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スクープテクノロジーズとボストンコンサルティンググループのレポートによると、2020年から2022年にかけて出社義務を課さない企業は20%の収益増を見せたが、ハイブリッド勤務または完全出社制の企業は5%の増収にとどまった。

レポートはリモート勤務が従業員の生産性を高める可能性を示唆しており、柔軟な勤務形態の企業はトップ人材を集めやすく、離職率も低いとされる。

業界によっては出社が重要とされる場合もあるが、特にテック、メディア、保険、専門職、金融などの仕事ではリモート勤務が認められる傾向にある。


新しいデータが、柔軟な勤務形態にいまだ反対する経営者たちの生産性指標と出社義務化を巡る考え方を変えるかもしれない。

スクープテクノロジーズ(Scoop Technologies)とボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting Group)が新たに発表したレポートによると、出社義務を課さない企業では2020年から2022年のあいだに20%の収益の伸びが見られる一方で、ハイブリッド勤務または完全出社制の企業での増収は5%にとどまっている。調査は20業種の上場企業554社を対象に行われ、業界平均に基づき調整が加えられた。調査対象企業の従業員数の合計は約2700万人に上る。

計画的なハイブリッド勤務(週に2、3日の出社を求める場合がもっとも多い)の企業でも、完全出社を義務付ける企業に比べて高い収益率の伸びが見られた。

出社義務化の根拠として、一部の企業経営者は共同作業、革新、企業文化の強化を掲げる。リモート勤務では実現できない形でこれらを実現することによって、プラスの業績へとつなぐことを期待している。

今回のレポートの結果は、万能の生産性指標というものが存在しないということを改めて浮き彫りにし、リモートワークを出社に劣るものと決めつける前にさらに調査が必要であることを示している、という意見もある。ワークプレイスコンサルタント企業のフレックス+ストラテジー・グループ(Flex+ Strategy Group)のCEO、カリ・ヨースト氏は「この調査自体は、金額のデータを集めたものにすぎない」と述べている。

違いの裏に潜む本当の原因は



レポートでは「リモート勤務の場合、単に仕事の時間と家庭の時間のバランスがとれていることで従業員が自分の生産性を高く『感じ』、そのおかげで重要な仕事に集中できていることが原因ではないか」としている。

ただし、完全に柔軟な勤務形態の企業で収益成長率が高い理由はいくつも考えられる。ハイブリッド作業計画ツールを提供するスクープ(Scoop)のCEOで共同創設者のロブ・サドウ氏は、完全に柔軟な勤務形態の企業では地理的な制約がないためにトップ人材を集めやすく、そのようにして集まった人材は辞めていく可能性も低いことを主な理由として挙げる。

米全国産業審議会の8月の調査によると、完全出社制の企業では過去6カ月に自主退職が26%上昇している。これは、完全リモート勤務の場合のほぼ2倍に近い。柔軟な勤務形態を求める傾向は高いままだが、そのような求人は年間を通じて減り続けているのが現状だ。

サドウ氏は「直感的には、柔軟な勤務形態がエンゲージメント・採用・人材維持に及ぼす影響が、従業員の仕事に対する集中力や満足度にも流れ込み、それが収益に差を生み出しているのではないかと感じている」と語り、「この点については探り続け、何が出てくるか見てみたいと考えている」と述べた。

業界による出社義務化の根拠と出社に頼らざるを得ない事情



実際に柔軟な勤務形態を導入できるかは業界によって大きく異なり、一部のCEOが完全リモート勤務に反対する主な理由もこの辺にありそうだ。たとえばサービス中心の業界では、本社勤務者が利用者に近いことが有利に働く、と専門家はいう。

サドウ氏は「ある業界の本社勤務や事務職では柔軟な勤務形態が可能であるのに、ほかの業界では不可能な理由は特にない」としながら、「同時に、企業によってはビジネスモデルがまったく異なっていて、ある種の企業ではオフィス出社が重要な意味を持つことも考えられる」と話す。

先述のレポートでは、テック、メディア、保険、専門職、金融の仕事ではリモート勤務が認められることが多い一方で、もっともリモート勤務を認められる可能性が低いのは外食、ホスピタリティ、教育、小売などの業界であることが明らかになっている。このような業界では、出社したほうが顧客に近いとCEOが考えるからではないか、とサドウ氏は話す。

サドウ氏の知り合いで、自社店舗の上の階にオフィスを構える小売企業幹部がいたそうだ。問題解決に行き詰まると、オフィスを出て下の階の店舗に行き、店舗フロアを歩き回りながら、買い物客や商品を観察していたという。

「発生している問題をある意味実際に感じることが役に立つという話だったが、どの業界でも同じというわけにはいかない」とサドウ氏は語る。たとえばソフトウエアを販売するテック企業の場合、消費者が集まる具体的な場所はないため、その近くに行くということもできない。

特定の業界においては顧客との関係も極めて重要になる、と話すのは独立系企業コンサルティングコミュニティのザ・ズー・ロンドン(The Zoo London)の共同創設者であるレイチェル・フォード氏だ。「クライアントがいるときは、私たちもいなくてはならない。サービス業の場合、クライアントの近くにいることが求められる」。

サドウ氏は「企業によってリモート勤務が技術的に可能であったりなかったりするという話ではないと思う。そうではなく、どれほど顧客に近づけるかによって、オフィスにいることの価値が異なるという話ではないか」と語る。

企業の年数と規模による影響



レポートでは、柔軟な勤務形態を認めるかどうかに、企業の年数や規模も関係してくることが明らかになっている。従業員数500人以下のやや小規模な企業のほうが圧倒的に柔軟で、74%の企業で出社の有無を完全に選べる。従業員数が2万5000人以上の大企業ではハイブリッド化が進み、60%で計画的なハイブリッド勤務制を採用している。

また、設立10年未満の企業のほうが、2010年以前に設立された企業より柔軟な勤務形態である場合が多い。「これは、仕事で使用する技術の重要な変化と時期的にちょうど重なる」とサドウ氏はスマートフォンの登場に触れながら語った。

今後の主流としてはまだハイブリッド優勢が予測される



スクープの分析や最近の他のレポートでは、今後ほとんどの企業で計画的なハイブリッド勤務が主流になると予測している。「計画的な」というのは、従業員が自由に出社を選べるのではなく、企業側が特定の日数の出社を義務化し、残りの日数は自宅勤務を認めるというものだ。

「ただし、完全に柔軟な企業のほうが計画的なハイブリッド勤務の企業より収益の伸びが高いという状況が続けば、大企業が柔軟なモデルへとさらに移行する動きが出てくる可能性はある」とレポートは述べている。

ヨースト氏は次のように語る。「業績の伸びにつながっている柔軟な働き方と、その柔軟性に対する経営者の考え方にギャップがある。それが、必要な人材の獲得や維持、将来に向けた企業体制の整備を阻むだろう」。

[原文:How companies allowing remote work outperform those that don’t]

Hailey Mensik(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)