これから新年度に向け、引っ越しを控えているという方も多いのでは? 日本ではこれから繁忙期を迎えますが、海外ではどうなっているのでしょうか? アメリカ・シアトルに住んで20年、子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカの引っ越し事情」について教えてもらいました。

「夏」が引っ越しシーズンのアメリカ、その理由は?

日本だと、4月からの新年度に合わせて、2月・3月から家探しや引っ越し準備を始める方が多いと思います。アメリカはどうかというと、学校が夏休みに入る6月から、9月の新学年が始まる前の8月までが引っ越しシーズン。

新卒の社会人、そして学齢期の子どもを抱える家庭が一斉に引っ越すほか、過去にそうした理由で賃貸物件に引っ越した人にとっても毎年の更新時期と重なるため、持ち家、賃貸問わず大移動が始まるわけです。

ということで、逆に冬は閑散期。相場も落ち着き、ゆっくり物件を探せるメリットがある反面、在庫が少なく、選択肢が限られるデメリットも。そんな事情から、冬の間は売る側・貸す側も急いで募集をかけず、夏の引っ越しシーズンに標準を合わせてリモデルを行うケースも見られます。その方が、価格を上げられるうえ、募集期間も短くてすむからです。

アメリカの物件探しは「オンライン」が主流

筆者はこれまで、日本で6回、アメリカで6回の引っ越し経験を持っていますが、もともと引っ越しはあまり苦にならないタイプ。しかし、アメリカの引っ越しは日本より手軽だな、と感じます。日本だと、なにからなにまでプロの引っ越し業者や不動産会社に任せるのが当たり前という感覚ですが、アメリカでは業者に頼むことはあまりないようです。

私の場合、渡米直後の単身時はシェアハウスを転々としていて、身の回りのものだけの移動だったので、友人にも手伝ってもらい、普通車の往復で終了。アパートからの引っ越しときは、夫が引っ越し用トラックをレンタルし、運転してくれました。これまで友人たちの引っ越しを手伝った経験からも、近隣であれば、このパターンが主流のように思います。

トラックを1日レンタルするだけなら、距離やサイズにもよりますが、平均60ドルと、1万円もかからない計算。あとの出費は、手伝ってくれた友人たちの食事代くらいです。

荷物を入れるダンボール箱も、市販品を買ってもいいですが、アマゾンなどから品物が届く際の箱を流用したり、コストコほか量販店から無料で入手したり、友人の不要な箱を譲ってもらったりもできます。

物件探しはオンラインが主流で、シェアハウスや賃貸であれば、業者を通さずに直接、家主(またはアパートの管理オフィス、シェアハウスのまとめ役)と借り主で直接やり取りすることがほとんどです。

大手物件探しサイトも活用されていますが、意外と個人売買の掲示板やフェイスブックでの入居者募集の投稿も侮れず、そこからのメッセージを通して内見、成約となるケースも少なくありません。

また、アメリカでは、礼金というものはあまり聞かず、デポジットと呼ばれる保証金が、日本で言うところの敷金に当たります。一般的に入居と退去それぞれの保証として家賃1、2カ月分を払い、物件によってはどちらかを免除、まったくなしということもあります。退去時に損傷や未納などの問題がなければ、経費を除いて返金されます。そのほかに管理費、駐車場代、共益費、光熱費、ペット費などを別途、借り主負担とする物件も。

ちなみに、購入の場合も物件探しはオンラインですが、基本的には不動産会社や協会のネットワークに所属する個人の不動産エージェントが売り手、買い手それぞれにつき、取り引きを代行します。これも、不動産会社が両者を仲介することの多い日本とは異なるシステムですね。

賃貸VS持ち家論争。アメリカ人は「持ち家住み替え派」?

日本でよく議論されているのが、賃貸と持ち家、どちらがおトクなのか、ということ。アメリカで言えば、圧倒的に持ち家派が多数。これは、「家賃もローンも、月々同じ額を支払うなら、自分のものになるほうがいい」という考えもそうですが、日本とは違うアメリカならではの不動産事情が大きいのではないでしょうか。

まず、日本で賃貸が支持されている理由として、「独身、新婚、子育て、老後などライフステージによってニーズや価値観は変わるのに、高額な住宅ローンで持ち家を買うのはリスク」というものがあるかと思います。これは、終の棲家として持ち家を買うという発想があるからなのでしょう。

アメリカでは、持ち家派もよく引っ越しをしますが、「一生この家で暮らす」と思って持ち家を購入する人のほうが少数派かもしれません。

その結果、多くの中古物件が市場に出回る一方、購入する人も多いので、日本ほど値崩れしにくく、長期的に見ればむしろ価格が上昇するという状況があります。新築、築浅にこだわることもなく、年季の入った中古物件を割安で買い、自分の好きなように時間をかけてリノベーションすることをいとわないアメリカ人のDIY気質も垣間見えます。

都会と地方ではまた状況が異なるかと思いますが、日本のような駅チカ人気も、アメリカでは当てはまらないかも? というのも、繁華街の近くは利便性が高くても、犯罪リスクも高まるから。アメリカでは、多少不便でも、大通りから離れた静かな環境が好まれるようです。

子育て世帯には学区も重要。公立校もすべて格づけサイトでスコアがつけられている今、スコアが高い学校の通学区域にある物件に人気が集まります。そうした物件は高値のため、必然的に高所得者が増えることになり、比較的治安がいいという側面もあります。

アメリカの賃貸暮らしでいい点は、物件によっては一般的なアパートでも、共用のプール、パーティルーム、バーベキュー設備、トレーニングジムなどがあること。日本では、いわゆるタワマンのような高級物件でないと、なかなか難しいですよね。そういう賃貸物件であれば、持ち家でなくてもおトク感は増しそうです。