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安全性を優先し先進的な技術を採用

レイランドP76は、中身もしっかり伴っていた。ライバルより車重は軽く、動力性能では優位だった。

【画像】失敗の許されなかったフルサイズ レイランドP76 SD1とドロマイト 同時期のスーパーカーも 全122枚

生産効率にも優れ、ボディシェルは合計215回のプレスで成形されたが、オリジナルのミニより2回も工数は少なかった。製造コストを抑えるだけでなく、高剛性で操縦性にもメリットがあった。


レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)

ボディシェルの四隅は、強固な亜鉛ダイカストで形成。軽微な事故なら、安価で簡単に修理することが可能だった。

開発を率いたデイビッド・ビーチ氏も、「P76の設計では整備士の仕事を減らし、オーナーの維持費を削ることへ配慮しました」。と、当時のモーター誌のインタビューで述べている。

P76は、フロントにディスクブレーキを採用した初のオーストラリア車でもある。ドアに内蔵された補強材、サイド・インパクトバーを標準装備したのも初めてだった。

ステアリングコラムは、事故時の衝撃を吸収する構造を備え、フロントガラスは接着式。ファミリーカーとして安全性が優先され、同時期のライバルと比較し、先進的な技術が広範囲に採用されていたといえる。

パッケージングも優れていた。車内は広々としており、荷室はクラス最大だと主張された。44ガロン(約182L)のドラム缶を運べる、とすらうたわれていた。

ボディカラーの名称は、英国車との近さを感じないよう配慮された。「ホームオンソー・オレンジ」、「ピールミーア・グレープ」、「ヘアリー・ライム」といった、鮮やかな色も複数用意された。

オイルショックと製造品質に悩まされる

レイランド・オーストラリア社は、見込みの販売数を強気に設定。1973年には、現地で影響力の大きい自動車雑誌のカー・オブ・ザ・イヤーへ選定され、注文は年間5万台に迫るとさえ予想された。しかし、現実は甘くなかった。

世界的なオイルショックが南半球にも及び、フルサイズの新モデルにとって突然の逆風が吹いた。加えて、シドニーのゼットランド工場では労働者がストライキを実施。ライバルメーカーが部品供給の妨害を企てた、という疑惑すら生まれた。


レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)

なんとかラインオフしたP76には、製造品質という問題がつきまとった。4ドアサルーンとステーションワゴンに続き、クーペのフォース7という派生モデルも投入されたものの、生産は18か月で終了。合計での生産数は1万8007台に終わった。

そしてP76の失敗は、オーストラリア・レイランドの終わりも意味した。

今回ご紹介するネイビー・ブルーのP76は、デイブ・イードン氏がオーナー。1974年式のタルガフローリオという仕様で、2001年に購入したという。彼は1980年代半ばに、P76のデラックス仕様も所有していた過去があるそうだ。

こちらは、ロンドンからアフリカを経由しミュンヘンを目指した、1974年のワールドカップ・ラリーに含まれた、タルガフローリオと同じコースで勝利したことを記念した特別仕様。490台の限定で販売された。

ヨットのようにコーナーではボディが傾く

当初は英国の商船員が所有していたクルマで、1977年からグレートブリテン島で過ごしている。ベースとなったのはミドルグレードのスーパーだったが、リミテッドスリップ・デフに14インチのスポーツ・アルミホイールで走りを意識している。

オメガ・ネイビーと呼ばれるメタリック塗装も、限定色だった。パワーステアリングとツインスピーカーのラジオが標準。サイドストライプで飾られ、タルガフローリオというロゴがトランクリッドに貼られている。


レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)

ドアを開き運転席へ座ると、メーターが埋め込まれたフェイクウッドのダッシュボードと向き合う。スピードメーターは時速65マイル(104km/h)からイエローに塗られ、速度の出し過ぎを教えてくれる。燃料計と水温計などの補機メーターが、その間に並ぶ。

ブーメラン状のスポークが支えるステアリングホイールでは、レイランドのエンブレムが輝く。ラジオデッキにも、同じブランド名が記されている。クリーム・レザーのシートは幅が広く、横方向にリブが入り、サイドボルスターはない。

運転席からの視界は良好。ボディの四隅が見えるため、大きさの割にはサイズ感が掴みやすい。

シフトレバーをドライブに入れ、パワーディスクと刻まれた大きなブレーキペダルを緩めると、滑るようにP76は発進した。タルガフローリオを掲げるスポーティな仕様でも、コーナーでは海に浮かぶヨットのようにボディが傾く。

急激な環境変化が惨敗を招いた

ボルグワーナー社製のオートマティックが、気づかないうちに次のギアを選ぶ。V8エンジンは、いかにもな唸りを発するものの、筆者がこれまで体験した同ユニットより静か。ロードノイズや風切り音も小さい。

確かにトルクは太い。だが、4.4Lもある排気量を考えると、動力性能は期待に届かない。0-97km/h加速は8.9秒と主張されていたが、それより遥かに遅く感じられる。


レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)

だが、オーストラリアの大地へ延々と伸びた高速道路を粛々と走るという目的に、P76は間違いなく合致している。ゆったりとした乗り心地は、メルボルンからシドニーまでドライブを楽しむ家族へ歓迎されたことだろう。

カーブが多く幅が狭いグレートブリテン島の道には、馴染めない。ラック&ピニオン式のステアリングレシオはスローではないが、トライアンフ2500のような精彩な操縦性は得ていない。グリップ力は充分でも、荒れた路面では落ち着きを保ちにくい。

とはいえ、P76が期待外れのフルサイズ・サルーンだったというわけではない。英国とオーストラリアの技術者が協力することで生み出された、実用的なファミリーカーだ。完成度とは直接関係のない、急激な環境変化が惨敗を招いたに過ぎない。

P76は、オーストラリアでの可能性を示そうとしていた。そのまま彼の地でレイランド・ブランドの終焉を迎えたことは、惜しまれるべき歴史の1つといっていいだろう。

レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)のスペック

現地価格:3865オーストラリアドル(新車時)/1万ポンド(約181万円)以下(現在)
販売台数:1万8007台(P76合計)
全長:4876mm
全幅:1910mm
全高:1394mm
最高速度:172km/h
0-97km/h加速:8.9秒
燃費:5.6km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1320kg
パワートレイン:V型8気筒4416cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:194ps/4250rpm
最大トルク:39.3kg-m/2500rpm
ギアボックス:3速オートマティック(後輪駆動)