53歳で夫が急逝し、以来、およそ20年間ひとり暮らしを続ける料理家、足立洋子さん(72歳)。気力や体力ががくっと衰えたという「70代の壁」に直面しながらも、日々を明るく前向きに過ごしています。

そんな足立さんが、自分がご機嫌になるための毎日の工夫を1冊にまとめた書籍『さあ、なに食べよう? 70代の台所』の発売に合わせて、面倒な日々の食事の支度をラクにする足立さん流の「気ままなひとりごはん」の工夫と簡単レシピを紹介します。

【写真】残ったおかずもワンプレートに盛りつければ華やかに

「明日はなにを食べよう?」ワクワクしながら眠りについて

「このところ、献立を考えるのも、食事をつくるのも面倒で……」
「自分ひとりのためにつくるのがどうにも億劫なのよ」
「足立さんは毎日お料理を手づくりして、本当に偉いわぁ」

70を過ぎてから、そんな声がちらほら聞こえてきます。
私なんて、夜ベッドに入ったとき、明日食べるものを想像してワクワクしているのに!?

昨日、道の駅で買ってきた新鮮な葉野菜が、朝のサラダね。
根菜はどうやっておいしくいただこうかしら。
ミートソースのパスタが食べたいから、そろそろまとめてつくっておきましょ。
そうだ、おやつにはお友達からのいただき物があるわね。
と、こんな具合。

料理のアイデアを思いついたり、レストランでおいしいものをいただいたりすると、すぐにつくってみたくなる根っからの料理好き(食いしん坊とも)。とくにひとり暮らしになってからの料理は、変化の少ない地続きの日常のなかで、ふっとリフレッシュできる存在にもなっています。

でもだからといって、「料理は手づくりがいちばん!」なんて、これっぽっちも思っていません。外食はもちろん、市販のお総菜も、フリーズドライの食品や冷凍食品も、大歓迎。定期的にやってくるやる気ゼロの日には、料理をつくる気がわかず、買ってきたおかずが食卓に並ぶことも。

でも、「おいしかった」、「ちょっとイマイチ」と味の感想は多分にあっても、つくらなかったことへの罪悪感はありません。にっこり「ごちそうさま!」、でおしまいです。

ひとり分の料理づくりは面倒…。そんなときは発想の転換を

もし、毎日の料理に悩まれていたら、真面目に頑張りすぎているのかもしれません。
手づくりすべき、栄養も考えるべき、とたくさん考えすぎて、結果自分への重荷となってしまっているのかも。この際、義務感はすっかり手放しちゃって、気分転換を図るような心持ちで台所に向かわれたらどうでしょう?

自分のためだけにつくる気力がわかないというお気持ち…よくわかります。
けれど、逆に言えば、それはつくった料理に対して文句を言う人は誰もいない、究極に気ままな食卓であるということ。
同じおかずを続けて出して、「いったい何日これを食べ続ければ気が済むの!?」なんて憎まれ口を言う家族もいなければ、家族それぞれの味の好みをあれこれ考えあぐねる必要も、まったくないのです。

私は、ミートソースや煮豆、それから餃子などもたっぷりとまとめてつくって、冷凍しています。鶏天も胸肉2枚分を一気に揚げてしまって、食べない分は冷蔵保存。おでんをつくった日には、「今週1週間は食べられるわね」なんてウキウキ喜んじゃうぐらいです。

そう、私のいつもの食卓は、そのときに調理したものでないことがほとんど。冷凍庫と冷蔵庫にストックしてあるいつかの自分の料理から、そのときの気分で食べたいものを温め直しているだけ、という日が圧倒的に多いのです。
だってその方が、らくちんだから。

そうやって、料理するときは多めにつくり→食べて→保存、というサイクルを続けていくと、ときに半端に残ったおかずが数種、冷蔵庫にスタンバイしている状態になることがあります。それらを1枚のお皿にとりどりに並べるのがまた、目にもにぎやかで、とても楽しい。

このおかず類を一度でつくろうとすると面倒で仕方ありませんが、私のワンプレートは一瞬ででき上がります。

毎日同じものを食べて、飽きることもあるんですよ。でも、それよりも、ラクさを優先したい、面倒くさがり屋。ひとりの食卓はとっても自由で気楽で、自分勝手。そのよさを丸ごと楽しめたら、もっと気軽に台所に向かうことができるのかもしれませんね。

そのまま食べても、麻婆豆腐にしてもおいしい、ピリ辛そぼろ

足立さんの冷蔵庫の冷凍室にはストックが満載。つくりおきの手前で保存しておくことで調理をラクに、かつ汎用性の高いおかずの素になります。

●四川の素

足立さんの定番レシピをご紹介。

【材料(つくりやすい分量)】

豚ひき肉 500g
長ネギ(粗みじん切り) 1本
ショウガ 1かけ
ニンニク 1かけ
サラダ油 大さじ1/2
A[しょうゆ1/4カップ、酒大さじ2]
ごま油 大さじ1

【つくり方】

(1) ショウガ、ニンニクはみじん切りにするか、すりおろす。

(2) フライパンにサラダ油を強めの中火で熱し、ひき肉を焼きつける。肉の脂が浮き出て自然にほぐれ始めたら、裏返して完全に火をとおす。

(3) 豆板醤を入れて炒め合わせる。(1)を加え、全体になじんだらAを入れる。仕上げに長ネギとごま油を加えて味をなじませる。3等分し、すぐに食べない分は保存袋に入れて冷凍庫で保存する(食べるときは冷蔵庫で解凍後、鍋に水適量とともに入れて温め、豆腐や春雨を加えて片栗粉でとろみをつける)。

おかずをつくりおきする際は、清潔な保存容器に入れて保存してください。保存状態によっては傷みやすくなることもあるので、保存期間内であっても早めに食べるようにしましょう

料理家・足立洋子さんの食や暮らしの工夫をつづった『さあ、なに食べよう? 70代の台所』(扶桑社刊)には、家族を亡くしたあとに前を向く方法、「70代の壁」を明るく乗りきるアイデアが満載です。