この記事をまとめると

■いま残価設定ローンを利用して新車を購入する人が多い

■残価設定ローンにはメリット・デメリットが存在

■残価設定ローンを利用して5台のクルマを乗り継いだ筆者がその経験を語る

日本でも一般的になった「残価設定ローン」

 販売現場で聞く限りは、いまや新車購入において残価設定ローンを利用して購入する人が圧倒的に多いとのこと。世界的にはだいぶ前からローンやリースを利用してマイカーを持つというのが主流となっている。“総額400万円の買い物をする”ではなく、“月々いくらまでで乗ることができるクルマを買う”という、光熱費などと同じような生活費の一部のようなノリで新車購入(あるいはリースを利用する)するという感覚は、欧米先進国だけではなく、新興国でも広く一般的なものとなっているようである。もちろん、そのような国々でも現金一括払いで末長く乗り続けるという人もいる。ただアメリカでは原則的に資金洗浄などの犯罪を防ぐために純粋な現金払いは原則できないことになっており、小切手をきるか、ローンやリースでしか新車を手にすることはできないと聞いている。

 またアメリカでは“借金も財産”とか、“借金できることでその人のステイタスがわかる”といった状況もあるようだ。あるアメリカ在住の日本人がアメリカ在住中にはクレジットカードはもちろん、新車もローンで購入し、そこそのキャリア(ローン利用履歴)を持っていたのだが、数年間日本で仕事をして戻ってくると、その数年の間、アメリカ国内でのクレジットやローンの利用履歴がないとのことで、再びアメリカ国内で新車を購入する時に希望していた融資条件(金利や融資額)どおりに審査が通らずに苦労したという話を聞いたことがある(アメリカではオートローンも、個人によって融資額や金利が変動するとのこと)。

 日本でも諸外国のように、月々のローン支払い額やリース料金を生活費の一部として考え、自分の許容する範囲の支払額で乗り続けることができるかを、新車購入の判断材料とする買い方が認知されてきたともいえよう。

 残価設定ローンにおける残価とは、そのクルマの3年先や5年先の残価、つまり再販価値とはイコールではない。残価と一般的に呼ばれるものはたとえば5年60回払いの場合には、60回目、つまり支払最終回分の金額としてファイナンス会社の設定した残価率などをベースに算出した、残価相当据置額となる。もちろん、中古車相場などをベースに当該車の予想残存価値を意識したものなのだが、実際は多くのモデルについて実際の中古車市場での予想できる再販価値より低めとなるような残価率が設定されている。

 あるメーカーでは、突出して人気の高いモデル以外では5年払いでの残価率はおおむね35%前後となっている。さらにこのメーカーでは前後5%、つまり30%もしくは40%といった残価率も任意に選択することが可能となっている。つまり、残価設定ローンにおける残価率や残価相当額は必ずしもそのクルマの予想再販価値とは一致していないものであり、実際の相場予想よりは低めに設定されるのが一般的である。

 日系ブランドのほとんどでは残価については保証型として、月間走行距離や内外装の傷や汚れによる減点が一定以上にならない限り、新たな支払いが発生しない。一方輸入車はオープンエンドといって、最終的に査定して残価を最終的に決めるものになっていることが多い。これは、とくにドイツ系プレミアムブランドでは、ファイナンス会社が設定する残価率により算出した残価よりもかなりの割合(店頭では絶対的という表現も使う)で、完済時点での査定が設定残価を上まわる金額になるためだとも、店頭で説明を受けたことがある。

 また、残価設定ローンの場合完済せずに、支払い途中で次の新車に乗り換えるのも一般的となっているようだ。

 たとえばメーカーウェブサイト上にてホンダN-BOXカスタム(FF)にフロアマット、サイドバイザーなどのベースキット、約23万円のカーナビ、ETC2.0、前後ドライブレコーダーを選択して試算すると226万9790円となった。これをさらに頭金なしのフルローンで3年払いのホンダでいうところの残クレ(残価設定ローン/月間走行距離1500km)で試算してみると、月々5万400円×34回となった。ちなみに残クレではホンダの新車への乗り換えと車両返却では、残価相当額を据え置いた支払最終回については当該車両返却で相殺となり、乗り続ける場合のみ67万6820円を払うこととなっている。計算してみるとN-BOXの3年後の残価率は残クレ上では約39%となった。これを5年プランで組むと月々の支払いは3万5500円×58回となり、残クレ上の5年後の残価率は約25%となっている。

メーカーやディーラーが残価設定ローンに積極的な理由とは?

 ただし、ホンダディーラーで聞く限りは「実際の再販価値はこれよりかなり高い」と異口同音に話してくれる。日本一売れている新車であるし、すでにN-BOXユーザーの間では残クレを組んで短期間でN-BOXからN-BOXへ乗り継ぐ人も多いとのことである。

 実際より低めの残価率でローン計算しているので、よほどの不人気車でない限りは初回車検前後で採算分岐点がやってくる。つまり、採算分岐点で下取り査定を行い算出された査定額で残債を相殺することができるのである。前述したN-BOXの試算で行くと、仮に初回車検のタイミングで採算分岐点がきたとすると、本来は36回払いで組むと月々5万400円払う必要のあるところを、3万5500円で3年間払い続けただけで次の新車に乗り換えることも可能なのである。

 筆者もすでに残価設定ローンを利用して15年ほどで5台新車を乗り継いでいるが、いずれも5年払いで組んで、初回車検前後で乗り換えている。筆者は諸費用分プラスアルファ程度の頭金を入れるのだが、最近はフルローンで組む人も増えているとのことで、店頭でも「フルローンで組むのがお得ですよ」などと勧めてくるセールスマンもいる。

 残価設定ローンをけっして万能だとか、絶対おすすめと言うつもりはない。車両価格の40%近くを支払い最終回分として据え置くわけだから、支払いが進んでも残債はなかなか減ってくれない。残価設定ローンでは再ローンを組んでさらに乗り続けることができるケースもあるが、たとえば3代目アルファードでは5年後でも残価率が50%を超えてしまい、売れ筋モデルでは残価相当据置額が240万円になるケースも目立っていた。しかし再ローンは2年払いしか組めないので、割賦元金を単純に24回で割っても10万円、つまり月々10万円払わなければならず、「現実的に再ローンという選択は厳しい」という声も大きい。

 中古車市場で人気が高いために残価率が高くなるだけでなく、当該車の市場価値を上げるために意図的に残価率を上げているケースもある。こうなると、前述してきたような支払い途中での乗り換えはほぼ不可能となり、当該車もしくは当該メーカー車を乗り継がざるを得ない状況になってしまう。残価率が高いほど残価設定ローンを利用する魅力が増すどころかリスクが高まっていくので、ほどほどの残価率がいいとされている。

 メーカーやディーラーが積極的に残価設定ローンを勧めるのは、もちろん新車販売促進と、短期間で乗り換えてもらいたいというところが大きい。ただ、そのほかに中古車市場への安定した車両の供給がある。残価設定ローンには、月間走行距離や内外装の傷や汚損などによる減点範囲が決められ、これを超えると追加でお金をとられることがある。現場のセールスマンは追加が発生するなどのトラブルを防ぐ意味からも、走行距離が過走行気味になる人などへは、あくまで購入者が希望しなければ勧めないようにしているとも聞いている。

 つまり、一定の基準をクリアした車両をどれくらいのタイミングでどの程度中古車として供給できるのか、残価設定ローンでの販売が増えればそれがある程度読めるようになるのである(安定供給できれば結果的に残価率の安定にもつながる)。とくに新車ディーラーでは新車販売ではほとんど利益は出ないとさえいわれてる。アフターメンテナンスもBEV(バッテリー電気自動車)が増えれば頭打ちになるのは目に見えている。そこでいま注目しているのが中古車販売なのである。もちろん、新車販売でも残価設定ローンで売ることができ、ある程度より確かに新車販売台数の先読みもできるのである。

 残価設定ローンは自動車ユーザーが多様化するなかで生まれ普及してきたものであり、新車に乗るためのひとつの選択肢にすぎない。1台のクルマを長い間大切に乗り続けたいと言ったカーライフの人には必要のないものなのは当然の話。ただ、実際の損得は別としても筆者は15年間ほどで5台乗り継いできたが、現金払いであったらこのようなペースで乗り継ぐことはまずできなかっただろう。