大谷翔平がロサンゼルス・ドジャースと10年総額7億ドル(約1015億円)という世界のプロスポーツ史上最大の契約を締結した。記者会見は、大谷とドジャースが勝利に対するあくなき渇望を再確認できる内容でもあったが、ここでは大谷とドジャースの未来を掘り下げて分析してみたい。前編はドジャースのここ数年の歩みとその背景、今日のMLBにおいて「勝つことの難しさ」について考えてみたい。

大谷翔平&ドジャースの未来考察 前編


入団発表会見に臨んだ大谷。左はマーク・ウォルター球団オーナー、右はフリードマン photo by Getty Images

【レギュラーシーズンに見劣りするポストシーズン】

 10年契約を結んだ大谷翔平の入団会見より2カ月前、ロサンゼルス・ドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長はシーズン総括会見で苦悩の表情を浮かべていた。

 162試合ある公式戦で2年連続100勝以上を挙げながら、ポストシーズンでは前年に続いて地区シリーズで敗退したからだ。

「我々のゴールは10月に11勝すること(地区シリーズ3勝、リーグ優勝決定戦、ワールドシリーズ各4勝)、今年は1勝もできなかった。どうすれば結果を変えられるのか、答えを見つけないといけない。我々は今、分岐点に立たされている」と悔しがった。

 ドジャースは過去11年で10回の地区優勝、ワールドシリーズに3回進出し、1回世界一になった(2020年)。すばらしい成績だ。とはいえ、公式戦では勝率61.3%と圧倒的なだけに、この期間のポストシーズンの成績53勝50敗(勝率51%)は物足りない。特にこの2年は、同じナショナル・リーグ西地区でレギュラーシーズン中は圧倒していた相手にあっさり退けられた。2022年は22ゲーム差をつけ、直接対決でも14勝5敗だったサンディエゴ・パドレスに1勝3敗、2023年も16ゲーム差をつけ、8勝5敗と勝ち越していたダイヤモンドバックスに0勝3敗とスイープされた。

 なぜ勝てないのか。さまざまな理由が囁かれているが、特に指摘されるのは「勢いの差」だ。

 現行のポストシーズンフォーマットでは各リーグの第1、2シードチームはワイルドカードシリーズに出ないため、レギュラーシーズンの後5日間も休んで、地区シリーズを本拠地でスタートできる。一方で第3〜6シードチームはワイルドカードシリーズ(2勝先取制)を戦わねばならないし、勝ち上がっても地区シリーズ第1戦の先発投手はエースではなく、日程上3番手か4番手になる。ドジャースは有利なはずだ。しかしながら何もできずに敗れた。22年にドジャースを破ったパドレスのボブ・メルビン監督(当時)はこう説明した。

「ワイルドカードのチームは公式戦の終盤からポストシーズン進出をかけた大事な試合を戦い続けているし、その結果、出られたということは、チーム状態も良くなっていたということ。しかも下のシードだから勝たなければというプレッシャーも少ない」

 一方で上位シードチームは5日の休みで実戦の勘がいくらか鈍ってしまっている。23年については先発投手陣が相次ぐケガと、左腕フリオ・ウリアスの家庭内暴力による逮捕などで、弱体化してしまっていた。とはいえ、自信を持っていた打撃陣もムーキー・ベッツとフレディ・フリーマンがふたり合わせて21打数1安打の不振で、3試合で6点しか取れなかった。

「これだけ才能ある選手が集まりながら、3試合27イニングで一度もリードを奪えなかった。その理由は解明しないといけない」と、フリードマン編成本部長は頭を抱えた。ポストシーズンで勝てないのは何か特定の原因があるのかと聞かれると、「わからない」と首を振るだけ。1年前と同じ返答だった。

【運の中に見出すべき必勝法】

 名著『マネーボール』の題材になったオークランド・アスレチックスの元GM、ビリー・ビーンも言っているように、データ分析を生かすことで、長期間のレギュラーシーズンはチームを好成績に導くことができるが、短期決戦のポストシーズンはそうはいかない。2004年にボストン・レッドソックス、2016年にシカゴ・カブスをフロントとして世界一に導いたセオ・エプスタインも「ポストシーズンは運だ」と言い切っていた。しかし今、分岐点に立つドジャースのフリードマンはそんな悠長なことは言っていられない。苛立つドジャースファンの不満に応えねばならない。

 12月14日、ドジャーススタジアムで背番号「17」の大谷のお披露目会見では、冒頭からフリードマンは熱弁を振るった。

「翔平は私の考えではこのスポーツをプレーしてきた中で、最も才能ある選手だ。我々は彼の才能を高く評価してきたし、メジャーに来てからも進化を続け、今最もダイナミックなプレーヤーになっている。これまで彼のことを遠くから見てきたが、特にワールドベースボールクラシック(WBC)で、真の力を見せつけた。緊迫した、特にプレッシャーのかかる場面で、しっかりと自分の実力を発揮することができる。大舞台であればあるほど、見事なプレーをする」

 ドジャースにとって幸運だったのは、勝ちたいという切迫感が大谷の心に響いたことだ。

 大谷は会見で「心に残っている言葉として、(球団オーナーのマーク・)ウォルターさん含めて、ドジャースが経験してきたこの10年間を全く成功と思っていないこと。それだけ勝ちたいという意志が強いんだなと」と説明した。勝利への切迫感は大谷も同様だ。

「野球選手として、あとどれくらいできるかは誰もわからない。ケガを重ねる度にいつ終わるんだろうっていう不安もあるし、確実に終わりに近づいているというのはある。それまでにやり残したことがないようにと思っている。勝つことが今の僕にとっては一番大事」

 どうすればポストシーズンでも勝てるのか。その答えを、大谷翔平とドジャースは見つけ出さねばならない。

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