生活していると必ず目にするのがフォント。インターネット上の文字はもちろん、道路標識やお店の看板、シャツにあしらわれてる文字デザインも同様です。フォントデザインは個人のデザイナーが活躍していることも多い一方で、4万5000人のデザイナーが販売を行うMonotypeの独占状態になっています。そのようなフォントデザインとフォントビジネスの歴史について、海外メディアのThe Hustleがまとめています。

Where do fonts come from? This one business, mostly - The Hustle

https://thehustle.co/where-do-fonts-come-from

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The Hustleによると、原初のフォントとは、1440年にドイツの印刷業者であるヨハネス・グーテンベルクが聖書を大量生産するために発明した活版印刷機にさかのぼります。その後数世紀、グーテンベルクの活版印刷機を模倣した鋳造製品が生まれるたびに、新しい書体・フォントが誕生していきました。

その後、フォントビジネスとしては19世紀末にMonotypeが登場。Monotypeの創始者であるトルバート・ランストン氏は「活字鋳造機」を発明し、活字作成の速度と効率を向上させました。その後数十年にわたり、Monotypeはアメリカとイギリスに支店を持って、人気の書体を開発していきました。



20世紀後半になって、フォント業界は常に不安定な状態にあり、合併や買収が頻繁に行われました。1892年には、当時アメリカで製造されていた活字の約85%を占める23の事業者が合併したビジネストラストの「American Type Founders」も誕生しています。この頃にはMonotypeの活字鋳造機といった機械化プロセスは消え去り、印画紙やフィルムに印字して版下を作成する写真植字や、その後のスクリーンにフォントを表示するデジタル植字に取って代わられています。

Monotypeは財政難と組織再編に耐えながら、2004年にボストンのプライベート・エクイティ・ファンドであるTA Associatesに買収されました。その結果、Monotypeは上場に乗り出し、2010年の年間収益1億700万ドル(約160億円)から、2018年には年間収益が2億4700万ドル(約340億円)まで増加しました。2006年には19世紀から主要な競合他社であったLinotypeを買収して約6000の書体を手に入れたり、2010年にはデジタル書体ファウンドリのAscender Corporationを買収したり、2014年には25万以上の書体を有するFontShopを買収したりと、強大な力をつけていきます。

2019年にはプライベート・エクイティ・ファンドのHGGCがMonotypeを買収した結果、顧客は1社とライセンス契約を結ぶだけで多数のフォントにアクセスできるようになりました。一方で、あるフォントデザイナーは「この買収は、業界を食い荒らすクラーケンにように感じました」とコメントしており、フォントを取り扱うプラットフォームが独占状態になったことで、デザイナーには厳しい状況になっています。



変化したフォントビジネスの市場に関して、イギリスのレディング大学でタイポグラフィーを研究するジェリー・レオニダス氏は、「非常に大きな企業が1社と小規模な企業が多数存在する、という市場は健全な市場ではありません。これは本質的に競争を阻害し、代替モデルの成長を困難にします」と語りました。

Monotypeの売上配分は50%が手数料としてサイトにとられ、残り50%がデザイナーに配分されます。Monotypeはフォントの権利侵害問題の処理に力を入れており、個人では難しい部分のサポートとして多くのデザイナーにとって大きな利益となっています。また、Monotypeはフォントの販売方法にサブスクリプションモデルを導入する計画を発表しており、顧客はより多くのライセンスをサブスクリプションの料金を支払うことで獲得できる上、フォントが使用されるたびにデザイナーは収入を得ることができると、Monotypeのディレクターであるメアリー・キャサリン・プフルーク氏は述べています。

しかし、レオニダス氏はMonotypeが独占的に人気のあるライセンスフォントを所有しているため、「サブスクリプションによって不釣り合いな恩恵を受けられる状態です」と指摘しています。また、一部のフォントデザイナーはThe Hustleに対し、「販売ごとに明確な支払いが発生したこれまでの契約から、Monotypeの内部計算に頼ったサブスクリプション形式になることは、不安があります」と懸念を語っています。