デルテクノロジーズ(以下、デル)の「Latitude 9440 2-in-1」は、2023年4月13日から受注を開始した14型ディスプレイを搭載した2-in-1 PCだ。デルでは多数のノートPCラインアップを擁しているが、Latitudeはその中で大規模事業所への導入を想定したハイクラスビジネスノートPCのレンジを担う。そして、Latitude 9440 2-in-1は(これまた)多数あるLatitudeブランドにおける最上位モデルとなる。

Latitudeブランドの最上位モデルとなるLatitude 9440 2-in-1

本体のカラーリングでは落ち着いたマットな雰囲気のグラファイトを施した

なお、LatitudeブランドのノートPCシリーズでは多くの場合に2-in-1 PCモデルを用意しているが、“9440”だけは2023年6月時点においても2-in-1 PCのみが存在する(クラムシェルモデルは存在しない)。

Latitude 9440 2-in-1の本体サイズは幅310.5×奥行き215.0×厚さ14.92〜16.28mm、重さは最小構成で1.53kgとされている。2023年6月の時点における14型ディスプレイ搭載ノートPCとしてはやや重めのモデルといえる。とはいえ、1.5kgならばモバイルノートPCとしては十分“アリ”といっていいだろう。

評価機材本体の重さは実測で1.51kgだった

ただし、クラムシェルスタイルならまだしも、スレートスタイルにしてタブレットとして使うことを考えるならば、それはやっぱり「重たいデバイス」となる。実際、評価期間中にタブレットのように使ってみようと通勤電車で挑んでみたが、十数分で早々にしんどくなる。これは、Latitude 9440 2-in-1に限らず、本体サイズ1kgを超える2-in-1 PC全てに思う私の“感想”だが、やはりこの種の2-in-1 PCにおけるタブレットモードは「立ったままでPCを使わざるを得ない状況における緊急避難的用法」という認識が必要だろう。

フリップタイプ2-in-1 PCで訴求される形態その2「スタンド」

フリップタイプ2-in-1 PCで訴求される形態その3「テント」

フリップタイプ2-in-1 PCで訴求される形態その4「タブレット」

ただ、だからといって1kg超えの2-in-1 PCは無意味かというとそうではない。2-in-1 PCでよく訴求される「4つの使用形態」のうち、“テントのように置く利用形態”は、設置面積を最小限にしつつ、タッチ操作によってPCも利用できるという「依然として乱雑な書類で机上がいっぱいになりがちなオフィス」でなにげに利用頻度が高い。机上面積が限られているカフェのテーブルでも、コーヒーカップだけでなくフードを載せた皿とも共存できたりする。

タブレット同じように使うことは難しいが、机が用意できる限りにおいてわずかな空きスペースがあれば使うところを選ばない。その意味においてLatitude 9440 2-in-1はモバイル利用に適したノートPCということができるだろう。

大規模向けノートPCの最上位モデルということもあって、Latitude 9440 2-in-1では、多くの最新機構を導入している。その中でも特徴的なのが、ゼロラティスキーボードとハプティックコラボレーションタッチパッドだ。

キーボードのピッチは横方向19.05×縦方向18.05mm。タッチパッドサイズも130.3×72.3mmと広めに確保している

ゼロラティスキーボードとは、これまでノートPCで主流となっていた1つ1つのキートップが間隔を置いて配置されていたアイソレーションキーボードとは異なり、それぞれのキートップを隙間なく配置している(ゼロ・ラティス:枠を廃した)。

というと、年長のPCユーザーからは「それってアイソレーションキーボードが流行る前にあったノートPCの一般的なキーボードのレイアウトですよね」と思うかもしれない。ただ、ゼロラティスキーボードでは隣接するキートップそれぞれが文字通りほぼ隙間なくならんでおり、そのおかげで、キートップの幅、そして奥行きで十分なサイズを確保している。

ゼロラティスキーボードは2022年3月に登場したXPS 13 Plusで初めて採用されたが、Latitudeブランドとしては今回が初めてとなる。実測のキーピッチは約19mmで、キートップサイズは約18mmだった。多くのノートPCでキーピッチが19mmの場合、キートップサイズは16.5〜17mmなので、確かにキートップサイズは他と比べて十分にある。タイプするとその感触は軽く、キーストロークも浅めだ。

このように記述すると「ああ、タイプした手ごたえがあまりないキーボードなのかな?」と思うかもしれないが、押し込んだ指の力をしっかり受け止めてくれるので不安を感じることはない。

隙間なく並んだキートップ。タイプした感触はやや浅めで軽い

タッチパッドで導入した「ハプティック」とは、タップした時のクリック感触を機械的に再現する仕組みだ。こちらも、デルのノートPCではXPS 13 Plusで先んじて取り入れており、Latitudeブランドでは初めての採用となる。

ぱっと見てみると、パームレスト中央に設けたタッチパッドとして認識する領域に段差を設けられているため、視覚的には「別パーツ」として認識できる。実際に使ってみてもタッチパッドを押し込んだ感触はかなり明瞭に認識されて驚いた。その再現度は「あれ?この評価機って実は従来のモジュールを流用しているんじゃないの?」と思ってしまうほどだ。

また、ハプティックコラボレーションタッチパッドの“コラボレーション”とは、対応するアプリケーションが起動したときに、機能キーをタッチパッド領域に表示して利用できる機能のことだ。評価作業時点ではZoomのみの対応だが、それでも、内蔵カメラのオンオフ、画面共有、コメント入力、マイクのオンオフといった「思い立ったらすぐ切り替えたい」設定を、タッチパッドに指を置いた状態からすぐに利用できるのは意外と便利だった。

ハプティックコラボレーションタッチパッドに対応しているZoomを起動するとタッチバッドに機能アイコンが表示される

キーボードには暗所タイプ用のLEDを組み込んでいる。ただ、点灯すると刻印が見やすくなるので明所利用でも有効だ

搭載するディスプレイは、解像度が2,560×1,600ドットで、アスペクト比が16:10。ノートPCでは一般的なフルHD(1,920×1,080ドット)対応ディスプレイと比べて、縦方向の表示情報量が多い点が特徴だ。先日レビューで紹介したLG gram 16も同じ16:10で2,560×1,600ドットだったが、ディスプレイサイズがひとまわりコンパクトなので、フォントの表示サイズも細かくなる。LG gram 16ではスケーリング設定を100%にしても実用できたが、Latitude 9440 2-in-1では150%設定が妥当だった。

2560×1600ドットと16:10で14型ディスプレイとしては高めの解像度。色も鮮やか

ディスプレイの上に内蔵したカメラは1080pと顔認証対応IRを用意する

本体搭載のインタフェースは、3基のThunderbolt 4(USB Type-C)とnanoSIMスロット、ヘッドホン&マイクロ端子を用意する。無線インタフェースとしては、Wi-Fi 6EとBluetooth 5.3が利用できる。法人向けモデルではあるが、HDMI端子は搭載していない。

左側面には2基のThunderbolt 4(奥の1基はPower adapter portを兼ねる)、nanoSIMスロットを備えている

このように本体にnanoSIMスロットを用意しているが、eSIMも利用可能だ

右側面にはヘッドホンとマイクのコンボ端子とThunderbolt 4を搭載する

正面。2つ見える“穴”はステレオマイクアレイ

背面。ヒンジの内側にある2つのスリットは排熱用だ

評価機材のCPUには第13世代Intel Coreプロセッサの「Core i5-1345U」を搭載している。Core i5-1345Uは処理能力優先のPコアを2基、省電力を重視したコアを8基組み込んでおり、CPU全体としては10コア12スレッドを利用できる。TDPはベースで15W〜55W。グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用し、演算ユニットは96基で動作クロックは1.25GHz。vProに対応している点もポイントで、機能を制限したvPro Essentialではなくフル機能が利用できるvPro Enterpriseに対応する。

その他の処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR5-6400を採用していた。容量は16GBで、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量256GBのSSDで、試用機にはSOLID STATE STORAGE TECHNOLOGY製「CL4-3D256-Q11」を搭載していた。

Core i7-1360Pを搭載した16ZB90Rの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Night Raid、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-1260Pを搭載し、ディスプレイ解像度が2560×1600ドット、システムメモリがLPDDR5-5200 16GB、ストレージがSSD 1TB(PCI Express 4.0 x4接続)のノートPC(要は16Z90Q)で測定したスコアを併記する。

CPU-ZでCore i5-1345Uの仕様情報を確認する

結果を見ていくと、ミドルレンジの第13世代Core i5では第12世代Core i7プロセッサ比でスレッド数が劣るにもかかわらず、高いスコアが出せている。なお、ストレージの転送速度は比較対象ノートPCのスコアを回っているが、これは比較対象モデルのストレージがLatitude 9440 2-in-1搭載モデルと比べて、転送速度が半分程度に抑えられたミドルレンジモデルであることが影響しているようだ。

バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは10時間14分(Performance 6931)となった。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定している。ちなみに、評価機材が内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値(Battery capacity fully charged)は5932mAhだった。

標準ユーティリティーでは電源モードに関する設定項目を設けており、主に温度管理において「最適化済み」「低温」「静音」「ウルトラパフォーマンス」の4段階から選択できる。それぞれのモードで発生する騒音の音量と本体表面の温度、そして、発熱の影響を受ける処理能力が異なる。

これらの状況を把握するために、発生する騒音の音量と本体表面の温度、そして、発熱の影響を受ける処理能力を把握するために、電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

ただし、「最適化済み」はユーザーのPC使用履歴をAIによって解析して最適な温度管理を実施する「Dell Optimizer」の機能を用いるもので、最適な状況が導かれるまで2週間程度の時間を要するとデルは説明している。今回の評価期間はそれに及ばないので最適な状況になっているとは限らないが、一応、参考データとして記載する。

表面温度、発生音の音圧、3DMark Night Raidのスコアの推移から推察するに、使い始めたばかりの状況において、最適化のモードは静音モードに近い設定がなされているように思われる。また、低温モードではとにかくシステムの温度を下げるためにファンの回転数を上げるとともに処理能力に影響する動作クロックを抑制しているようだ。

ウルトラパフォーマンスにすると発生音は測定値としては相対的に大きいが、実際に聞いた印象としては高音域がさほど感じられず、あまりうるさいと思わない。状況が許すならばウルトラパフォーマンスモードをメインに使っていても大丈夫だろう。

クラムシェルスタイルでは、排気がディスプレイ前面を昇っていくことになる

底面は奥のほうに給気用スリットを備えている

Latitude 9440 2-in-1の価格は6月上旬時時点で83万3729円(税込み、Web直販)となっている。システム構成と比べるとかなり高い設定だ。この理由についてデルに確認したところ、企業向けサポートコストが含まれている他に、筐体素材に再生アルミニウム、海洋プラスチック、ひまし油、バイオベース素材、リサイクルプラスチックなどの再生可能資源を導入していることが「プレミアム素材の使用を中心に若干の高コストにつながっています」(デル広報談)との説明をうけた。

大規模事業所導入を想定したLatitudeブランドだけに、台数が必要となるPCの導入にいくばくかのコストが上乗せになったとしても、環境負荷を軽減するモデルを調達することで、導入した企業の環境に対する取り組みを訴求できるのであれば、それは意味のあるコストといえるのかもしれない。

ACアダプタのサイズは実測で66×55×22mmで重さは222g