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"マインドコントロール"のテクニックは(1)鎖をかける、(2)地雷をおく・・・。新人ホストが研修で叩きこまれる「ホスト心得」とも呼べる内容の一部だ。「ホスト業とは?」から始まる文章で、女性客を虜にするという「アイドル営業」の解説まで記されている。若い女性が多額の売掛で苦しむ"悪質ホスト問題"の認知が広まる中、その手口にも注目が集まる。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●「○○さんセミナー」というメモ

この文章が書かれたノートを入手したのは、ホスト被害を受けた女性の保護者を支援する「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称:青母連/せいぼれん)の玄秀盛さん(67)だ。

今年4月、玄さんはノートを入手し、それから半年間、記載された内容と相談に来た親などから聞き取った情報を比較、分析してきた。その結果、一般人をホストに仕立てる「研修教材」と判断し、今回初めて外部に公開した。

文量はノート4ページ分で、赤ペンを使っている箇所もある。「○○さんセミナー」というメモがあることから、どこかのホストクラブ幹部が語った内容を書き取ったものと推測できる。

●「ホストはどんな存在であるべきか」という問い

文章は「ホスト業とは?」という問いから始まる。

「Q ホストはどんな存在であるべきか」
「A お金を払ってでも関係を作りたいと思える存在
女性は彼氏や旦那程度の男にはお金を出さない
要するに、そこら辺の男が演出する日常レベルでは女性はお金を出さない
非日常的演出にお金を出す」

ホストクラブでは、女性客を「姫」と呼ぶ。その「姫がお金を使う理由」は、「好きなんを押し上げる為に姫はお金を使う」「担当の価値を上げることで、自分自身の満たされない心の空洞を埋めることができる」と分析している。

女性客が抱える「心の空洞を埋める」ことは重要なミッションとされているようだ。2ページ目にも、再度同じ記載が出てくる。

●「アイドル営業とは友営 色恋 本営の延長上」とされている

続いて記されているのは「アイドル営業」について。「アイドル営業とは友営 色恋 本営の延長上」とされている。

玄さんによると、「友営」とは、恋愛感情を利用せずに友だちのように接する営業を指す。「色恋」は女性客に疑似恋愛を提供する営業方法で、「本営」になると、色恋営業をさらに発展させ、女性客を本当の彼女として扱うという。

最上位の営業スタイルとして、セミナーでは「アイドル営業」を掲げ、さらに「三要素」に分解してみせる。

「店外などでさほど時間を使わずに来てもらう 使わず」
「お店に来てほしいなど言わなくても来てもらえる 呼ばず」
「煽らなくてもシャンパンが入る 煽らない」

たしかにここまで来ると、ホストは楽々と売上を立てられそうだ。

●「日常から地雷を常に言葉で発する」

2ページ目になると、「マインドコントロール」の具体的なやり方が書かれている。

テクニック(1)は「鎖をかける」。「他店に行けなくする」良い例の言葉として挙げるのは、次の2つだ。「Aちゃんって、俺だけをまっすぐ見てくれるからうれしい」「他店にいかないから俺も大切にできる」。反対に「他店行くな」はバツとする。

テクニック(2)としては「地雷をおく」。次のような言葉が、その地雷になるとしている。

「好きな担当がいるのに他店に行く女の子、なんなんだろうね」
「他店行く女の子って最低やよね。それは担当も好きじゃなくなるよね」

「日常から地雷を常に言葉で発する」と、「地雷をさけるため勝手に理想の女の子になる」としている。

●「売掛はあっと言う間に数百万円に達する」

アイドル営業・マインドコントロール・地雷をおく⋯⋯。こうした言葉が並ぶ「ホスト心得」については、玄さんは「何人もの女性を虜にしてきたホストだからこそポイントを突いている。見事な作り込みだ」と話す。

その分、18歳や19歳のような若年女性が狙われたり、風俗で働かないと払えないほど売掛が多額になったりする"悪質ホスト問題"への警鐘を鳴らす。

「この研修以降、新人ホストはお酒を飲ませるときの煽り方やお金の落とさせ方について学んでいきます。そして、大きな口を開けて、警戒していない女性を待つ。パクっとくわえたら放さず、売掛はあっと言う間に数百万円に達します」

こうした被害を防ぐため、ホストに対する「売掛禁止条例」の制定機運を盛り上げようと、青母連は9月20日から署名活動を始めた。

一定数が集まったら吉住健一・新宿区長に宛てて提出する予定だ。専用ページを立ち上げ、ネットでも署名を募っているほか、活動資金を支えるための寄付も受け付けている。