておきます。

また、電気が止まると、当然調理もできなくなります。缶詰やレトルト食品などの保存のほか、ポリ袋料理を覚えておきます。寒い季節には温かい食事は重要ですから。

カセットコンロの準備は必須になります。耐熱のポリ袋にお米や食品を入れ、沸かした湯につけて加熱する調理法が便利です。炊飯の場合は、袋にお米と水を入れたら袋の口をねじって空気を抜き、熱湯に20分ほどつければ食べられるそうです。

断水したときの備え

断水してしまった場合も想像できないほど困るでしょう。そのときの洗濯の仕方もしっかり頭に入れておいています。少量の水に洗剤と衣類を入れたポリ袋の口をしっかり閉じてもみ洗いし、タオルに巻きつけて水分を取るのだそうです。どうしてもすすぎができない場合でも、たとえば食器用洗剤などを用いれば肌を荒らしにくいといいます。

非常時は思いもよらないことの連続です。平常時から心にかけて、いざというときに備えておきたいものです。いざ震災が起こってしまうと「怯えるだけでなにもできなかった」とよく耳にします。せめてシミュレーションして心構えをもつことが大切だと思っています。

もしも避難所へ行くことになった場合、慣れない場所での就寝や集団生活の厳しさも予測し、そこで起こることも前もって想像しておきます。トイレの不備不足は大問題でしょう。手を洗うことさえままならなくなるので、環境衛生上も切実な状況です。感染症には最大限の注意が必要ですから、個々に簡易トイレの準備もしています。

災害多発国に住んでいる意識を普段からもつこと

地球規模での気象異変の時代、しかも災害多発国に生きている私たちには、切迫感をもった対処法が必要だと思っています。ひとりでも役立つことを実行すれば、それがほかを助ける可能性もあります。日頃から仲間とは災害対策の情報交換を当たり前のようにしておくことを心がけています。

なにより行政の徹底的な準備・救済対策が最も重要ですが、今回の能登地震の数週間後を見てもわかるように、国も力が及ばない実情です。個人個人による平素の危機意識が必要です。それは恐怖心をもつことなどではなく、あらかじめ行動しておくことだと思います。

私は、家具転倒防止の備えはもちろん、室内の中の日々の整頓を心がけています。あるいは外出先で、「もし今地震が起きたら?」という想定を頭にインプットさせて出かけ、地下鉄に乗るとき、ビル街を歩くとき、これまでとは異なる危機意識を身につけておきます。

ひとり身としての心構え

震災後もニュースで見聞きする被災地には、だれもが心を痛めていることでしょう。たとえば私の住んでいる場所は被災地から離れているため、おそらくその距離分だけ、臨場感が希薄になってしまうと思います。世界で起こっている戦争の日本人の受け止め方も近隣諸国とは隔たりがあるからでしょう。

平和慣れした私たち日本人は、戦争に関してもほとんどの人が意識希薄で無知です。それゆえ、戦地や被災地に対してなにひとつ手を延ばせない私のような者は、痛々しい限りの報道から、せめて耳目を背けることなく、悲惨な状況にある人々を思いながらも、いつわが身に降りかかるかもしれない災害の恐ろしさを熟知していきたいと思います。

なお、とくに持病がある高齢者は、入院となったときの用意も必要です。私のようにひとり暮らしの者は、病院での手続きなども自分でしなければならないので、病気への備えも普段からしています。しかし寿命は決まっているのですから、いつかは病むという覚悟と心構えも必要です。そのときのために、災害時の二次災害としての病も心の準備としておきたいですね。

小笠原洋子さんの新刊『財布は軽く、暮らしはシンプル。74歳、心はいつもエレガンス』(扶桑社刊)は2月21日に発売予定。