三笘薫、遠藤航のプレーを解剖 ブライトン、リバプールの攻守のカラクリが見えてくる!
欧州サッカー日本人所属クラブの楽しみ方 後編
ブライトン(イングランド)&リバプール(イングランド)
日本人選手が奮闘している、欧州サッカーの各クラブの戦い方と見どころを解説。後編ではヨーロッパリーグ(EL)も戦っている、三笘薫所属のブライトン(イングランド)と遠藤航所属のリバプール(イングランド)を紹介する。
前編「久保建英のレアル・ソシエダと冨安健洋のアーセナルを解説」>>
三笘薫(右)のブライトンと遠藤航(左)のリバプール。それぞれ戦い方を解説 photo by Getty Images
◆ブライトン(イングランド)
【相手を引きつけてひっくり返す「擬似カウンター」】最大の特徴は「擬似カウンター」。もともと後方からのビルドアップで「つなぐ」と「蹴る」はセットだった。守備側がマンツーマンで組み立てを抑えにきた時には、数的同数になっているトップに長いボールを蹴るのが模範解答である。
ビルドアップはショートパスだけでなく、ロングパスで相手のプレスをひっくり返すカウンターが含まれている。
ブライトンは単純にパスをつないで敵陣内へ運ぶのではなく、つなげない時に単純に蹴るのでもなく、ショートパスで相手を引きつけて外す、ひっくり返すという手法をより洗練させた。
自陣ではGKも使いながら、主にセンターバック(CB)2人とボランチ2人が小さな四角形を作ってキープする。小さな四角形の中にボールを閉じ込め、そこに相手を引き寄せる。
こうして相手を引きつけてからの引っくり返しには、いくつかのルートを用意している。
第一は、FWが引き寄せられる相手ボランチの背後へ下がってパスを受けるもの。ハイプレスの泣きどころの一つが、ボランチとCBの間のスペースだ。CBはハーフウェイラインよりあまり高い位置にポジションをとりにくいので、どうしてもこのスペースは埋めきれない。
ブライトンで下がるFWの役割をうまくこなせるのがダニー・ウェルベックだが、トップもトップ下も両方が下がるケースが多々あり、そうなると相手CBが2人とも前につり出されることも。ここでFW同士(トップとトップ下)斜めの関係を作って縦パスをフリック、一気にCBの背後をつく。
第二は相手CBのひとり、またはふたりをつり出せた時にウイングまたはサイドバック(SB)が斜めのランでCBの背後をつく。
【三笘薫は相手のダブルマークを攻略する】第三には、その斜めに背後をつく動きに対して、相手SBなどが中へ絞ってスペースを消してきた場合の選択肢である、サイドに開いた選手へのパス。これは直接裏をつく攻め手ではないが、例えば三笘薫に十分なスペースを与えて1対1の勝負を仕掛けさせることができる。
アレクシス・マック・アリスター(リバプール)、モイセス・カイセド(チェルシー)という昨季の柱だった選手を引き抜かれたが、ある程度の強さを維持できているのは攻撃の設計がしっかりしていて緻密だからだろう。
昨季後半に猛威を振るった三笘は相手から警戒され、縦にぶっちぎる得意のドリブルは減っている。そのかわりカットインからのシュート、パス。あるいはシンプルなクロスボールが増えた。
縦を塞がれた分、内側が空いているからだ。三笘にはダブルマークが普通になっているので、単純にひとつ内側の味方がフリーになっているケースも多い。
負傷者続出で三笘にかかる負担が大きくなっているが、主力の復帰とともにチームの復調が期待される。
◆リバプール(イングランド)
【パス精度の高いアレクサンダー=アーノルドを生かす戦術】ユルゲン・クロップ監督就任当初は「ゲーゲン・プレッシング」が看板だった。縦に速い攻め込みと、それに続くシームレスなハイプレスはポゼッション・スタイルの対極ととらえられていた。
しかしそれは最初の数年で、現在のリバプールは後方からビルドアップするチームになっている。ハイプレスのための攻撃という本末転倒から、攻撃した結果のハイプレスという本筋に軌道修正した。
ビルドアップのキーマンは右SBのトレント・アレクサンダー=アーノルド。中央へ移動してボランチ化する「偽SB」である。アンカーのアレクシス・マック・アリスターとともに組み立ての軸になる。
「偽SB」自体はもはや珍しくない。アーセナルのオレクサンドル・ジンチェンコがそうだし、マンチェスター・シティは「偽CB」までやっている。ポジショナルプレーの浸透とともに、こうした可変による「位置的優位」はほぼなくなっているので、偽化の狙いはほかにある。
ボールが最も経由するボランチの場所に、チームで最もパスワークの技術の高い選手を配置することでビルドアップの質を担保するためだ。A・アーノルドは長短のパス精度が高く、その能力をより生かしていくための方策と考えられる。
A・アーノルドが中央へ移動した時には、右インサイドハーフのドミニク・ソボスライが開いて幅をとる。A・アーノルドが外なら、ソボスライが少し下がってビルドアップの軸になる。A・アーノルドの偽化と連動するソボスライは、戦術的に重要な役割を果たしている。
【遠藤航はチームへ適応しながらレギュラーを狙う】遠藤航の役割は今のところ、マック・アリスターのバックアップ。アーセナルでの冨安健洋の立場と似ているようだが、内実はかなり違う。
マルチロールの冨安と違い、遠藤のポジションはひとつしかない。ソボスライのようにインサイドハーフとボランチ、さらに外へ開くような動きは遠藤には合っていない。ライアン・フラーフェンベルフのように左ハーフスペースに常駐するタイプでもない。
となると、マック・アリスターのポジションしかなく、批判にさらされてはいるがパスワークの軸となっているマック・アリスターは遠藤より優先されている。
ヨーロッパリーグ(EL)に参戦しているリバプールは試合数も多く、遠藤はカップ戦に起用される機会が多い。ターンオーバーしているので貴重な戦力なのは間違いない。カップ戦でチームへ適応しながらレギュラーポジションを狙っていくことになるだろう。
マック・アリスターを左インサイドハーフに上げて、遠藤のアンカーもありうる。フラーフェンベルフがそこまで存在感を見せていないので、むしろマック・アリスターを攻撃に活用したほうがもろもろ収まりそうではある。
後方の可変に伴って、中央で2トップ化する機会が多くなったモハメド・サラーは相変わらずの得点力を見せてつけており、リバプールのエースに君臨。センターフォワードのダルウィン・ヌニェスの爆発が待たれる。