データにより導き出されたZ世代の特徴とは(写真:takeuchi masato/PIXTA)

昨今何かと話題のZ世代は、他世代と比較すると特有の価値観を持ち、行動も独特な世代であると解説されることが多いが、本当にそうなのか? 野村総合研究所の「生活者1万人アンケート調査」では、1997年から3年ごとに同一調査項目による調査を継続しており、例えば30年前の若者の価値観・行動と比較した分析により、今のZ世代の特徴を明らかにすることが可能となる。

時系列の大規模アンケート調査をベースにまとめた『データで読み解く世代論』を上梓した著者が、データにより導き出されるZ世代の特徴を取り上げながら、Z世代攻略に求められるマーケティングの方向性を解説する。

Z世代にて低下する流行意識

一般的に若年層をターゲット層に設定することは多い。若年層が着目される理由は、年齢として若く、今後結婚、出産、子育て、住宅や自動車の購入など、さまざまな支出を伴うライフイベントを経験していく年代であり、そして年を経るに連れて支出金額も増えていくからである。

若年層は今後消費の中心になっていく世代であり、顧客としてのLTV(ライフタイムバリュー)が長いことから、人口ボリュームが小さくても軽視はできないのである。

また、若年層は流行感度が高く、新しい商品・サービスが出た場合に、少し様子を見つつも他人より先に試したいとする志向は中高年層より高い。

しかし、同じ10〜20代の若年層に絞って流行感度の推移をみると、2006年調査から調査回ごとに徐々に下がっており、逆に新しい商品・サービスには関心がないような層が増えていた。Z世代にとっての流行は「今の先端」をみんなで追いかけるものではなさそうだ。

気の合う仲間との「和」を大事にしたい

では、Z世代にとって流行よりも重視することとは何であろうか。

「生活者1万人アンケート調査」の継続調査項目の中で、団塊ジュニア世代やポスト団塊ジュニア世代が若かった頃と、今のZ世代を比較し、Z世代の方が明らかに高い価値観の1つに「気の合った仲間さえわかってくれればいい」「考えを主張するより、他の人との和を尊重したい」がある。

一方、「周りの人から、注目されるようなことをしたい」や、「自分の考えに基づいてものごとを判断したい」意識は団塊ジュニア世代、ポスト団塊ジュニア世代と比較するとかなり低いという結果が出ている。このような価値観をみても、Z世代はあまり他人と違うことをするよりも、気の合う仲間との和を大事にしたい志向が強いように思える。

このような価値観はZ世代の生まれ育った時代背景も影響している。1つは少子化によって同世代の人口が少なく、団塊世代や団塊ジュニア世代と比べると、他人との競争の必要性が薄かったことが挙げられる。

また、(一部さとり世代も含まれるが)1987〜2004年生まれの人については、学校において、詰め込み型ではなく、経験重視型の「ゆとり教育」を受けた世代であり、当時の学校教育によって他人と競争する意識が薄れていったことも影響しているといわれる。

みんなの前で褒められたくない

このような時代背景を踏まえると、Z世代は高みを目指して他人と競争していくより、ともに歩調を合わせながら協力し合うことを重視する世代であると考えられる。

他人との競争、というと大袈裟に聞こえてしまうが、要は他の人と違った目立つことをして注目を浴びることは避けたいのである。変に目立ったことをして、仲間内から浮いてしまったり、失敗して笑い者にされるのは絶対避けたいのがZ世代の心情である。

大学生へのインタビュー調査からは、先生からみんなの前で褒められるのが嫌だった、みんなの前で表彰されるのはドキドキして苦痛だった、といった声も聴くことができた。

褒められるようなことでも周りから目立ってしまっては、仲間からどう思われるかわからない。それなら褒められなくてもいいから、目立つことはしたくない、といったことが本音である。

そのためマネジメントの教科書にも載っていそうな話だが、部下のモチベーションアップのために、褒める場合はみんなの前で行い、叱る場合は個別に行うべき、といったことはZ世代には通用しない可能性がある。通用しないばかりか、みんなの前で褒めたばかりに心が離れていく恐れもあるので注意が必要だ。Z世代は仲間内での協調が心の安定につながり、何より重要である。

マーケティングのカギ握る「推し活」

それでは、マーケティングにおいてZ世代に効率的・効果的に訴求する方法は何だろうか。そのヒントは「推し活」にある。推し活とは、自分が好きなアイドルや俳優、キャラクターなどをさまざまな形で「推す」、つまり応援することである。

アイドルや俳優、アーティストが代表的であるが、声優や芸人、アスリート、アニメやゲームのキャラクターも、推し活の対象に入る。

推しが出ている作品の鑑賞や購入、推しのゆかりの地を巡る「聖地巡礼」を行うことやSNSやブログなどで発信することを熱心に行っている。また、それがきっかけとなり、推し活を楽しむ仲間ができてしまうほどである。

全員が全員とも推し活と言われるほどエネルギッシュなことをしているわけではないが、仲間内での「好き」を大事にするZ世代においては1つのコミュニティの中で、仲間と共感できたり、盛り上がることのできるネタは周りから興味を持ってもらえる内容となりえる。

こうした特徴から、Z世代に向けた訴求方法については、「有名タレントを起用したテレビCMを数多く打てばいい」という従来のマーケティング常識は通用しない。

NRIにおけるテレビCM効果検証サービスにより蓄積されたデータを分析すると、テレビCMにおいて出演者を思い出すことのできる割合(純粋想起率)とテレビCMの放送回数は、Z世代では比例していなかった(一方、30〜60代の中高年層では比例していた)。

小強力なファンコミュニティ持つ「推し」が強い

逆に、放送回数は少なくても、Z世代にとってエンゲージメントの高い出演者では純粋想起率が高まっていたことから、有名タレントをテレビCMのようなマス媒体での広告に起用するのではなく、小粒でも強力なファンコミュニティに支えられる「推し」が出演していることが、Z世代にとっては重要である。


また、SNSでのつぶやきのネタになりそうなコンテンツも響く。流行とは逆行しそうだが、昭和の雰囲気を醸し出した広告は一見古そうに見えるが、仲間内で話題にできる内容だったことから、Z世代においても意外と受け入れられた例もある。

Z世代では親子仲のいい人が多く、自分たちが知らない親世代の昭和にも興味を持っていることから、こうしたリバイバル流行も起きやすいのが特徴的である。

Z世代における流行は、何が何でも新しければいいということではない。自ら「好き」と思えたことがZ世代では重視される。マーケティングにおいてZ世代を振り向かせるには、「好き」を共感でき、誰かに共有したくなるようなクリエイティブを生み出していくことが求められる。

(林 裕之 : 野村総合研究所 コンサルティング事業本部 マーケティングサイエンスコンサルティング部 シニアコンサルタント)