12月12日、ミラノ。チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ最終節、グループD1位レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は敵地で2位インテルに0−0で引き分けた。同勝ち点ながら得失点差で上回り、首位でベスト16進出を決めている。

「CLのグループリーグ首位突破は"歴史を作った"に等しい。それも(数々のタイトルを獲得してきたビッグクラブである)インテルのようなチームを抑えて。信じられないことだよ」

 ラ・レアルのイマノル・アルグアシル監督は試合後に言ったが、その表現にすべてが集約されている。グループDは昨シーズンのCLファイナリストであるインテルだけでなく、ポルトガル王者ベンフィカには有力選手が揃い、オーストリア王者ザルツブルクも5年連続CL出場の伏兵で、簡単な組み合わせではなかった。そのなかを3勝3分けの無敗で、ラウンド16へ名乗りを上げたのだ。

 そして、快挙の中心にいたのが久保建英(22歳)だった。
 

チャンピオンズリーグのグループリーグを首位通過したレアル・ソシエダの久保建英photo by Reuters/AFLO

 グループリーグ最終節となったインテル戦でも、久保はその真価を見せている。

「Tirar del Carro」

 それは、「荷車を引く」という意味から転じて、「先頭に立ってやる、一番難しい仕事を引き受ける」という"リーダーの資質"を指すスペイン語だ。チームが不調でも、どんな手を使ってでも勝利に導けるか。その責任感や野心は、単純な数字以上に意味があるものだ。

 インテルは堅牢で屈強で撓(たわ)むような守備と、前線でしなやかにボールを収めると一気にゴールに迫る攻撃を併せ持つ。FWマルクス・テュラムのプレーひとつとっても、ボールを収める技術、スペースを作る巧みさ、守備の駆け引きなど、前線で老獪にくさびを打ち込んでいた。"負けにくさ"の粋を凝らしたイタリアの強豪だ。

 その相手に敵地でポイントを獲得するためには、ポゼッションを守備のために用いながら、焦(じ)れずに攻め続けるしかない。たとえばラ・レアルは前半16分から2分半以上、30本もパスを回していた。巨石に向かって、コツコツとひびを入れる作業だ。

【プレーでチームを引っ張った】

 前半の久保は孤立する場面が目立った。FWのウマル・サディクは一発を秘めたストライカーだが、技術は雑で視野は狭く、細かい連係ができない。また、ブライス・メンデスの右腕ケガによる欠場も響いた。50分にはマークを外してエリアに入ったが、4人に囲まれてしまった。味方がひとりでも近づいてくれたら、連係で崩せたはずだが......。

 しかし61分にブレーキだったサディクの代わりにベニャト・トゥリエンテスが入り、トップにミケル・オヤルサバルがずれてくると、久保を中心にした攻撃は活性化した。

「Resquebrajador」(亀裂を生じさせる者)

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は端的に久保のプレーを表現している。

「ボールを受け、相手と対峙し、敵を引きつける。当初からのひとつ目の目的を、タケ(久保)は果たしている。そして後半になると、外から中へボールを入れるようになって、インテルの守備陣を壊していった。(アルセン・)ザハリャンへの(切り込んだドリブルからの)パスはすばらしく、突破からのPKはVAR判定でシミュレーションによりイエローカードを受けた。確かに自ら転倒したが......」

 74分、相手のスローインのボールを味方が奪うと、久保はミケル・メリーノのパスを右サイドで受ける。食いついたニコロ・バレッラをすかさずダブルタッチでかわし、立ちはだかったカルロス・アウグストもあっさりとかわした。まるで居合抜きのように、相手を反応させた後、瞬時に斬り捨てる。迫力に満ちたドリブルでエリア内に入った後、足がかかったように見えて、一度はPKの判定になった。

 再生された動画を見ると、実際に足はかかっていなかった。シミュレーションによるイエローは当然の処分だろう。ただ、トップレベルの主審が瞬間的にPKを取ってしまうほどのスピード感で、ゴールへの執着が乗り移っていた。

「Tirar del Carro」

 久保は先頭に立って、自軍を引っ張っていた。そのシミュレーションは「卑怯」とか、「マリーシア」といった言葉で括られるものではない。相手が足を出してくる可能性、ドリブルでさらに切り込める可能性、ラストパスの可能性......。あらゆる方策を瞬間的に探ったなかでの決断だった。つまり、勝利の執念そのものだ。

 久保の覇気はチームに伝わり、敵の手練れたちを追い込んでいる。マークについたイタリア代表フェデリコ・ディマルコはベンチに下がり、ブラジル人センターバック、カルロス・アウグストは憔悴していた。

「タケが(1月中旬から開催される)アジアカップでCLラウンド16のファーストレグに出られないとは......何て残念なんだ(2月13、14、20、21日のいずれかがファーストレグになる。日本代表が2月10日の決勝に進出した場合、13、14日の試合には出られないし、20、21日の試合になった場合、出場は可能だが、負担は相当なものになる)。もし本人が決められるなら、行かないだろう」

『エル・ムンド・デポルティーボ』紙はそう締めくくっている。

 ラ・レアルはトップ通過だけに、ラウンド16はグループ2位のチームとの対戦で、やや有利に戦える。王者マンチェスター・シティ、バイエルン、アーセナルとの対戦を避けられたのは大きく、スペインのクラブとの対戦もない。12月18日が抽選会だ。

 歴史的快挙を成し遂げたチームを牽引する久保の動向が注目される。