成田空港の平行滑走路の南側に、2002年から地面が大胆に塗られた“緑色の縞模様エリア”を目にしたことがありました。「世界でも類を見ない」ともかつて報じられたこの区画は、なぜ誕生したのでしょうか。

「航空機の誤着陸」を防ぐため

 筆者は、成田空港第2・第3ターミナルの向かい側にある「平行滑走路」の南側で、路面を大胆な“緑の縞模様”に塗ったエリアを目にしたことがあります。これができたのは、平行滑走路の供用が始まる直前の2002年で、インターネットの航空写真でもまだ見ることができるものがあるようです。この縞模様はなんだったのでしょうか。
 


成田空港にある「緑の縞模様」(国土地理院の航空写真を加工)。

 縞模様の目的は「航空機の誤着陸」を防ぐ、というものだそう。平行滑走路の供用が始まる2か月前、当時の新聞に「迷彩」という言葉を使い、その目的が記載されています。というのも、ここは並行滑走路のもともとの予定地でした。

 現在、平行滑走路として供用される北側部分と、予定地だった南側の間には、空港反対者の家屋や敷地があり、南側から進入した機体が予定地のままの部分に誤って着陸すれば、大事故になりかねない恐れがあったからです。

 滑走路(の予定地)を誤認させないようにするために設けられたこの縞模様。当時の新聞にも、「欧米の空港でもない異例の措置」と書かれています。

 当時、空港勤務者に聞いた話によると、縞模様の登場には、国内外で直近に起きた重大インシデントや事故が影響を与えていたそう。重大インシデントは、2000年2月28日夕方、羽田空港で日本エアシステム(JAS)が供用前の新B滑走路への誤着陸した事案です。事故というのは、同じ年の10月31日深夜に台湾で起きたシンガポール航空の離陸失敗事案のことです。

 前者では、JASのダグラスDC-9が、滑走路に「×」印の使用禁止標識が描かれているにも関わらず着陸してしまいました。台湾の事故は、補修のために閉鎖された滑走路にシンガポール航空のボーイング747-400が誤って進入して離陸し、工事用車両などに衝突したもの。この事故では死者も出ています。

実はなくても大丈夫じゃ…「ナゾ区画」誕生の背景

 成田空港のB滑走路は、これらの重大インシデントと事故の2年後にオープンしています。当時を覚えている空港勤務者によると、やはり誤って滑走路手前の予定地へ降りることが心配され、平行滑走路の予定地に縞模様が設けられたそうです。

 ただ、実は多くの航空機では電波で誘導されており、照明設備もあるため、視界が非常に悪い荒天でも安全に誘導され、着陸できます。同滑走路の南側にも、この誘導装置が装備されています。このため、縞模様は「本当に必要なのか」との声もあったとか。


成田空港B滑走路に着陸する旅客機。これは北側から進入(乗りものニュース編集部撮影)。

 しかし、海外でも滑走路や誘導路への誤進入や誤着陸は発生しているほか、滑走路とその予定地の間に家屋がある空港自体、あまり例を聞きません。

 それに加え平行滑走路はオープン時の全長が2180mしかなく、空港反対闘争を象徴した存在だったため、マスコミも問題点を多く探そうと取材に熱を上げていたそうで、そういった内容が多く報じられています。新滑走路供用へ向けて緊張が高まる状況下で運用者側は、他空港での「失敗の教訓」から、少しでも安全を高めようとしたのでしょう。こうしてオープン直前の3月、縞模様が姿を現したのです。

 緑色の縞模様は、とてもセンシティブな時期と環境下で安全運航を確保しなければならないなか、1つの空港にとどまらず問題点を洗い出し、万全の策を練って生み出した産物だったのです。