RADWIMPS「大団円 feat.ZORN」というクレジットを目にしたときに、筆者と同様にまさかこんなコラボレーションが実現するとは、と思った人は少なくないだろう。

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いや、これまでRADWIMPS及び野田洋次郎、あるいは彼のソロプロジェクトであるillionとして、5lackやkZm、Awichと楽曲上で邂逅を果たしてきたことを考えると、ラッパーを迎えた新曲をリリースすること自体に驚きはないのだが、それがZORNとなると話は変わってくる。

ZORNは10代のころからMCバトルで名を上げ、2009年に初作品をリリース。2020年に自身のレーベル、「All My Homies」を設立すると、同年10月にリリースしたアルバム『新小岩』以降、一気に日本武道館公演を成功させ、昨年末にはさいたまスーパーアリーナで単独公演を開催しソールドアウトさせてみせた。リアリティではなく徹底的にリアルな生活と感情を、圧倒されるほどの固く踏まれるラップに焼き付けるリリシストであるZORNは、日本のヒップホップシーンの中でまさに孤高の存在感を放っている。

Jリーグの30周年を記念して制作されたこの「大団円」は、RADWIMPSのロックバンドとしてのダイナミズムが、シンボリックなメロディやギターフレーズ、プリミティブな響きを伴って蠢くようなリズムセクションとともに表出し、そこに威風堂々とした猛々しさに覆われたZORNのラップが濃密に絡み合っている。RADWIMPSはなぜこの曲にZORNを呼んだのか。そして、ZORNはどのように応え、両者はこの曲を完成させたのか。野田洋次郎とZORNによる正真正銘の初対談をここにお届けする。

RADWIMPS「大団円 feat.ZORN」

─近年、洋次郎くんが重ねているヒップホップシーンとの交流を鑑みれば、RADWIMPSの楽曲にラッパーの客演を招くこと自体に驚きは覚えないのですが、ZORNさんは完全に想定外でした。まずはこのコラボレーションが実現するまでの経緯から聞かせてもらえますか。

野田:Jリーグから30周年を記念した曲を作ってほしいというオファーを受けたのが1年半くらい前で。まずはどういう曲にしようという紆余曲折がすごくあってずっと作り続けていたんですね。何曲かデモを作って、ようやくこの曲でいけるかもと思ったのが、今の「大団円」の原型で。去年の8月くらいになって「RADWIMPSだけじゃない、もっと曲のエネルギーをブーストしてもらえるような力が必要だな」と思って。そこでZORNが真っ先に思い浮かびました。彼は昔から好きで曲は聴いていたんですけど、会ったこともなかったし、日本のヒップホップシーンの中でもかなり異質な存在じゃないですか。ツチノコ感があるというか。「本当にいるの?」みたいな。自分が知っているヒップホップシーンの人たちは枝分かれしていくような接点があったんだけど、ZORNはまったくなくて。だから「無理だよな」と思っていたんです。そこから数少ない接点である、お互いのMVを監督している映像作家のダッチ(山田健人)にも聞いてみて。そしたら、ダッチから「ZORNさん、スマホを捨てたらしいですよ」みたいな噂も入ってきて(笑)。余計に「ああ、もう無理だな。2023年に仙人みたいに生きてるんだったら」ってほぼあきらめてたんだけど、今年の1月くらいかな? アートディレクターのYOSHIROTTENと話してるときに Jリーグのクリエイティブディレクター務めている清永浩文さんとZORNが親交があるという話を聞いて。

山田健人監督 RADWIMPS「人間ごっこ」

山田健人監督 ZORN「In The Neighborhood」

─そこでやっと繋がった。

野田:そうなんです。時間的にも本当にギリギリでしたね。

─ZORNさんはダッチくんからRADWIMPSが一緒に曲を作りたいと思っているみたいな話は聞いてたんですか?

ZORN:いや、そんなちゃんと聞いたことはなくて。ダッチが「RADWIMPSの野田洋次郎さんとZORNさん、気が合うと思いますよ」みたいなことを言っていて。「なんでそんなこと言ってくるんだろう?」とは思ってたんですよ。

野田:そういうジャブを打ってくれてたんだ(笑)。

ZORN:それから、メッセージのやり取りはできるので、清永さんからメッセージが来て。娘に携帯を借りて清永さんに電話したんですよ。そしたら、「こういう話があって」という経緯を聞いて。驚きましたね。あと、素直にうれしかったですね。

野田洋次郎が思うZORNの魅力

─そのうれしさというのは、繋がるとは思っていなかったフィールドにいるアーティストに自分のラップが届いていたというニュアンスですか?

ZORN:野田さんはわりと近しいカルチャーにいる人であるということはなんとなくはわかっていたんです。だから、それよりも自分の話になりますけど、去年末にさいたまスーパーアリーナでワンマンライブをやって、ここからはヒップホップの外に出ていこうと思っていた矢先だったんですね。それで、今までしてこなかった挑戦もしてみたりして。たとえば「スッキリ」っていう朝のテレビ番組でラップさせてもらったりとか。「他にいろいろ何ができるかな?」と思っていたところに今回の話が来たので、驚きとうれしさ、あと直感的に「あ、これだ」って思ったというか。

─能動的にこれまで触ってこなかった扉を開いていこうというタイミングにはまったと。

ZORN:そうですね。これ以上ない話がいきなり来たという感じです。

野田:僕は僕で一緒に曲を作りたいとは思っていたけど、ZORNが自分の身一つでさいたまスーパーアリーナまでいって、たぶんいろんな声が周りから押し寄せている時期ということも理解していたから。自分もインディーズからのキャリアを重ねてきて、そういう時期を経験したし、何を取捨選択するか難しいタイミングだろうなって。だから、「本当にもしよければ」という気持ちではあったし。スマホを捨てたのも俺はすごく腑に落ちるところがあるし。

─洋次郎くんとしてはそれくらいいろんなノイズも入ってくる時期でもあることは想像に難くなかった。

野田:そうそう。普通の感覚を持っている人間の感性ではちょっと処理しきれない何かが起こるし、スマホのこともなるほどと思って。だから、余計に応えてくれたときはすげぇうれしかったです。

─あらためて、洋次郎くんが思うZORNさんとしてのラッパーとしての求心力──それは本当にいろんな角度から語れると思うんですけど。リアリティではなくリアルなドキュメンタリーとしてのリリシズムであり、ありえないほど固く踏む韻のスキルであり。どんなところに一番刺さってますか?

野田:たしかにZORNの魅力の切り口はものすごくたくさんあるけど、自分の中にあるカッコいい、カッコ悪いを判断するボタンのスイッチにおいてすごく共感できるというか。最初は「マジでエミネムみたいだな」って思って。俺が中学生のときにエミネムにハマって、歌詞を訳したりしていたときに感じた、スターになる葛藤や母親との確執がありながら自分にも家族がいて娘もいるみたいな状況も含めて、どうしようもない自分も曝け出す強さが異質だと思ったし、そういう異質な生々しさと強さがZORNにはあるなと思っていて。それプラス、ラップの高い技術や音楽に対する愛情を感じるところも魅力的なんだけど、それは音楽で飯を食う以上はあたりまえの話でもあって。それプラスアルファのものをすごく感じたんですよね。

ZORN:いやぁ、ありがとうございます。本当に今初めて今回どうして自分に声がかかったのかという理由を聞いてるので。照れくさい思いもありつつうれしいです。

─今、洋次郎くんからエミネムというワードが出ましたけど。

ZORN:僕も母親に訴えられそうになったことがあるので。「家庭の事情」という曲を出したときに「あんたのせいでもうママさんバレーにも行けないわ」って。

─バンドの曲に客演することはこれまでやはり想像してなかったですか?

ZORN:してなかったですね。

─でも、最初は中学生のときにミクスチャーバンドでラップしようとしていたとか。

ZORN:おっしゃる通りです。最初はそういう夢があって。バンドでラップするボーカルになりたいと思ってました。

野田:そういう世代だよね。

ZORN:そうですね。本当に流行っていたし。

─たとえばレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかだったり、海外のヘヴィロックやミクスチャーバンドを聴いたりしてたんですか?

ZORN:いや、日本のバンドでしたね。Dragon Ashとか、あとはRIZEがすごく好きでした。最初はバンドを聴いてラップに入って。

野田:ZORN世代はそういう人が多いよね。そこからヒップホップシーンの隆盛ととともにラップバトルとかも増えてラッパーになっていく人たち。ZORNと同世代や少し下の世代のラッパーから「実はRADWIMPSをめっちゃコピーしてました」って言われることもけっこうあって。沖縄のラッパーの唾奇も「初めてお金払って観に行ったライブがRADWIMPS」って言ってくれたりした。

─うれしい声ですね。

野田:うん。そういう言葉は長く音楽をやってきた一つのご褒美だなと思うし、自分が表現して残してきた音楽が小さなDNAとして違う人の音楽に入ってると思うと、壮大な実験をしているようで面白いとも思うというか、不思議な生殖体験をしているような感じもある。


Photo by Mitsuru Nishimura

Hair and Make-up by Asami Nemoto
Styling by Hayato Takada (1729agency)

シャツ \87,890、タンクトップ \25,190(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist. TEL:03-6805-1989)
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「大団円」の制作プロセス

─そう考えると、ZORNさんがRADWIMPSと一緒にライブハウスのステージに立ったこともより感慨深いとも思います。先日、RADWIMPSのライブハウスツアーの東京公演(Zepp Haneda)で「大団円」をパフォーマンスしましたが、ZORNさんはどんな感触がありましたか?

ZORN:最初に思ったのはお客さんのノリが違うなと。今回の曲はRADWIMPSがロックで、自分がヒップホップという発想はあまりなくて、RADWIMPSはRADWIMPSだし、ZORNはZORNだと思うし、ジャンルがどうこうという発想はないんだけど、お客さんの盛り上がり方の違いを見たときに「これはロックとヒップホップの違いだな」とは思いました。

─ビートへの反応だったり、踊り方にしてもオーディエンスの様相はかなり異なりますよね。

ZORN:全然違いますよね。でも、RADWIMPSのお客さんはすごくウェルカムなヴァイブスで迎えてもくれたからありがたかったです。あれくらいの規模のライブハウスで今のRADWIMPSがやることも珍しいことでしょうし。

─洋次郎くんはそれこそフロアの様相がライブハウスで見るような光景と、クラブで見るような光景がもっとクロスオーバーしていったら面白いんじゃないかと常々思っていると思うんですけど。

野田:うん、そういう気持ちはすごくあるし、今回の曲はヒップホップ畑の人たちからもザワザワされていると感じるから。「マジでZORNとやったんだ」みたいな。空気が変わっていく気配を感じるし、ここから何が起こっていくのか俺自身もすごく楽しみで。

─最近のコラボ曲の字面のインパクトで言えば、RADWIMPS「大団円 feat.ZORN」とOZROSAURUS「Players Player feat. KREVA」が双璧を成すと思っていて。

野田:時期も近いし。

─しかもOZROSAURUSのMACCHO氏とKREVA氏を繋げたのはZORNさんであることは想像に固くなくて。

ZORN:まぁ、そこはご想像にお任せします。

─わかりました(笑)。最初にZORNさんが洋次郎くんから「大団円」のデモをもらったときはどう受け止めましたか?

ZORN:「あ、RADWIMPSだ」と思って。「この声だ! 僕がここに入ってもいいのかな?」って思いました。野田さんの声がきれいなんで。

野田:俺としてはZORNにラップを入れてもらう場所も決まっている状態でデモを渡して、「絶対かっけぇラップを乗せてくるだろうな」って想像していたから。まだ聴いてないZORNのラップを勝手に想像する時間があって。でも、最初にデモを戻してくれたときからやっぱりその想像をはるかに超えたラップを入れてくれていたので。もう本当に、うれションみたいな(笑)。音楽をやっていてああいう瞬間を超える喜びはないですよね。

─洋次郎くんは歌詞を書くにあたって、吉田麻也選手にインタビューしたということですが、それ自体が珍しいことですよね?

野田:あまりないですね。僕は生粋のサッカーオタクではないから、もらえる情報はなんでも欲しかったんですよね。サッカーの知識や観戦歴は一般レベルだけど、選手たちがあそこまでの情熱を傾ける精神性について知りたいと思ったし、血肉が通った生の声を聞きたいと思ったんです。それで、ドイツにいる吉田麻也選手にメールインタビューをさせてもらって。とにかくメンタルについて訊きました。「自分の支えになっているものは何ですか? 家族はどんな存在ですか?」とか、試合前に行うルーティンとか、気持ちの整え方とか。あとは、「どんな試合が一番悔しかったですか? その悔しさを乗り越えられるのはどんな瞬間ですか?」とか。選手の心がどうやって動くのかを知りたかった。吉田選手もすごく丁寧に答えてくれて。先日、帰国されていたタイミングでようやくお会いできてお礼を言えてよかったなって。

─洋次郎くんとZORNさんの曲のやり取りは何往復かしたんですか?

ZORN:何パターンも作りましたね。同じヴァースでも違うテンションでやってみてほしいと言われて挑戦したり。「やっぱり元のバージョンでいこう」ってなったり。後半部分も何パターンか作って送って。

─最後の掛け合いも?

ZORN:そうですね。あそこも4つくらい作って、2つに削ったり。

野田:時間がないけどいつまでもやっていたかったというか。

ZORN:けっこう極限状態でしたよ。いいですか? この話をしても。

野田:いいよ、いいよ。

ZORN:レコーディングも終わってミックスが上がった日に、野田さんから新しいトラックが送られてきて。「イチからやり直さない?」みたいな。そのときに「ああ、この人はヤバい人だ」と思って。

─それはかなりクリエイティブジャンキーなエピソードですね(笑)。

ZORN:それがこの制作のエピソードで一番強烈でしたね。

野田:バカになっちゃってたから(笑)。未だにあのトラックも気に入ってるけどね。

ZORN:そのトラックもすごくいいんですよね。

野田:俺がそのゾーンに入ってしまうと誰も手を付けられないみたいなことがたまにあって。1年かけて作ってきた曲が本当にいよいよ完成を迎えるとなると、ちょっと恐怖心も生まれて。その最たる例として直前で新しくビートを作ったという(苦笑)。でも、そこでZORNが我に返らせてくれて。「これで曲は完成してますよ」って。

ZORN:完全に仕上がってるし、熱量という点においてはきっとこれを上回れない。新しいトラックはビートも神秘的な印象のもので。もし、そっちで制作を進めて後から「大団円」のビートが来たら、「いや、こっちにしましょう」ってなっていたと思います。国立競技場で歌っている自分がどういう熱量でいるかとか、そういうことも想像しながら制作していたので。だから、「野田さん、これはもう完成してますよ」って言って。

野田:うん、我に返ることができた。

ZORN:そんなことを言ってくる人はこれまでもいなかったし、きっとこのあとにもいないので。「この人は只者じゃないな」ということは理解しました。

─でも、ZORNさんの作品を聴いても何度も推敲した果てに曲を完成させていることは間違いないと思うから、洋次郎くんのその「まだまだいける」という感情の発露は理解できるんだろうなと思うんです。

ZORN:そうですね。時間が許す限り「もっとよくしよう」という気持ちは絶対持つべきで。でも、新しいビートを送ってくるのはその領域じゃないなと。

野田:新海誠と仕事をして余計にそのあたりのネジが外れてしまった感じはあるかも。あの人も98%「これでいきましょう」と進んでいることを違う方向からひっくり返したりするから。でも、ZORNの言葉で我に返って、この曲の鉄壁さを確認したときに、だいぶ遠回りしたけど「あ、ちゃんとやり切れたんだな」と思えたから。


Photo by Mitsuru Nishimura

Hair and Make-up by Taro Yoshida
Styling by Akio Hasegawa

2-Pack Reversible Tee、Heavy Weight Jersey Gym Shorts、3-Pack Socks (CAHLUMN)
Necklace and Rings(Chrome Hearts)

「ここは絶対に譲れない」という瞬間をめがけて作った

─Zepp Hanedaにおける洋次郎くんのMCで印象的だったのは、自分はもともと勝利に対して貪欲な人間ではない、でも、自尊心や矜持、大切な人を守るためには勝たなきゃいけないこともあるということをこの曲のメッセージとして込めたという趣旨の言葉で。

野田:そうですね。音楽の世界では「これで完成だ」と自分が思えば完成だし、それは揺らがないと思っていて。だから俺は音楽の世界で生きることができてよかったなと思うんだけど、でも、吉田選手のメールインタビューの返信を読んだときにサッカーの世界は本当に勝つことがすべてなんですよね。悔しさを上書きできるのは勝利だけで。その潔さとある種の残酷さがある世界で生きてる人たちの強さにはリスペクト以外ないし、「ここは絶対に譲れない」という瞬間は生きていてもあるし、その瞬間を目がけて作りました。

ZORN:僕は野田さんの歌詞を何回も読んで自分なりに解釈して自分のリリックに取り掛かったので、とにかく決して邪魔をせず、自分がいる役割を果たしつつ一つの曲ができたらいなと思って。その役割というのは、「ぶちかます」の一択でしたね。

─ZORNさんは勝つということに対してはラッパーとしてマイクを持ってからずっと意識し続けてきた人なのかなと思うんですね。あるいはそれは「ひっくり返す」という言葉に置き換えてもいいかもしれないけれど。

ZORN:そうですね。それってヒップホップの根本的なテーマでもあるし、野田さんが書いた曲を聴いて思ったのが「あ、これは負けたことがある人の歌詞だな」ということで。

─それはすごく思いました。負けを知ってる人の歌でもありますよね。

ZORN:そう。そのストーリーであり、ドラマだなと。だからこそ、ヒップホップ的にはすごく地でいけるというか。そこからどうひっくり返していくかという話だと思ったから。これってきっとサッカーやスポーツに限らず勉強に向かう人でもいいし、仕事に励む人でもいいし、生活レベルでの挑戦が各々にあるはずなので。何かの本番に向かう前に聴いて、自分を鼓舞して「勝つしかねぇ」という気持ちでいける熱量を込められたらなと思って書きましたね。

─ZORNさんが歩んできた足跡をこの曲のリリックからもはっきり感じ取れる。

ZORN:それが反映されていないとラップを入れる意味もないと思うので。「これは歌い手本人の人生のことなんだろうな」というある種のダイレクトさやストレートさを出すのはラップだからこそ出せる部分でもあると思うので。

─それこそ、ZORNさんはパンデミックが始まった2020年に自主レーベル「All My Homies」を設立して、アルバム『新小岩』をリリースしてからものすごいスピードで状況をひっくり返してきたわけで。パンパンの武道館に立って、その翌日の朝から現場仕事に行くなんてマジで誰も成し遂げたことがないわけで。

ZORN:ありがとうございます。

野田:一番カッコいいよね。

─それができると、きっと誰よりもZORNさん自身が一番自分を信じていた結果でもあると思いますし。

ZORN:そうですね。本当にもしかしたらこの曲の歌詞の主人公通りでもあるというか。でも、まだまだ自分はだいそれたところまで来てるとは思えなくて。ヒップホップでラッパーだから、さいたまスーパーアリーナでワンマンをやるのはすごいってなるけど、一歩外に出ればいろんなジャンルの人があたりまえのようにやってることだし、まだまだだなとしか思えない。でも、自分の今の悩みや葛藤もめちゃめちゃ贅沢だということもわかってるので。それもありがたく曲にしたいと思っていて。だからこそ、こういうチャンスは余計にありがたくて。今回の話をいただいたときに純度の高いヒップホップのまま、純度の高いラッパーのままもっと表に出ていけるチャンスでもあるなって思いました。リリックの内容を制限されるわけでもなく、最大限に尊重してもらいながら制作できたし、対等にバチバチやり合えてる曲だと思いますね。

野田:表現するにおいて、2種類に分かれると思うんですよね。「俺はもうこんなにいろんなものを手にしたぜ」って思うか、「俺はまだあれができてない、あんなにすげぇやつがいる」って思うか。俺も、自分が手にしたものはちゃんと誇りとして持ちながら、でも自分がまだ叶えられてないことがあるのを一番知ってるから。

─だから、曲が完成しても新しいトラックを作るし、パブリックイメージとしては常勝してるバンドだと思われてるかもしれないけど、おそらく洋次郎くんだけが知っている敗北の味もあるだろうし。

野田:そうそう、もちろん。それは音楽的にも、状況としても。今年回っているワールドツアーの全会場がソールドアウトしてるって言われても、それはマックス5千〜6千キャパで。「じゃあ次はアリーナでやりたい」という欲はつねに生まれるし、音楽としてもシンプルにもっともっとできることがあると思えるし、それを探求したい。ZORNとはそういう部分の波長もちゃんと共鳴できるから。「これだけ手にしてるけど、じゃあそれを武器に次は何をする?」という話をしたいと思える人なんですよね。

─あらためて、洋次郎くんが今後のZORNさんにどんなことを期待してますか?

野田:もう、期待しかない。さっき言っていた、ヒップホップとしての純度を薄めずにこの先、どんな音楽をやっていくのか。それはけっこうな難易度のあることをやっていく未来だとも思う。それに伴う苦しさもあるかもしれないけど、でも、きっと一番楽しいはずで。先輩面した言い方になるのは嫌ですけど、まったく未知のことだから楽しみだし、俺もその都度影響を受けたいと思ってます。また何かのタイミングで一緒にやりたいと思うし。

─今度はZORNさんの曲に洋次郎くんが呼ばれることもあるかもしれない。

ZORN:いいんですか?

野田:緊張するわぁ。

─ZORNさんは洋次郎くんの言葉を受けてどうですか?

ZORN:うれしいですよ。うれしいし、声をかけてもらった以上、しっかり応えなきゃいけないと思いますし、責任感もあります。いつか自分に野田さんを呼びたいと思う曲ができたときは、声をかけたいですね。野田さんを見ているととにかく学びが多いので。まだ底が見えない感じもあるので、引き続き調査を続けたいと思います。あと、個人的には一番上の中3の娘のスマホから「大団円」が流れてきて。

野田:すげぇうれしい。

ZORN:娘に誇れる仕事。それが一番なんで。本当にありがとうございます。

野田:とんでもないです。こちらこそです。

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「大団円 feat.ZORN」
RADWIMPS
配信中
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