『みなに幸あれ』古川琴音&下津優太監督 インタビュー 「ニュージャンルホラー誕生」
「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者にお話を伺う。
日本で唯一のホラージャンルに絞ったフィルムコンペティション「日本ホラー映画大賞」の初大賞受賞作品である『みなに幸あれ』が長編化され、1月19日(金)より全国公開中。主演の”孫”役を演じるのは、2018年のデビューから話題の作品に多数出演し続けている古川琴音。下津優太監督も交え、今作についてお話を伺った。
古川琴音
FURUKAWA KOTONE
1996年生まれ、神奈川県出身。
2018年より俳優として活動。主な出演作にドラマ、連続テレビ小説『エール』(20)、『コントが始まる』(21)、NHK 特集ドラマ『アイドル』(22)、大河ドラマ『どうする家康』(23)、『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』(23)、映画『春』(18)、『泣く子はいねぇが』(20)、『花束みたいな恋をした』(21)、『街の上で』(21)、『偶然と想像』(21)、『メタモルフォーゼの縁側』(22)、『今夜、世界からこの恋が消えても』(22)、『リボルバー・リリー』(23)などに出演。現在Netflixにて『幽☆遊☆白書』が配信中。
下津優太
SHIMOTSU YUTA
1990年生まれ、福岡県出身。
大学在学時よりTV-CMを監督。
2016年東京進出。CM や MV の企画・監督をする傍ら、短編映画の制作も努める。2021年、第1回 日本ホラー映画大賞で大賞を受賞。大賞を受賞した短編『みなに幸あれ』を長編化し商業映画デビューを飾る。
日常が描けないと、恐怖は生まれない
――「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」というテーマですが、なぜこのテーマで映画を制作しようと考えたのでしょうか?
下津:都市伝説で「地球上感情保存の法則」というのがありまして。地球上に住む幸せな人と不幸な人を、足し合わせるとゼロになる。そのことを具現化していった感じですね。もしその法則が本当であれば、意図的に不幸な人を作り出してしまえば、自分たちの幸せが得られるのではないか。そういったところからスタートしました。長編化する際も、軸は変えずに枝葉を付けていったという感じです。
――総合プロデュースの清水崇さんからは、制作するにあたって何かアドバイスはありましたか?
下津:脚本の段階と編集の段階でアドバイスをいただいて、一貫して「これだと観客に伝わらないよ」「これだと観客がついて来れないよ」みたいなことを教えていただきました。
例えば、生贄のそもそものシステムだったり、設定をもうちょっと分かりやすく伝えた方がいいんじゃないか、といったことを言っていただいて。
ただ「最終的には自分の感性を信じて作ってください」と言われていたのもあり、結果的にあまり従わず(笑)。でも仕上がりを観て、清水さんもそっちでよかったねと言っていただけました。
――今回ホラー作品の世界を作るうえで、違和感や異質さを生み出すのに意識したことはありますか?
下津:僕のホラーの大前提として、日常に異物が混入して恐怖は起こるものだと思っていて。ホラー映画は割とこの異物にフォーカスしがちなんですけれど、大前提の日常が描けないと恐怖は生まれないと思っています。なので今回はリアル感、日常感みたいなものを重視しました。
そこで出るものを大切にしたい
――古川さんはホラー映画初出演ですが、参加してみていかがでしたか?
古川:ホラー映画ってこんなに体力を使うんだというのが、正直、一番驚いたというか。自分の出す感情が、驚いて、走って、泣いて、怒って、叫んでいるので。撮影は1週間くらいでしたが、本当に今までの撮影の中で一番大変だったかなと思います。
――かなり特殊な状況に置かれる役ですが、役作りはどのようにされましたか?
古川:私は今回はほとんどしていなくて。というのも、自分が一番まともな人間で、お客さんに共感してもらえる役だと思ったので、普通の感覚を持つことが大事だなと。台本を初めて読んだ時の「気持ち悪いな」という気持ちや、違和感を手がかりにしてお芝居をしようと思っていました。
――どんどん追い込まれていく感覚は演じていていかがでしたか?
古川:もうやめてくれという感じでしたね(笑)。特に最後の方の幼馴染みとのシーンは、本当にOKが出なくて。それは後々聞いたら、監督の策略というか、本当にボロボロになるまで何回もさせたかったとおっしゃっていたんですけど。いつまで撮ればいいんですかと、喉元まで出てて。それも監督の演出の一つだと思いますが、そういうのも含めてどんどん消耗していったなと思います。
――普段、役を実生活でも引きずられたりはしますか?
古川:私は引きずらない方だと思います。撮影する前の方がいろいろ考えるんですけど、セリフを言って、衣装を着て、ヘアメイクをしてもらえば、もう馴染んでいくというか。自分が用意したものを信じている、というんですかね。なのでそこで出るものを大切にしたいと思うので。出した後のことは考えられないし、クランクアップしたら、その日のうちに忘れちゃうくらい切り替えは早いです。
――それは今作の撮影でもそうでしたか?
古川:忘れはするんですけど、体の中に残っていくというか。体験として積み重なって残るものなので。まあ忘れてはいないんでしょうね、きっと本質的には。
――物語としては起きている現実をなかなか受け入れられない役でしたが、普段、古川さんが現実を受け入れられずに抵抗していることはありますか?
古川:抗っているんじゃなくて、見て見ぬ振りをしていることはたくさんあります。例えば、私は鳥が好きなんですが、鶏肉は食べますし。農場研修みたいなのがある学校だったので牛の飼育も体験でやったことがあるんですけど、牛が本当に人懐っこいんですよね。すり寄ってきたり、甘えてきたりするんですが、その現実を見つつもちゃんと牛は美味しいなと思って食べていることとか。本当に真正面から現実を見てしまうと、食べられなくなるのかな。でももう食べて生きてしまっているから、見て見ぬ振りをせざるを得ないんだろうなと。
そのままでいるのが不気味
――お2人は今作で初めてご一緒されていかがでしたか?
下津:僕はすごくやりやすかったですね。現場で僕は、ほとんど何も言ってないというか。古川さんが演じるものが、想像していたものできてバチっとハマるし、むしろそれを超えてくるみたいなことも多々あったので。クライマックスシーン以外は、ほぼ1テイク、2テイクで、どんどん進めていきました。
古川:難しい台本だったので、これどういうことですかと、最初は聞いていたんです。けれどそのわからないまま演じてくださいということだったので、結局、わからないまま演じていました。監督は楽だったとおっしゃってくれましたけれど、多分、私がちゃんと驚ける環境を監督が作ってくださっていたんだと思うんですよね。周りの家族役の方たちだったり、いろんな環境を、私がちゃんと怖がれるようにしてくださっていたという印象はあります。
例えば、叔母とのシーンで布をまくるところがあるんです。その布の奥に何があるかというのは、本番まで見せてもらえなかったんですよね。だからちょっとサプライズ的な演出というか、私が見たファーストインプレッション。その最初の反応をなるべく撮ろうとしてくれてたのかなと思います。
――監督は見せないというのはどういう狙いでしたか?
下津:安心感があるというか、何をぶつけても、受け取ってもらえる受け皿があるので。トライ精神で色々やらせていただきました。
――出演者の中には演技経験の少ない方も多い中での撮影はいかがでしたか?
古川:さっき監督が日常の中の異物という話をおっしゃっていたと思いますが、まさに私からするとそのような感覚で。おばあちゃん役の方は、ほとんど演技経験がない方で。豚の真似をするシーンがあって、役者は見せ場がわかっているから、どうやったら怖くできるかなというのを考えるのが普通なんですけど。その方は「豚の真似をすればいいのよね。こうかしら、ああ私にはできないわ」みたいな。本当にその方にとってはもう日常の一部でしかない、そういうテンションでいられることが、私はとても怖かったんですよ。なるほどと思いました。
下津:古川さんにとっても僕にとっても、結構リスキーではあったんですけれど。その素人感を上手く「そのままでいるのが不気味」という感じで伝わればいいなと。
――普段、役者の方とやられるセリフの掛け合いとは違いましたか?
古川:そうですね。そこのズレがすごく発見になったと言いますか。派手なシーンは、自分の驚きでテンポを作るのでさほど気にならなかったです。ただ家族団らんのシーンや、日常に近いシーンであればあるほど、間が外れた感じというのが不気味に感じられて。だから自然と、孫が置かれた状況と本当に同じ感じになっているなと思いました。
撮影の支えで、唯一の楽しみ
――福岡での撮影はいかがでしたか?
古川:自分にとっては異空間。都会生まれ、都会育ちだし、おばあちゃん家の古い感じだったり、田舎ならではの田んぼしかない風景が、私にも異世界だったので、この物語に打って付けの場所だなと思いました。
下津:結果的に良かったです。これを関東近郊で、古川さんがご自宅から現場に通ったり、見慣れたホテルに泊まって通ってたりしたら、またちょっと変わったかなと思って。本当に知らない土地に行き、どんどん知らない人たちに追い込まれていったので(笑)。そこはうまくリンクしたのかもしれませんね。
――撮影中の思い出があれば教えてください
古川:お家を貸してくださった方が、炊き出しをしてくれて。猪鍋や、カレーなどが本当においしかったです。それが撮影の支えで、唯一の楽しみで(笑)。地元の方に本当に良くして頂いたので、それもあっての作品だなと思います。
――作品を観ているだけだとその温かい空気はわからないですね(笑)監督はいかがですか?
下津:映画の10分くらいのところで、孫が祖母の家の中を探索していて、窓から見える田んぼを何かが走っているみたいなシーンがあるのですが。あれは助監督がパンツ一丁で走っていて。僕らが離れて撮影していたら、不審者がいると通報が入ってしまいパトカーが来てしまいました。その助監督がパンツ一丁で警察官に謝っているのを遠目で見ているのが楽しかったです(笑)。
笑ってしまいました
――古川さんは完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
古川:台本を読んだ印象と少し違っていて。すごく笑ってしまいました。でもなんで笑ったのかよくわからないんです。画として強烈で、何を観せられているんだろうこれはみたいな。意味のわからなさも台本で読むよりもあったんですよね。今まで感じたことのない感情になれて、それはそれで面白かったなと思います。
――監督としてはその笑える感じというのは狙っていましたか?
下津:そうですね。恐怖と笑いの間はシュールだと思っていて、僕はこのシュールを狙っていった感じです。こっちの人は怖がっているけれど、こっちの人は笑いながら観ているみたいな。そういった新感覚というか、これは笑っていいんだっけ?みたいな感じで作りましたね。
――まさに古川さんに狙い通りに刺さりましたね
古川:そうですね。まさにハマりましたね(笑)。
――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします
下津:総合プロデュースの清水さんからは、「ニュージャンルホラーができたね」というお言葉をいただきました。新たな感覚を観にきていただければと思います。
古川:私も、こういうホラーを観たことないなという印象です。今までのホラーとは違う感覚を引き出してくれるようなものになっていると思うので、ホラーを今まで観てこなかった人もぜひ観ていただけたら嬉しいなと思います。
(取材:曽根真弘)
『みなに幸あれ』は1月19日(金)より全国公開中
原案・監督:下津優太
総合プロデュース:清水崇
脚本:角田ルミ
音楽:香田悠真
主題歌:Base Ball Bear「Endless Etude(BEST WISHES TO ALL ver.)」
出演:古川琴音/松大航也/犬山良子/西田優史/吉村志保/橋本和雄/野瀬恵子/有福正志 ほか
配給:KADOKAWA
©2023「みなに幸あれ」製作委員会
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/minasachi/
公式X(旧Twitter):@Minasachi_movie
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