この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

食品、飲料、そして美容品。今日のギグエコノミーにおいては、何万人もの労働者がこれらの商品を米国内の店舗から家庭へ送り届けている。そして今、ある新興企業がハイエンドのジーンズやデザイナーシューズで同じことを行おうと試みている。

オーレイ(Ole)(「オーレイ」と発音する)は、ラグジュアリーファッションを50分以内に買い物客に届けることを保証しているアプリだ。この新興企業はそのためにブティックや小売店のPOS(ポイントオブセール)システムとリンクし、バイクメッセンジャー(同社によれば、その大部分は女性)を配置して商品を運ぶ。配達人は顧客が商品を試着するのを15分待ち、購入されなかったアパレルやフットウェアを持ち帰る。顧客はオーレイを使用するために5ドル(約730円)の配送料金を支払い、サービスには売上の25%の手数料が入る。

オーレイは2022年にテルアビブ、2023年にニューヨーク市で立ち上げられたが、アメリカ市場のみに特化するために2023年の初夏にイスラエルでのビジネスを中止したと、共同創業者兼最高マーケティング責任者のギャル・アハロン氏は米モダンリテールに語った。このアプリは現在急速に成長している。オーレイは2023年11月、ニューヨーク市で15社パートナーのうち7社と契約したと、同氏は話した。このビジネスの顧客維持率は40%で、平均注文金額は400ドル(約5万8400円)から450ドル(約6万5700円)だ。

新しい資金調達ラウンドで総額150万ドル(約2億1900万円)を確保することで、今後数カ月で、さらに大規模なラグジュアリー業者との提携、スタイリングコンシェルジュサービスの立ち上げ、マイアミへの進出を行うことを計画している。しかしブランドによっては、より多くの利益を確保するために、自社のアプリやウェブサイトで販売を行いたがる傾向があることから、今後に課題は控えている。

オーレイの原点



アハロン氏と共同創業者のアーロン・ヘンデルマン氏は、ヘンデルマン氏の妻からウーバーイーツ(Uber Eats)を注文して、ファッションよりも食品のほうがはるかに速く注文できるという指摘を受け、オーレイを立ち上げることを決めた。以前はカーアプリのエンジー(Engie)で一緒に仕事をしていた2人の起業家が、この問題の解決策を見つけるためにペアを組んだ。

「食料品や食べ物といったものはすべてオンデマンドで注文できるのに、すぐそばの角にあるブティックでファッションを注文すると、配送までに3日から5日かかるのはどうしてだろうか。筋が通らない。大きなギャップがある」と、アハロン氏は述べている。

アハロン氏はオーレイのことを、思いのままにいくつもの色やサイズの服を好きな場所で試着できる試着室にたとえている。買い物客にとって、「これは何も心配が要らないエクスペリエンスだ。欲しいものが欲しいときに実際に手に入る」と、同氏は述べている。また小売パートナーにとっても、返品処理のスピードアップや在庫補充の迅速化が図れるためメリットがあると、同氏は述べている。

さらにオーレイは、配送トラックの代わりに自転車を使用しているため、より環境に優しいと、アハロン氏は言う。また同氏は、自転車の配達人は平均注文金額によって食品配送サービスよりも多額の手数料を得られるとも付け加えた。これらの配達人は、商品を配達するだけでなく、顧客が試着する商品について意見を求められることも多い。「多くの配達人はファッションに通じており、ぴったりの仕事だ」と、同氏は述べている。

パートナーを引き入れる



ニューヨーク市では、オーレイのアプリに、エディットニューヨーク(Edit New York)やアトリエ(Atelier)、シンカイ(Simkhai)などのパートナーが参加している。その中には、自社製品を販売するところもあれば、アレキサンダーワン(Alexander Wang)やボッテガヴェネタ(Bottega Veneta)、ウラジョンソン(Ulla Johnson)といったブランドを販売するところもある。

ラグジュアリーブランドのレトロフェテ(Retrofête)は2023年1月にオーレイで商品の販売をはじめたと、eコマース担当ディレクターのマディー・キャッツ氏はメールで米モダンリテールに語った。共同創業者はヘンデルマン氏のいとこであるオマー氏(オーレイの最高執行責任者で、創設時のチームの一員でもある)と以前から交流しており、アプリを試してみたいと考えた。「これまで、オーレイとの経験は非常に良いものだった」と、キャッツ氏は述べる。レトロフェテはオーレイから得られた売上の数を明かしていないが、「好ましいフィードバックを受け続けている」という。

オーレイは現在、大手デザイナーブランドの新規参加に注力していると、アハロン氏は述べる。「これまではブティックや店舗が中心だった。これからはより多様なブランドや、有名なラグジュアリーブランドも加入してもらいたいと考えている」と、同氏は語る。

しかし、新規のマーケットプレイスにとって、小売店を自社のプラットフォームに加入させることは難しいかもしれないと、独立eコマースアナリストのアンドリュー・リプスマン氏は米モダンリテールに語った。「多くの小売店はプラットフォームに参加しないか、それが多数派だとみなすまでその投資を行わない。つまり、卵が先か、鶏が先かという問題があるかもしれない」と、同氏は述べている。

デジタルコンサルタンシーのCI&Tで小売戦略ディレクターを務めるメリッサ・ミンコウ氏は、オーレイが「イベントやオケージョンには極めて有用」だと述べる。「ニーマンマーカス(Neiman Marcus)の消費者のような人は間違いなく、ハイエンドのサービスを望み、おそらくはそれを非常に豪華なオケージョンの機械や、困ったときに必要とする」と、同氏は述べている。

そのために、このような顧客の要求に対応するひとつの方法として、各店舗にスタイリストを常駐させ、利用者の過去の購入記録に応じて、追加の色やサイズの衣服を届けるといった追加サービスを行うことができると、ミンコウ氏は述べる。実際にオーレイは、新たな資金調達により、買い物客の習慣や好みに基づいてパーソナライズされたおすすめの商品を送ることを計画している。また、利用者がカスタマーサービス担当者に問い合わせできるよう、スタイリングのライブチャットを開始する予定だ。

迅速配送の情勢



ほかの新興企業も超高速配送を試みたが、成功の程度はさまざまだ。ウォルマート(Walmart)は2018年、チャットベースのパーソナルショッピングサービス「ジェットブラック(Jetblack)」をニューヨーク市で立ち上げた。このサービスは、即日または翌日配送と無料での返品を約束していたが、ウォールストリートジャーナル(Wall Street Journal)によれば、前年の顧客数が1000人に満たなかったことから2020年にサービスを廃止した。

一方、オラプレックス(Olaplex)などのプレミアムブランドを対象にした配送サービスのファストAF(FastAF)は、2020年に米国で開始され、今でも運用されている。英国の配送アプリ「ニード・イット・フォー・トゥナイト(Need It For Tonight)」は、2023年11月にロンドンで正式ローンチされた。こちらはスキムス(Skims)やグッチ(Gucci)などのブランドの商品を「リアルタイムで追跡し、90分で配達する」ことを保証している。

ピュブリシスグループの最高コマース戦略責任者ジェイソン・ゴールドバーグ氏は、1時間以内にクチュールの衣服を求める人向けの正当なユースケースがあることは「間違いない」と、米モダンリテールに語った。しかし、「そのニッチは単独のビジネスを支えられるほど大きくはないかもしれないということを懸念している」という。ジェットブラックについては、「ウォルマートは5000億ドル(約73兆円)の企業を後ろ盾にしても、十分な数の顧客を獲得できなかった。少額のベンチャーキャピタル資金しか持ち合わせない新興企業にとっては極めて困難な目標だろう」と述べている。

土壇場で必要となった商品への需要を獲得するため、小売業への進出を試みる食品配送企業も増えている。これらの多くは、食品以外の商品の配送など小売店向けにホワイトラベルのデリバリーサービスも提供している。たとえばウーバーイーツは現在、パーティーシティー(Party City)、ザ・ボディ・ショップ(The Body Shop)、ペットスマート(PetSmart)などのパートナーと提携している。

ウーバーイーツは大規模な事業であり、配送は第3四半期の時点において収益の30%あまりでしかない。ウーバーワン(Uber One)はウーバーイーツとウーバーのライドシェアビジネスを組み入れた会員制プログラムで、2022年末の時点で1200万人の利用者がある。しかし、オーレイの自宅でのサービスは、ウーバーイーツなどと大きな差異があると、アハロン氏は語る。

「ウーバーイーツなどはA地点からB地点に袋を運んでくれるが、オーレイが特別なのは、運送だけに留まらないサービスにある」と、同氏は指摘する。ウーバーイーツは2023年10月に「パッケージ返却(return a package)」という商品配送サービスを開始した。これは、ウーバーの利用者が配達人を使って、最寄りの郵便局、UPS、FedExに最大5個の商品を送ることができるサービスだ。

オーレイのアハロン氏は、今後さらに多くの顧客と小売業者が同アプリを使いはじめることを確信している。たとえばブラックフライデーで、特にオーレイが小売企業が自社サイトで行っているのと同じ特売や割引を反映していることを考えると大きな成功だったと、同氏は述べている。

オーレイは収益の数字を明らかにしていないが、サイバーウィークエンド(Cyber Weekend)におけるアプリでの売上はそれよりも前の週末より多かったことをアハロン氏は認めている。さらに、オーレイに参加しているニューヨーク市の店舗の多くは、ロサンゼルスやマイアミにも店舗が存在するため、事業拡大の助けになるかもしれないと、同氏は話した。

[原文:How Ole is trying to crack the code to ultra-fast delivery in luxury fashion]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Ole