泣いている1歳の子どもをあやす母親

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さまざまな理由で育休延長を希望する人たちがいるのが実情です(写真:shimi / PIXTA)

「落選狙い」の入園申請で「落選」した場合には育休延長が認められなくなるかもしれないという報道に、子育て社員の間でどよめきが起こっている。

現行の育児休業制度は、1歳までの取得期間を定めているが、保育所等(認可保育園、認定こども園、小規模保育など)に入れないなどの事情があれば1歳半まで延長することができ、さらに入れない場合は最大2歳まで延長できる延長制度が設けられている。

この延長制度を利用するためには、保育所等に入れなかった証明として自治体が発行する不承諾通知(保留通知ともいう)を所管のハローワークに提出する必要がある。これにより延長期間も育児休業給付を受けることができる(育児休業給付の給付率は180日目までは賃金の67%、それ以降は50%)。

育休延長制度の利用が制限される?

さて今回、問題になっているのは、育休延長したいために入園倍率の高い園のみに希望を出すなどして、意図的に「落選」しようとする申請者がいることだ。

そのような育休延長制度の「不正利用」をなくし適正化するため、不承諾通知とは別に延長が必要な理由(入園申請の詳細)を申請者に申告させ、ハローワークが審査した上で延長を認めるという手続きを設けることが政府で検討されているという。

報道では「落選狙い」や「不正利用」などの言葉が見られるが、そんな言われ方をすることを心外に思う人もいるだろう。逆に、不承諾通知がなければ育休を延長できない現状に首をかしげる人もいるはずだ。

実は、育休制度の取得期間は今も「1歳まで」が原則で、待機児童対策として延長制度がつくられたという経緯がある。待機児童数がどんどん増えていく中での苦肉の策としての育休延長制度であり、延長部分はあくまでも特例というわけだ。

しかし、子育て社員には「最長2歳まで」というキャッチフレーズのほうがしっかりインプットされ、希望すれば取れるものだと思っている人も少なくない。

もちろん、育休延長が待機児童救済策としてなくてはならない制度であることは、待機児童数が減少している今も変わりない。

保育園を考える親の会が「100都市保育力充実度チェック」で調査している都市部の自治体では、年度途中の入園は相変わらず難しい。一番入りやすいと言われる4月入園でも、2〜3割は落選するのが都市部の平均的な状況だ。

ここ数年、年度前半に0歳児クラスに空きがある保育所等も増えてきてはいるが、入りたくても入れない状況は、「待機児童ゼロ」を宣言する自治体でも続いている。

「落選狙い」は「不正利用」なのか?

その一方で、仮に入れそうな保育所等が近くにあっても、1歳過ぎまで育休を取ることができるのであれば延長したいと考えている人も増えている。

一刻も早く仕事に戻りたいと願う人もいれば、成長著しいわが子ともうしばらく一緒に過ごしたいと願う人もいるのは当然だ。子どもの発達や親の健康に不安がある場合もあるだろう。さまざまな家庭の事情があって育休延長を希望するケースもあるはずだ。

そのために、わざと入りにくい園を希望したとしても、「不正」とまで言われるほどのことではない。いや、保育方針や保育の質を重視して、この園だったら無理しても早く復帰して入園させるけれども、それ以外になるなら家庭で待機して希望園に入園できるチャンスを待ちたいという人もいていいだろう。

そういった願いは、わが子を愛する親の気持ちとして至極まっとうなものだ。

納得のいかない保育施設に入ってしまったために、退園を余儀なくされ、仕事をやめざるをえなくなった例も知っている筆者としては、ぜひ園選びには慎重になってほしい。

これらのことを考えると、親や子どもの状態に合わせて不承諾通知がなくても育休期間を選べるようにしたほうが、子育て支援になるのは確かだ。

困っているのは自治体だった

国は2022年に育休延長期間も母親・父親が交代して育休を取れるように制度を改定しており、育休制度を利用しやすくして子育て支援を強化しようという方向性だったのに、なぜこのような流れになるのか、奇妙に感じた人も多いだろう。

この検討は、実は自治体からの提案によるものだった。

内閣府では地方分権改革の一環として、自治体から国への提案を募集しているが、令和5年度の募集において、入園を希望しないが育休延長のために入園申請をする人が増えて、自治体の事務の負担が大きくなっているとの意見が提出された。

自治体では、入園選考にあたり細かい基準に基づいて家庭や子どもの状況を審査し入園者を決定しているが、せっかく入園が決定しても当人が希望していなかったり、そのために必要な人が落ちたりという矛盾に満ちた状況が発生している。

「希望すれば不承諾通知がもらえて育休延長できる」と思い込んでやってくる申請者に、そもそもの制度の趣旨を説明したり、「入れてしまった」ことへの苦情に対応したりする時間も膨らんでいるのだという。

行政事務は本来、法令に基づき厳密に行われるものなので、「必ず不承諾になる入園申請」などありえない。

もしも希望した園の年齢クラスに定員を下回る申し込みしかなければ入園できてしまうのであり、行きたくなければ辞退するしかないが、辞退すれば不承諾通知は出ない。複雑な制度のはざまで納得がいかない親たちの姿が思い浮かぶ。

自治体からのこのような訴えを受けて、有識者会議で議論が行われ、不承諾通知とともに、保護者に申告書を提出させてハローワークの審査を行うことで認定を厳格化する案が出てきたという。

しかし、保護者に入園申請の経過や保育所名などを改めて申告させたとして、ハローワークは適正な審査ができるのだろうか。各園の入園の難易度、立地、利用者の自宅との距離などから「落選狙い」を判定できるかというと、難しいだろう。

地域の保育事情を把握する自治体が判断するよりももっと困難になることが想像される。また、前述のように、家庭の側に単純ではない事情があった場合、理不尽な審査結果が子育て家庭を追い詰めるようなことにならないか懸念される。

問題解決のために制度を複雑にしていくのではなく、制度のひずみをもとから正してシンプルにする方法はないものだろうか。

地方分権改革有識者会議に提出された自治体の要望を見ると、制度を簡潔にする提案もある。現行の延長制度を撤廃し、2歳に達するまで給付金を支給可能としたり、保育所等を利用していない旨の証明をもって支給期間を延長したりなど、延長申請に不承諾通知を不要とする案が出されていた。

すでに実態は進んでいる

令和3年度雇用均等基本調査によれば、育児休業から復職した男女労働者のうち、取得期間が12カ月以上だった者はすでに40.9%に達している(産後休暇を考慮に入れるとおおむね1年+8週以上ということ)。つまり、育休延長制度を利用している者が4割以上いるということだ。

女性のみの集計では50.2%と半数を超えている。また、事業所別で見ると、育児休業を取れる最長期間を「2歳まで(法定どおり)」としているところは60.5%に及んでおり、2歳以上まで認めているところも11.1%ある。

この状況で、待機児童が解消したとして「育休は1歳まで」に戻すことができるものだろうか。子育て家庭の反応はどうなるだろう。育児休業の取得可能期間を2歳までとしてしまうことが最もシンプルで、子育て支援にもなる解決方法ではないだろうか。


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(普光院 亜紀 : 「保育園を考える親の会」アドバイザー)