恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶【Q】はこちら:33歳港区女子がデート相手に選んだ、高円寺在住の8歳も年下の男。最初は軽い気持ちだったのに…




Episode05【A】:伊藤祐輝、25歳。
僕は、“あえて”高円寺に住んでいる。


「え…おいしい」

荻窪にある、寿司店のカウンターで、高松早苗が目を丸くしている。

彼女とは3週間前にマッチングアプリで出会った、8歳年上の女性だ。

「おいしいですよね。僕、ここに毎週来てるんです。でもキャビアが出てきたのは、初めてだ」

「そうなの?なんだかごめんね」

早苗は、まるでキャビアが自分のために用意されたものだというような喜び方をした。

だけど、僕はこの店のSNSを見ているので知っている。キャビアは、大将のフランス人の友達がお土産でくれたものだと。

たしかに僕は、年上の女性に憧れている。

学生時代から年下とばかり付き合ってきたので、次の彼女は、自分より年上でもいいかもと思っているのは本当だ。

だけど早苗は、僕の理想とはかけ離れていた。




僕がファミレスを好きな理由


僕の父親は、都内にいくつものビルを持っていて、最近は若い経営者たちと楽しそうに仕事をしている。

いわゆるエンジェル投資家で、資産家でもある。

母親は、京都出身で実家は老舗呉服店。毎朝昆布と鰹節で出汁をとって味噌汁を作るような人で、「味のわかる大人になってほしい」が口癖だった。

だから、僕はファーストフードやファミレスに連れて行ってもらったことがない。

だから、大人になった今、田園調布の実家を出て、あえて高円寺に一人暮らししている。

いろんな国籍の人が働くスナックや、ビールケースを椅子代わりにする焼鳥店。そういうのが新鮮で面白い。

ずっと住みたいか?と言われたらそうでもないのだが、25歳の今だけ住むならアリだと思う。

『祐輝:おうち、白金高輪なんですね。麻布十番も近いし、サイゼもあるし最高だ!』

『早苗:まぁ、たしかにあるけど 笑』

『祐輝:うちは高円寺なんだけど、サイゼリアがあるからそこにしたんです』

好奇心で始めたマッチングアプリ。

そこで出会った早苗にそれを言ったら、案の定馬鹿にされたが、理解してほしいわけじゃないので構わない。

アプリでは他の女の子にも会ったが、年下は精神年齢が低すぎる。実家の話をすると目をキラキラさせるので、正直怖かった。




だから、年上で、かつ見た目が派手すぎない人を選んだのだ。

『祐輝:早苗さんって、何時に仕事おわります?』
『早苗:ある程度調整はできるけど、早くて18時半かな』
『祐輝:じゃあ、20時集合なら余裕ですね^^』
『早苗:うん。大丈夫だと思うけど』

会ってみて、お互いに成長できそうな人ならば、付き合いたい。

いろんな子と遊ぶより、1人と真剣に向き合う恋愛の方が、いろいろ学べるからだ。

早苗は白金高輪に住んでいる。だけど僕は港区をよく知らない。これは本当だ。

『祐輝:早苗さんちの近くがいいですよね…僕、港区とか全然わからなくて』

『早苗:じゃあ、私がお店選ぶよ』

『祐輝:ありがとうございます!』

素直にそう告げたら、早苗はお店を決めてくれると言ってくれたので、ここは年上の彼女に甘えることにした。




早苗が予約してくれたのは、八芳園内にある『スラッシュカフェ』。

「早苗さんって、今までどんな方とお付き合いされてきたんですか?」

僕は、注文したビールを半分くらい飲んだところで聞いた。

「どんな、って…う〜ん…そんなに付き合った人数多くないけど、みんな年上だったよ」

「そっか。じゃあ年下は恋愛対象外?」

33歳という年齢だったら、恋愛をすっ飛ばして、結婚したいなんて考えの人もいるかもしれない。

「そういうわけじゃないよ!年下でもしっかりしている人はいるし、実際の年齢というよりは、精神年齢が大事かな」

でも早苗は、ちゃんと恋愛期間も楽しみたい女性のようなので安心した。

「よかった〜。僕は、年下の子としか付き合ったことないんですよ。昔はそれでよかったし、こっちがいろいろしてあげるのが楽しくて」

「うんうん」

やっぱり年下の女の子より落ち着いているし、テンションが高すぎなくて疲れない。

「でもなんかそれにも疲れちゃったんですよね。次付き合うなら、お姉さんがいいなぁって」

八芳園という静かな場所のおかげもあるのか、僕は早苗に興味を持ち始めていた。

帰り道、僕は彼女を次のデートに誘った。




「早苗さん、荻窪に友達がオープンした店があって、今度そこ行きませんか?」

ニューヨークに短期留学していた時、現地の和食店に毎日のように通っていたら、シェフと仲良くなった。

その彼が独立し、荻窪にお寿司屋さんをオープンしたというので、一緒に行きたかったのだ。

彼は人を見る目があるので、早苗のことをどう思うかを判断してほしいという企みもある。

「荻窪かぁ〜。ちょっと遠いなぁ」

しかし、早苗は難色を示した。

「あ、そうですよね。じゃあお迎えに行きますよ」

早苗と会う前日に実家に泊まれば、自分の車で彼女を迎えに行ける。でも、早苗は「うん」と言ってくれなかった。

『祐輝:今日はありがとうございました!さっき話した店、早苗さんを連れて行きたいので、また空いてる日教えてください』

僕は改めて、LINEで彼女を誘った。

『早苗:うん、また連絡するね。今日はありがとう!』

このまま、早苗との連絡は途切れた。

『祐輝:(チラ見するネコのスタンプ)』

忘れているだけかもしれないと思い、スタンプを送ってみたが、それでも反応はない。

返信が来たのは、それから3日後のことだ。

『早苗:ちょっとバタバタしてて、連絡遅くなってごめんね。前に言ってたお店行きたいな』

正直、驚いた。

こういうタイプの人間には、今まで会ったことがなかったからだ。

これも、人生勉強。いや、それよりも早苗がどんな人間なのか好奇心が湧き、僕は仏の心を持って会うことに決めた。




今、僕が彼女に感謝していることは、ひとつしかない。

大将の友達が持ってきてくれた極上のキャビアを、タイミングよく食べられたことだ。

お寿司屋さんで食事を終えた後、早苗は予想通り、僕に好意を示してきた。

「祐輝くん、またすぐ会いたいんだけど…忙しい?」

「あー、じゃあ予定見て、また連絡しますね」
「うん!待ってる」

もちろん連絡はしない。

理由もわからず、連絡が来ないことの気持ち悪さを、彼女も経験すればいいのだ。

「あの子はやめたほうがいいかもね」

店に戻ると、大将が僕に言った。

「やっぱりそう思います?」

「祐輝くんが電話をしに外に行った時、彼女なんて言ったと思う?“祐輝くんってホントはお金持ちですか?”って」

「それで、何て答えたんです?」

「そうだよ。めちゃくちゃ持ってるよ〜って」

僕と大将は、大笑いした。

ちなみに、この大将のお店も家賃はかかっていない。彼のおばあちゃんが、もともとここで洋服店を営んでいたからだ。

「やっぱり今は、彼女作らなくていいや」

僕がつぶやくと、大将は静かにうなずいた。


マッチングアプリ攻略の道?
インスタントな出会いは、気持ちが冷めるのも早い。いいなと思ったら年齢関係なく大事にすべし。



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