【順位より納得できる演技】

 今季は全日本ジュニア3連覇、ジュニアグランプリ(GP)ファイナル連覇を果たし、昨季からのジュニアカテゴリーの大会は全勝中の島田麻央(15歳/木下アカデミー)。


北京で開かれたジュニアGPファイナルで連覇を果たした島田麻央

 今季唯一のシニア選手との戦いである全日本選手権(12月21〜24日)が間もなく開幕。昨年は全日本で3位だった島田はシーズン前にこう語っていた。

「(全日本選手権は)前回よりいい成績をとりたいです。去年はフリーを最終グループで滑れると思っていなかったので雰囲気に呑まれてしまった。今年は最終組でも堂々と滑るのが目標です」

 だが、フリーでトリプルアクセルと4回転トーループの両方を決めたGPファイナルの試合後は、そのニュアンスは変わっていた。少し考えてから「去年よりいい順位を」という言葉は同じだったが、「ショートプログラムにトリプルアクセルを入れたり、フリーで2本そろえたりするほうを目標としているので、順位より納得できる自分の演技ができるようにしたいです」と続けた。

 シニアのフリーの演技時間は、ジュニアより30秒増えて4分になり、ステップシークエンスも入って要素がひとつ増える。それも考慮して島田は「自己ベストを更新できるようにしたい」と話し、昨季の世界ジュニア選手権で出した、フリーの152.76点超えも目指している。

 昨季は、ショートプログラム(SP)で1位発進ができるようになり、成長を実感していた島田。今季のジュニアGPシリーズ2戦でSPはともに73点台。自己最高得点も更新して完成度を高めていた。

 だが、全日本ジュニア選手権では、目標のひとつでもあるユース五輪代表がかかっていたプレッシャーもあって、63点台の4位発進と思わぬ展開になった。フリーで巻き返してその目標は達成したものの、ジュニアGPファイナルのSPも、得意の3回転ルッツでミスが出て68.72点で2位発進。演技後は悔し涙を流していた。

【失敗より挑戦できないほうが悔しい】

 島田のもうひとつの目標は、昨季の世界ジュニアであとわずかまで迫っていた、フリーでトリプルアクセルと4回転トーループの大技2本をそろえること。今季のジュニアGPシリーズ2戦と全日本ジュニアでは、トリプルアクセルは2大会では成功したが、4回転トーループは転倒が続いていた。

 それでも、GPファイナルのフリーは、最初のトリプルアクセルは1.60点の加点、次の4回転トーループの2.17点の加点をもらう出来と、目標を達成。島田は「練習がよくなかったので思いきりやるしかない、と思えたのがよかった」と振り返った。

 だがGPファイナルの演技はそのあとに思わぬミスが出た。

 これまでの島田は、最初の大技の結果にかかわらず、他のジャンプをノーミスで跳ぶのが高得点獲得の大きな要因になっていたが、次の3回転ルッツ+3回転トーループでルッツがアンダーローテーションとなり、後半の3回転サルコウからの3連続ジャンプもセカンドの3回転トーループが4分の1の回転不足に。そして、3回転ループも1回転になり、らしくないミスが連発した。

「これまで(トリプルアクセルと4回転トーループの)2本を成功したことがなかったので、少し動揺してしまったという感じで。そのあともノーミスしたいという思いが強くなって、力が入ってしまいました」

 それでもフリーでは1位の138.06点を獲得し、合計を206.33点にしてGPファイナル連覇を達成。「ノーミスができなかった悔しさより、2本をそろえられたうれしさのほうが大きい」と納得の表情を見せた。

「連覇は狙ってはいたけど、やっぱりその2本に挑戦して2本とも失敗するより、挑戦できなかったほうが自分にとっては悔しいので、2本を抜くということは頭にはなかったです」と意地も見せる。

【女王・坂本花織に勝つための条件】

 4位発進だった昨年の全日本SPでは、島田はトリプルアクセルの挑戦を回避。大技2本の練習での成功率はまだ4割ほどだというが、トリプルアクセルはジュニアGP日本大会と全日本ジュニアでも成功していて、GPファイナルでもしっかりと着氷しているだけに、全日本SPでも気負いさえなければ成功する確率は高いだろう。

 今回の全日本でトリプルアクセルも含めてノーミスの滑りができれば、自己最高の73.78点をベースと計算すると、78点台に乗せられることになり、女王の坂本花織にプレッシャーをかけられる。

 さらにフリーでも、大技2本に加え他もノーミスできれば、GPファイナルのフリーをベースにステップシークエンスの得点を加算すれば、150点台に乗せられる。すると合計220点台後半にまで伸ばせて、坂本のシーズンベストに肩を並べられるまでになって優勝争いも繰り広げられる。

 その得点を現実にするためには、まずSPで坂本を上回るか、僅差に持ち込む必要がある。だが、演技構成点は、島田の自己最高得点と坂本のGPファイナルの得点と比較すると、SPは4.03点で、フリーは5.33点の差があり、合計は島田が9.36点低い。

 加えて、演技構成点やGOE(出来ばえ点)は相対評価の部分もあるため、同じ試合で滑った場合、ジャッジの評価はジュニアの試合より抑えられ、得点差が大きくなる可能性も考えられる。そうすると、島田が坂本を上回るためには、SPのトリプルアクセルとフリーのトリプルアクセル、4回転トーループを確実に決めるノーミスの滑りをしなければいけない。

 坂本の自己最高得点はSP、フリー、合計のいずれも2022年世界選手権で出したもの。坂本は追い込まれれば追い込まれるほど底力を出せる選手だ。彼女がそんな持ち味を存分に発揮して236.09点の自己ベストを上回ることになったら、島田がそれを超えるのは厳しいだろう。

 だが、坂本がどこかでミスをしたり、220点台にとどまるような展開になれば、島田にも優勝のチャンスは生まれてくる。島田が全日本の緊張感に襲われず、どこまで自分らしい演技を貫き通すことができるか。全日本選手権の大きな見どころになってくる。