カミソリ市場の混乱は、D2Cブームが絶頂期を迎えるきっかけとなった。ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)やハリーズ(Harry’s)のようなブランドが、D2CのプレイブックとなったFacebookやインスタグラム広告を通じて、人々にカミソリの好みを再考するよう促したからだ。

そうしたなか、カミソリの老舗ブランドであるビック(Bic)は、新しいカミソリ「イージーリンズ(EasyRinse)」を前面に押し出して新たなユーザーを取り込もうとしている。

リニアTVからデジタルとソーシャルへ



ビックブレイドエクセレンス(Bic Blade Excellence)のマーケティングディレクターであるケイティ・ポトッキ氏は、「イージーリンズは、過去40年以上で最大のイノベーションだ」と述べ、「このイノベーションは、カミソリの目詰まりとそれが引き起こす煩わしさに対する消費者のインサイトから生まれた」と話す。また、「(広告)キャンペーンには、5年以上にわたって最大の投資を行っている。これは社として大きな優先事項だ」と付け加えた。

新しいカミソリを売り込むために、同社はデジタル、ソーシャル、インフルエンサーマーケティングにメディア支出を集中させ、コメディアンのエリック・アンドレ、女優のアニー・マーフィー、さらに最近ではTVの恋愛リアリティ番組「ヴァンダーパンプ・ルールズ(Vanderpump Rules)」に出演しているアリアナ・マディックスなどの有名人を起用したキャンペーンを展開している。

とくにアリアナ・マディックスとのパートナーシップでは、「目詰まりがない」という新しいカミソリの製品メリットを、番組内で起きた恋人の浮気によるマディックスの最近の破局に、「(人生の行き)詰まりを取り除く」というユーモアを使って結びつけた。有料TVサービスのブラボー(Bravo)で放送されたヴァンダーパンプ・ルールズのシーズンフィナーレの際に30秒のスポットCMを流したことを除けば、ビックはリニアTVへの支出を行っていない。

https://youtu.be/fBgry_FgDeo

「デジタルとソーシャルは消費者が存在する場所であり、我々は従来型TVのような伝統的なチャネルからデジタル、ソーシャル、インフルエンサーへと大きくシフトしている」とポトッキ氏は述べる。

ポトッキ氏は細かな予算の配分を明かさなかったため、ビックがこの取り組みにいくら費やしているかは不明だ。パスマティック(Pathmatics)からの有料ソーシャルデータを含むビビックス(Vivvix)のデータによると、ビックは2022年に、カミソリのメディア広告に87万633ドル(約1億2100万円)を費やしているという。この額は2021年の64万867ドル(約8900万円)から増加している。

テクノロジーでリードすることが新しい消費者を呼ぶ



ブランドコンサルタント会社プロフェット(Prophet)のシニアパートナーで、マーケティングとセールスの共同責任者を務めるマット・ザッカー氏は、スキャンダルの渦中にあるリアリティ番組のスターと仕事をするなど、文化的な瞬間を通じてブランドとの関連性を持たせる方法を見出すことは、ブランドにとって危険ではあるが論理的な行動だという。

ザッカー氏はこの戦略について、「ハイリスクで見返りはわからない。カルチャーに便乗することで、見返りがないこともあれば、大きな見返りがあることもあり、またその中間もあり得る」と話す。

ビックはすでに、感情やソーシャルリスニングという点でかなりの結果を出しているという。ポトッキ氏によると、売上の増加も見られるようだ。ブランドとして再び文化的瞬間に頼るつもりがあるかどうかは、ブランドとの適合性やターゲットとなる消費者がいるかどうかによるだろう。

「前へ進むために、ビックは新しい消費者をビックのフランチャイズに引き込むことに焦点を合わせている」とポトッキ氏は言う。「歴史的に見て、我々が新テクノロジーをリードしたことはない。我々は素早く追随する立場だった。我々がテクノロジーでリードするのは今回が初めてだ」。

[原文:Bic puts its ‘largest investment’ in over 5 years to pitching its new razor with influencers like Ariana Madix]

Kristina Monllos(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)