エスカレーターを歩かず立ち止まって利用することを義務とする条例が名古屋市でも施行される予定です。この問題でよくいわれるのが、エスカレーターの速度が遅い、ということ。実際どれくらいの速さなのでしょうか。

全国2例目の条例化「エスカレーター歩かないで」

 名古屋市が2023年10月より、エスカレーターを歩かず立ち止まって利用することを義務づける条例を施行します。埼玉県に続く全国2例目。エスカレーターでの事故を防止するための措置ですが、罰則はありません。
 
 そもそもエスカレーターは歩いて利用することを想定しておらず、市はウェブサイトにて、エスカレーター事故の原因の51.9%を「乗り方不良」が占めていると紹介したうえで、一人ひとりの意識を変え、誰もが安心してエスカレーターを利用できる社会を作ることを狙いとしています。


「高速」と表示するエスカレーター。駅のホームからコンコースに通じるエスカレーターで見られた(乗りものニュース編集部撮影)。

 この問題で、必ずと言っていいほど話題になるのが、日本のエスカレーターが「遅い」ということ。確かにSNSでは、外国の駅などのエスカレーターの速さに驚く投稿も多く見られます。日本でも「高速」と表示されたり、「いくぶん速度が速くなっています」という放送を伴ったりするものもありますが、実際の速さはどれくらいなのでしょうか。

 日本エレベーター協会によると、「いくぶん速度が速くなっています」といった放送が流れるものは、多くが分速40m(2.4km/h)だそうです。ラッシュ時の輸送力を上げる必要がある駅などで見られるといいます。

 歩く速度に置き換えてみるとどうでしょう。不動産の案内で「駅から徒歩〇分」などと表す際のスピードは、分速80m=4.8km/hとされているので、速度が速いものでも、歩くスピードの半分以下といえそうです。

 これでも日本においては「速いほう」ですが、「遅いほう」は、実際どれだけ遅いのでしょうか。

遅いやつはトコトン遅い?

 エスカレーターの速さにはちゃんと決まりがあります。建築法令で定められており、エスカレーターの角度により異なるのです。

(1)勾配8度以内:定格速度=分速50m(3km/h)以下
(2)勾配30度以内:定格速度=分速45m(2.7km/h)以下
(3)勾配35度以内:定格速度=分速30m(1.8km/h)以下

 日本エレベーター協会によると、一般的に角度は(2)のものが主流であるものの、スピードを規定いっぱいに設定しているのは稀だそう。スピードとしては(3)の「分速30m(1.8km/h)」が基準になるそうです。

 さらに、スーパーマーケットなど高齢者などがよく利用するような場所では、分速20m(1.2km/h)前後のものが見られるといいます。この時点で歩くスピードと比較すれば3分の1以下ですが、メーカーによってはさらに、分速15m(0.9km/h)の「超低速」や、それより遅い分速10m(0.6km/h)を「低速」としているものもあります。歩くスピードの4分の1ほどの低速もあり得るというわけです。


鉄道会社も近年はこのようなポスターを掲出している(画像:JR東日本)。

 ただ、エスカレーターの右側ないし左側を歩く人が多いのは、やはり、駅のような急いでいる人が多い場所です。商業施設などの遅いエレベーターで、歩行が多いわけでないからこそ、より低速の運転もあるのではないでしょうか。

 ちなみに、横浜高速鉄道は、みなとみらい線横浜駅の「高速」エレベーターについてウェブサイトで、「電車から降車されたお客様がエスカレーター付近に集中し、ホーム上が大変危険な状態となることから、混雑解消と事故を未然に防ぐために行っております」と紹介しています。高速運転も安全対策の一つというわけです。

「高速運転のため足元をすくわれ、転倒しそうになりましたので安全対策をして下さい」との利用者の声に対し同社は、上記の理由を示したうえで、「ご高齢のお客様や、お身体の不自由なお客様には、ご不便をおかけいたしますが、できるだけエレベーターをご利用いただくようお願いをいたしております」としています。