ダイエットや健康のために腹八分目を目指していたのに、つい満腹になるまで食べてしまうという人は多いはず。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが、胃の中で振動するカプセルで満腹感を刺激することで、食事の摂取量を減らすことに成功したとの研究結果を発表しました。

A vibrating ingestible bioelectronic stimulator modulates gastric stretch receptors for illusory satiety | Science Advances

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adj3003

Engineers develop a vibrating, ingestible capsule that might help treat obesity | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

https://news.mit.edu/2023/engineers-develop-vibrating-ingestible-capsule-1222

A vibrating pill could help treat obesity, pig study finds | Live Science

https://www.livescience.com/health/obesity/a-vibrating-pill-could-help-treat-obesity-pig-study-finds

食べ物や飲み物で胃袋が一杯になると、機械受容器と呼ばれる特殊な細胞によって胃が膨らんだという信号が脳に送られます。この信号を受け取った脳はインスリンをはじめとするさまざまなホルモンの分泌を促し、これらのホルモンが連携して満腹感を発生させ、食べるのをストップするようにとの指令を出します。

MITの機械工学者であり、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の消化器内科医でもあるシュリヤ・S・ スリニヴァサン氏らは、「上腕二頭筋に振動を与えると肘の筋肉が実際より伸びていると錯覚する」と報告した過去の研究から、「胃の機械受容器に人工的な振動を与えることで膨張感を引き起こせるのではないか」との仮説を立てて、それを検証する実験を行うことにしました。

以下は、研究チームが実験用に開発した「摂取可能な振動式生体電子刺激装置(Vibrating Ingestible BioElectronic Stimulator:VIBES)」です。サイズは一般的なマルチビタミンのカプセルと同じで、小型の酸化銀電池と振動用のモーターを内蔵しています。



VIBESは胃酸で溶けるゼラチンでコーティングされており、飲み込んでから4分前後で外層が溶解するとバネ機構が作動してモーターが振動を開始する仕組みです。その後、VIBESは約30分間振動してから、最終的に排出されます。研究チームがVIBESの薬品耐性テストを実施したところ、胃の中に丸1日、腸の中に1週​​間以上とどまっていても消化器官に損傷を与えず、安全なことが確認されました。



VIBESを開発した研究チームは次に、胃の構造が人間とよく似ている豚にVIBESを与えて合計108回分の給餌を追跡する実験を行いました。その結果、エサを与える20分前にVIBESを作動させた豚は、そうでない豚に比べてエサの摂取量が40%も減少し、体重の増加も緩やかになったことが判明しました。

また、装置が作動する前後の血液サンプルを比較したところ、VIBESを与えられた豚は空腹感を刺激するホルモンであるグレリンのレベルも低下していたことがわかりました。

今回の研究には直接携わっていない、ブリガムヤング大学の摂取可能な電子機械の専門家であるベンジャミン・テリー氏は、「振動カプセルに対するホルモンの反応が強力なことには驚かされました。どうやら、VIBESを飲んだ豚たちの体は、満足のいく食事を摂ったと錯覚してしまったようです」と科学系ニュースサイト・Live Scienceに話しました。

実験中の豚は元気で、不快感や病気の兆候はなく、下痢などを起こすこともありませんでした。また、実験後に内視鏡医が行った検査でも、豚の胃腸に傷や炎症、穿孔(せんこう)、閉塞(へいそく)などは観察されなかったとのことです。



MITの研究チームは、VIBESが高価な注射薬や安全上の懸念がある胃バイパス手術などに代わる肥満治療アプローチになると考えており、人での臨床試験を念頭にしたVIBESの量産計画も進んでいるとのこと。

論文の筆頭著者であるスリニヴァサン氏は、「一部の効果的な肥満治療法は多くの人にとって非常に高価です。一方、私たちのデバイスは規模を拡大することでかなり費用対効果の高い価格で製造できるようになるでしょう。このVIBESが、今ある高度かつ高価な治療法を選べない人々の治療をどのように変えるのかを見るのが楽しみです」と話しました。