いくつになっても悩んでしまうのが「人間関係」。あるところで、折り合いをつけながらつき合っていきたいもの。そこで、50代、60代、70代別の、心地よい人間関係の例を紹介します。

50代からの心地いい人間関係のコツ

まずは50代にとっての人間関係について、大平一枝さん、若松美穂さんに教えてもらいました。

【写真】SNSを楽しむ70代・真藤さん

●会食は多くても4人までと決めています(大平一枝さん)

『東京の台所』をはじめ、日々のなかにある、かけがえのないものごとを温かな目線でエッセイが人気の大平一枝さん(58歳)。なにかと憂いがちな50代の今、ポジティブに過ごすために大切にしていることがあると言います。

「私もずっとそうしてきたけれど、人の心には波がある。とくに女性の50代は、親の介護が始まったり、更年期の症状が出始めたりと環境や体調が大きく変わる時期。今はそれどころじゃない、話す気になれないという場合もあると思うんです。下で紹介している写真でつけているマスクを送ってくれた地元の親友とは15年ほど縁遠くなっていたのですが、コロナ禍のマスク不足の最中、彼女が『マスク送るよ』と連絡をくれたのを機に交流が再開したんです。その間、私がしたのは待つことだけ。今、心が離れていても、お互いの心の中に相手を思う気持ちがあれば、いつかまたつながることができるはず。無理して繕うのをやめて、そのときを待っていてもいいんじゃないかと思います」

「会食は多くても4人までと決めています。それ以上になると、話せない人がいるまま終わってしまい、帰路の私はどこか満たされず、きっと笑顔じゃないだろうなと思うから。誘いを断っても人間関係が壊れるわけではないし、意外と『じつは私も…』と共感されることも。人生も折り返し地点。限りある時間だからこそ、今を大切に行動したいと思うんです」

● そのときだけの気軽な誘いに乗ってみても(若松美穂さん)

50代ともなると自分なりのルーティンができて新しいことが苦手になったり、狭い人間関係の中にこもって満足しがち。でもそんな50代こそ、これまでの自分を変えてみませんか。「これまでの自分とは違った選択をすることで、50歳での新発見を楽しんでいます」と教えてくれたのは、カウンセラー・エッセイストの若松美穂さんです。

「だれかに誘われたら、知り合いがいなくても、もともと興味がなくても、出かけてみることにしています。
もちろん仕事や体力と相談して、余裕のあるときに…。

今つき合っている友達を大切に。加えて50代からは、『そのときだけ』の気楽なおつき合いも悪くないと思っています。

新しい場所は、多少気も使いますし、疲れないことはない。でも刺激が多く、頭も体も働いて、心地いい疲れでぐっすり眠ることができます。

なによりいつもの友達と会ったときに、話すことのできるネタが増えます。
実際行ってみると、いつもの仲間では聴くことのなかった話を聴くことができたり、知らないこと・場所・ものに出合うことができて、興味のあることの幅が広がっていることを感じます」

60代からの心地いい人間関係のコツ

次に、60代で意識したい人間関係を、ブロガーの中道あんさん、医師の和田秀樹さんに教えてもらいました。

●60代からはありのままを見せるのがいちばん(中道あんさん)

50代60代の女性の生き方に関する著書を上梓し、トップブロガーでもある中道あんさんは、先日60歳を迎えました。

「人間関係の悩みに関しては、ほとんどなくなりました。来るもの選び、去るもの追わずの精神になったからでしょうか。とくに私の場合は、ブログで等身大の自分を晒しています。なので、そのブログを通じて知り合った方とは、価値観が似ているように思います。ブログを毎日投稿することで、読者は私と普段から会話をしているようなものです。だからでしょうか、初めてお会いしても全く初めまして感がないそうです。

若い頃だと自分をよく見せようと必死でした。でも、この歳になったら、ありのままがいちばん。みんなに好かれようとするよりも、自分を大切にしてくれる人を大切にしようと思います。

60代になると、いろんな意味で腹が座ってくると思います。ジタバタしたところであとは老いていくしかないと認めざるをえません。だからこそ、もう存分に好きに生きていきたい。そのために50代のうちに、できるだけチャレンジしてたくさん経験を積んでいくことが大切だと思います」

●人間関係で「勝ち負け」を気にしない(和田秀樹さん)

「あの人は自分に比べて人生が楽しそう」「この人に比べれば、自分の人生なんてむなしい」と、つい卑屈になってしまうことは、人間ならだれしもあることです。しかし、長年、高齢者専門の医師として、数多くのシニア世代と接してきた和田秀樹さんは、「60代以降は他人と比べる人生を送っても意味がない」と語ります。
ここでは、『60歳からはやりたい放題[実践編]』(扶桑社刊)の内容を抜粋し、和田さんが提案する60歳からの人生を豊かにする秘訣をご紹介します。

「60歳からは、“やりたい放題”の人生が始まる。そんなふうに私が思うのは、60歳以降は『他人と比較する生き方』をしても、あまり意味がないからです。

私たち日本人は、本当に小さい頃から成績や受験、入社試験や出世などの競争にさらされてきました。だから、無意識のうちに、何事も勝ち負けで考える習慣がついています。ただ、60歳になったらもう『勝ち負け』の感覚は捨てて、『比べない人生』を意識してほしいと思います。

なぜなら、60歳以降の人生は同じ年齢であっても、大きく個人差が出てきます。

前までは同じような人生を歩んでいた同級生であっても、60代になってお互いの健康状態だけを比較してみても、元気に現役時代と同じように働いている人もいれば、病気を患っている人、けがをして外出が思うようにできない人、なかにはすでにこの世を去ってしまった人もいるかもしれません。

人によっては仕事で成功し、資産もたくさん蓄え、家族もつくったけれども、病気になって余命があと数年しかないという人もいます。一方、独身のまま生きてきて、家族がいないけれども、体は健康で一人の人生を謳歌している人もいます。

両者を見て『どちらが勝っているか』は、一概には言えません。つまり、人によって状況が大きく異なるなか、『勝ち負け』を気にしても意味がないのです」

70代からの心地いい人間関係

次に、70代の人間関係について、真藤眞榮さん、もののはずみさんに教えてもらいました。

●義務的な人づきあいをやめました(真藤眞榮さん)

70歳で自宅を売却し、現在は高齢者向けのサービスつき住宅(分譲マンション)にお住いの真藤眞榮さん。30〜50代は、シングルマザーとして育児や仕事に追われ、定年退職後は母親の介護に多忙な日々を過ごされました。この数年で疲れてしまう義務的な人づきあいをやめたそう。

義務感で出す定型のあいさつより、今の自分を知ってほしいから、「転居後の日々はフェイスブックで『隠居見習い帖』として発信しています」

<「友達のみ公開」でセキュリティも意識>

食べたものや、行ったスポーツを毎晩22時頃にアップ。家族や仲のいい人との交流用なので、公開範囲は限定して。

<新しい友達との交流、盛んです>

引っ越して3年、今の人間関係を大切にしています。「新たなお友達と、互いの好きなものを贈り合ったり、一緒にお出かけすることが楽しいんです」

●終活を意識し、お中元やお歳暮をやめました(もののはずみさん)

74歳の夫、97歳の義母、46歳の息子の4人で暮らす、71歳のYouTuber・もののはずみさん。老いとうまくつき合いながら日々を楽しく暮らすもののはずみさんの、シニア世代の家族暮らしのヒントを綴った『71歳、74歳夫と97歳義母と大人だけで楽しく暮らす』(ワニブックス)が話題を集めています。

「人間関係は、60代後半からずいぶんスリムになりました。知人へのお中元やお歳暮は先方より『お互いに終わりにしませんか?』と申し出があり、そうすることに。娘たちの嫁ぎ先とは昨年連絡を取り合って、やめることにしました。

年賀状は夫の担当ですが、私のきょうだいとは昨年暮れに電話で話し、今年から出さないことに。友人とはスマホのメールで年始の挨拶をしています。

整理が進むと、不思議と新しいことを始めたくなりますね。ウォーキングを習慣にする、畑仕事をする…。終活が未来を考えるいい機会にもなりました」